第18話:園遊会
俺は園遊会場に戻って、使用済みのグラスや食器を下げている。
そして、勝手にいなくならないようにと釘を刺されてしまった。
(むぅー)
今のところ、こちらでは問題は起こっていない。
貴族や商人が引っ切り無しに、王様と王妃のもとへ挨拶に向かっている。
「ステラフィールさん、あっちの皿を回収して」
「はい」
「そこの、ちっちゃいの、そっちのグラス回収お願い」
「はい」
「ファルケン子爵がお帰りです、コートを用意して」
「はい」
ここは、戦場であった…
このごった返した招待客を、限られた女官やメイド、給仕人でまわすのだ。
その中で、王様へ近づくものの監視と、女官見習いのふたつをこなすのは…
(無理だよ!ふざけるなちくしょう!)
「ステラフィールさんどうかしましたか?」
「なんでもないでーす」
まあ、王様には、儀礼用甲冑を着た近衛騎士が四人。
執事服姿の護衛、現代風に言うとSPが五人ついているようだった。
動きと目線で分かるよ。そんなにギラギラした目で女性を見ていただけの人というオチだったらビックリだ。
なので物理的な暗殺は難しいだろう。
昨夜の女性二人の足跡は、夜に王城にいたことを考えると、王城で仕事をする人だろう。
(そうすると…)
貴族令嬢で身元がしっかりしている女官ではなく、平民が就くメイドに紛れている可能性が高い。
怪しいやつか…
見たこともなく、挙動が不審なやつだ…俺は周囲を見渡す。
…
……
………
(うん、わからない)
ここに来て日の浅い俺に、怪しいやつがわかる訳がない。下手するとキョロキョロしている。俺のほうがよっぽど怪しいじゃないか。
「おい!そこのちっちゃい女官!」
(ん?)
俺が使用済みグラスを運んでいると、いきなり居丈高に呼び止められた。
「はい、なんでございますか?」
男は病的に細くひょろっとした貴族だった。怪しすぎて逆に怪しくなくなるタイプだ。
「陛下への拝謁はいつになれば順番が来るんだ!」
(えーそれ聞くの?)
俺はビックリした。拝謁は侍従や典礼官が、爵位や貢献度によって厳正に決めるものだ。急かしたり異議申し立ては王家への不敬にあたる。家門の恥だし、無能の烙印を押される行為だよ。
ザワ…
近くにいた貴族や商人からざわめきが起こる。
「ラストン辺境伯?」
「先代が亡くなって継いだらしい」
「戦場から一人逃げたらしく、降爵して今は子爵らしいですわ…」
「魔物に領地のほとんど奪われた没落貴族か」
(なるほど…)
しかし、自己紹介を聞かずとも、噂話しで情報が伝播するって怖いな…
「うるさい!お前のせいだぞ女官!」
(なんでやねん)
ラストン子爵は真っ赤になって俺に怒鳴る。
「申し訳ありません、私の職責では分かりかねます
直接、あちらの典礼官にお聞きくださいますようお願いします」
「ちっ」
「あ!」
舌打ちをすると、俺を突き飛ばして離れていった。
「ちっちゃい女官さん、大丈夫ですか?」
倒れた俺を、教会関係者の一団らしい、シスターが俺を助け起こしてくれた。
聖女さんかな?
「いえ、ありがとうございます。どうか、お気を使わず、園遊会をお楽しみください」俺はそう言って頭をさげる。
「大変ね。頑張って」
俺は倒された時に落してしまったグラスを拾い上げると…
ドォォォォオオオン
「「きゃーーーーーーーー」」
大砲のような音と、複数の女性の悲鳴が聞こえてきた。
俺が思わず頭を低くしてしまうほどの、衝撃的な音だった。
俺が顔を上げると、先程の男。ラストン子爵が、ダブルバレルフリントロック式銃を王に向けて構えていた。銃口からは硝煙が立ち昇っている。
そして王の足元には騎士が一人…倒れていた。
(え、なんで?)
体重のある男性でも、女性でもないあの男が…
「ひゃはは、なんで俺を降爵するんだよ!
俺は辺境伯だ、侯爵や公爵より大きな領地と軍があるんだ、それが子爵だと。はっ、バカも休み休み言いやがれ!」
「お前にはもう、領地も、軍もないだろう!」
騎士の一人が子爵に言葉を投げかける。
「煩い煩い!」
「前伯爵は優秀勇敢な方だった、騎士として尊敬していた!」
「煩い!!」
ドォォォオオオオン
子爵は、騎士に向かって発砲した。
騎士は刃を傾斜させ弾丸を弾くと、
子爵に踏み込み、子爵の歪ませた顔に一刀を叩き込んだ。
しかし、俺はそれよりも気になっていた事があった。
それに向かって、持っていたグラスを投げつける。
パリィイン!
王の後方で、王に剣を振りかぶっていたSPに当たり動きを止めさせるのに成功する。
「貴様!?」
グラスの割れる音に気づいた騎士と、他のSPが一斉に見て、剣を構える。
「ジャック。お前何してんだ!」
SPはジャックというらしい。
「ははははは、こんな寸劇。俺は好かん、ここからは好きにさせてもらうぞ」
(なんだ、誰に話している?)
周りを見渡すが、誰に話しているのかは見て取れない。
ジャック(仮)は、騎士とSPに囲まれるも泰然としていたが。
一瞬で一回り大きくなると、肌色の肌が青黒く色を変え、白目が黒く濁り、蒼い瞳が赤へと変貌していった。
魔族だ…
「「「きゃーーーーーーーーーーー」」」
「「「うぁーぁぁあぁあああああああ」」」
園遊会の参加者、特にご婦人方と商人は逃げ惑い始める。
中には腰を抜かして立てないご婦人もいる。
男性貴族は流石に逃げ惑う事は無い。
だが、帯剣していない無手の貴族など何の役にも立たない。そうなると逃げない選択は単に邪魔な存在だ。
騎士が、逃げる招待客と入れ替わりにどんどん出てくるが、魔族相手には戦力がまだ少ない。
王には、先ほど見かけた、聖女が庇っている姿が見えた。
…さて、俺。どうしようかな…




