第16話:報告
謁見の間
窓から差し込む陽を受け反射する儀礼用甲冑を着た近衛騎士が左右に並び。
王座へ続く絨毯の上に、俺を始め、勇者、宮廷魔術師、剣技指導近衛騎士、聖女で連邦王女までもが膝をついている。
王座に座す王が肘掛けに置いた腕で頬杖をつき。横に立つ宰相が王に耳打ちをしている。
な、なんだこの図は…
勇者の訓練から王城に戻り、顛末を宰相に報告するといきなりこの状態だ。
なんか悪いことでもしたか、心当たりは多々あるが、上手く隠しているはずだぞ。
「大聖女ステラフィールよ」
この雰囲気の時は、呼ばれても返事をしてはいけない、言葉を発するのは許可が出てからだ。
「此度遭遇したドラゴンにつき報告せよ」
「一同、面を上げよ。発言を許可する」
宰相が声を張り上げる。
「ご報告申し上げます。
此度遭遇したカルディ渓谷に現れたドラゴンは―」
一拍置く。
「鋼鉄の鱗に、灼熱のブレスを吐く身の丈30メートルにおよぶ巨体のメタルドラゴンでした」
「そのようなものが居たと申すのか」宰相が驚きを露わに、マリアを見る。
「真実でございます」マリアが同意を示してくれる。
「何ということだ、大聖女よ続きを」
「灼熱のブレスは大地を溶岩の如く変え。
その咆哮は大地を割り。その歩みは巨大な穴を穿ちました」
「恐ろしい」
「もしも、王都に現れていたなら、壊滅もありうる魔獣でした」
「なんだと…」
「そんなモノが渓谷に居たというのか」
「大聖女と連邦王女の報告だぞ、嘘であるものか」
謁見の間にどよめきが起こる。
「しかし、我らには勇者がいました。我が王国の勇者。惺様、紫様、迅様。加勢に駆けつけて下さった連邦の勇者。煌様、氷河流様」
俺は立ち上がり手を大きく広げ、高らかに声を上げる。
「ドラゴンとの天地開闢の戦いは昼夜にわたる壮絶なものでした…ですが勇者と聖女が力を合わせ見事打ち倒すことが出来たのです」
「うおおおぉぉぉぉおおおお」
謁見の間に、割れんばかりの驚き。
「勇者!勇者!勇者!」
割れんばかりの声援が起こった。
並んだ近衛騎士の後ろには、ひしめき合う貴族や商人が居て、声援を送っているのだ。
実はこれ、勇者の宣伝活動の一種であった。
成果を報告し、お金持ちに出資を募るのだ。
どこの国も長い戦いでジリ貧で。国とはいえ貰えるものは貰う。そういうスタンスでなければ国家運営はままならない。
(だから話も盛ってます)
大概は年次報告や、戦後報告で行うのだが、今回はマリアが連邦王女の権威で人を集めてくれた。
***
茶番の後、王の執務室に王と宰相、俺とマリアが集まっていた。
「宰相、どれくらい集まりそうか?」
王が、机に広げられた書類を見ながら尋ねる。
「これくらいかと...」
宰相が、金額を示す。
「ふむ、今回は結構いくな」
王が満足げに頷く。
「渓谷のインフラは賄えそうですか?」
俺が恐る恐る尋ねる。
「大聖女様、なんとか捻出できそうです」
宰相が、優しく微笑む。
「良かったわねステラ」
マリアが、俺の肩を叩いた。
「ありがとうマリア。人を集めてくれて助かったわ」
ホッと一息つくことができた。
俺は、ソフィーテアさんに泣かれたのが堪えていたのだ。
これから子供が生まれるらしく、減給は厳しいとの事だった。
宮廷魔術師なのに世知辛い…
勇者の頃は、こんなこと考えもしなかった。扉を閉めるそれだけを考えていれば良かった。
しかし、大聖女になってからは、こんな汚い世界も付いてまわるようになった。
資金繰り、根回し、茶番...
なんで、こうなったのだろうか…
ふと、王様の顔を見る。
だんだん記憶が蘇ってきた…
あれは、たしか…
***
俺は10歳の時、第37王女付きの女官見習いをしていた。
第37王女は俺と同い歳なので、侯爵令嬢の俺にお声が掛かったらしい。
仕事内容は、手紙を持ってきたり、話し相手になること。
貴族令嬢は、デビュタント―貴族令嬢のお披露目―前は、公の場所には出られない。出ると家門の恥とされてしまう。なにより貴族令嬢は酒蔵に眠らせたワインのような存在で早く出すと価値が無くなる感じなのだ。
普通の貴族令嬢なら、女官はデビュタント前に王城に務められ、王族や貴族の男性と接点を持てるので非常に魅力的な話しとなる…だが、俺は三十路前のオヤジの記憶があるので、そんなシチュエーションは御免被りたい。
「ステラ。今日は?」
縦ロールの金髪に、碧い瞳の王女が乗り出して俺に聞いてくる。
「はい、シャルロット様。昨日が速度の求め方でしたね、今日はエネルギーの求め方にしましょうか?」
「はーい」
「シャルロット様、私の話って面白いですか?」
「面白いわよ、この前先生に、地動説の話をしたら驚いていたわ」
(あわわわ)
「姫様、姫様その話は他の人にしてはいけません」
「嘘なの?」
「嘘ではないです、真実なのですが…」
(王族や知識人は気づいていると思うが、教会関係者に聞かれると不味い気がする)
「人々はまだ天動説を信じられているので…」
「えーつまんない。
じゃあ話しても良くって、みんなが驚くの教えてね」
「わかりました、では…」
(この子、好奇心旺盛で物覚えも良いから、何でも教えちゃってるんだけど…
問題ない…よね?)
***
「ねえ、ステラ。明日は東の庭園で園遊会が催されるんですって、いいわよねー
私も早く参加できるようになりたいわ」
「そうですね。シャルロット様なら、きっと殿方が放っておかないでしょう」
「私は綺麗なドレスと、食事やスィーツが気になるの。ステラがいつまでも傍にいてくれれば、殿方なんかいらないわ」
「はあ、ありがとうございます」
「そうそう、その園遊会ですが、私も給仕として駆り出されることになりました」
俺は思い出したように言う。
「えーズルいー」
(いや、給仕だよ、仕事だよ、飲み食いできないんだよ)
そんな会話が交わされた夜。
俺は、園遊会の準備にも駆り出されてしまった。
テーブルへクロスを貼ったり、装飾のお手伝いだ。こういう作業は、出来るやつに集まるのはずだが、なんで手を抜いている俺のもとに集まるのか謎でしょうがない。
「あの子小さいのに私たちより上手なのよ」
「全部任せたほうが、間違いないわね」
俺のエンジェルイヤーに
なんか俺のことを話す不穏な会話が聞こえた…
(くそ、手の抜き方が足りなかったか!)
「明…日の園遊…会…で」
(ん、何だこの会話は?)
「王と…王女を狙う…」
(え?何この不穏な会話)
「抜か…りは…な…いな」
(えーどうしよう)
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