第15話:メタルドラゴン
大気そのものが震え、熱が空気を歪ませていく。
鎌首をもたげたドラゴンの口腔が開かれ暗い青が黄色、そして赤へと変化していく。
そのドラゴン信号の前で、迅は呪文を詠唱し、煌は高速で移動しつつペシペシレーザーを撃っている。
(時間がないってのに。何やってんだよアイツら!)
俺は頭を抱える。特に煌が高速で移動しているので質が悪い。
(致し方ない)
俺は、迅と煌の軸線が合ったときを見計らい――
煌を超える速さで…ドロップキックを放った。
「ぎゃふ…」
煌が轢き潰された何かのような声を出した。
そのまま、煌を迅へぶち当てる。
「げふっ」
迅が巻き込まれて倒れる。
(すまん、時間がないんだ許せ!)
俺は倒れた二人に覆いかぶさってセイントウォールとアイスウォールを同時展開する。こうでもしないとマリアの方にまで攻撃が行きそうだからだ。
コォォォォォ...
ドラゴンの口から、ついに炎が溢れ始める。
ゴグワヴァァァアーーーーー
ドラゴンが間近でみると超新星かと思われる炎を吐き出す。
《フェノム・フレア》並みの熱量が広範囲に広がり、大地を溶かす。
アイスウォールは一瞬で蒸発してしまう。
セイントウォール頼りになることを悟った俺は、直ぐに九重に重ね掛けを行う。
一枚、二枚、三枚とセイントウォールが剝がされていく。
これだけの攻撃を受けるのは久しぶり、勇者時代以来だ。
五枚、六枚と剥がされる。
(あれ?意外とヤバイ?)
八枚…!?
(ヤバイーーどうする、どうする)
だがそこまでだった、ドラゴンのブレスが終わった。ドラゴンも肩で息しているようだ。
周りを見ると、俺と俺の後方、マリアのところまで以外は大地が溶けて灼熱し、溶岩のようになっている。
継続してセイントウォールを張っていなければ、呼吸で肺を焼かれそうだ。
マリアも必死にセイントウォールを保っているようだ。
「迅様、煌様。大丈夫ですか?」
俺は迅と煌に声を掛ける。
俺の下で二人はぐったりしていた。
(あれ?ドロップキック…強かったか?)
そう言えば、煌は昔、時速800キロで移動できるって自慢してたっけ…
んー。そうすると…体重40キロの俺が、時速800キロでドロップキックしたら…
秒速222.2の二乗掛ける体重40000gの割る2だから…えーと。エネルギーは987,456ジュールだって!?
俺はチラリと二人を見る。
完全に意識を失っている…
約100万ジュールって、4トントラックが時速80キロで正面衝突してきたくらいかな?
(ヤ、ヤバイ、ヤバイ)
血の気の引いた俺は、目覚めるまで《ヒール》を重ね掛けしてやった。
「ん?あれステラちゃん?」
頭を振りながら、煌が目覚めた。
「煌様、大丈夫ですか?」
「うん...なんか、トラックに轢かれた気分だけど...」
(的確すぎる例えだ...)
「なんだ、この有様は!?」
迅は周りを見て驚きを隠せないようだ。
「ドラゴンのブレスです。お二人とも危なかったんですよ。」
(まあ、ドロップキックの方が危なかったかもだけど...)
「そ、そうだったのか?すまない」
「お二人にお願いです。ドラゴンを倒すため、お力を貸してください」
「ステラちゃんの願いなら良いよ」
「従ってやるよ」迅はじっと俺を見たあと了承した。
「では…」
***
ドラゴンブレスのインターバルに入ったドラゴンの前に俺たちは立つ。
ドラゴンは余裕なのか、馬鹿にするようにこちらを見ているだけだった。
(余裕も今のうちだぞトカゲめ!)
俺は迅の右横に立ち右肩に手をかける。
「迅様は炎の勇者です、その炎は根源の炎、全てを燃やし尽くす炎です、それを信じてください」
「…」
「どうぞ一緒に…其は原初の炎なり」
「そはげんしょのほのおなり」
「全てを燃やす白炎の炎なり」
「すべてをもやすびゃくえんのほのおなり」
「「劫火と化して」」
「「世界の全てを燃やし尽くせ」」
《ヘルブレイズ》
しゅぅぅぅうゔぁぁぁああああああああ!
迅の呪文を経た魔法は、ドラゴンの足下から天を突く火柱が上がる。
がぁあああああ!!
炎を操るドラゴンが苦しんでいる。
硬い龍鱗がドロドロと溶け始め。
肺を焼き、目を焼き苦しみ悶える。
「煌様!」
同じように、煌の左肩に手を置くと呪文を促す。
「輝き照らす」
「かがやきてらす」
「万物の光」
「ばんぶつのひかり」
「「その輝きは全てを貫く力なり」」
「「全ての敵を貫き滅ぼせ」」
《ピアースレーザー》
呪文が完成すると、今までの煌のレーザーとは明らかに違う、巨大な光球を生み出す。
光の檻に閉じ込められた粒子たちが、摩擦の悲鳴を上げながら加速する。莫大な静電気を纏い、青白い光をキラキラ輝かせ始めると電圧が臨界点に達する。
物理法則を書き換える、大奔流の静電加速粒子レーザーが、ドラゴンに向かって軌跡を残す。
ヴァシューーーーーーーーーー………!
一瞬にして猛烈な煙が辺りに立ち込める。
ズズズズゥゥゥウウウウウウン!という音が振動と共に伝わってくる。
猛烈なタンパク質と金属の焼かれた匂いが一拍して周囲に漂う…
「なんだこの威力は!」
振り向くと、煌と迅の髪の毛が、静電気により逆立っているのも気にせず。
自身の魔法の威力に驚いているようだ。
「流石です迅様、煌様」
(感動しているのに申し訳ないけど、今回も俺の魔力を込めてます)
マリアたちもこちらに近づいてきた。
紫ちゃんが、ジャンロックさんの口を両手で必死に押さえている。
(流石だ、紫ちゃん。学習してる)
ジャンロックさんが苦しそうにしているが、紫は離さない。
煙が風により晴れると…
そこには身体の半分が穿たれ消失し、外皮の溶けたドラゴンだったものが静かに横たわっていた。
「もう、大丈夫でしょう」
俺が言わなくても、みんな分かっているだろうが、これは区切りだ。
「お疲れさまでした」
俺はそう言って笑顔で頭を下げる。
「「「「「……」」」」」
あれ?激しい戦いだったせいで、みんな言葉もないのかな。
「聖女ステラフィール」
ソフィーテアさんが、口を開いた。
「なんでしょうか?」
「ここ、商人が通れるかしら…」
「え?」
周りの地形が大きく変わってしまった気が…しないでもない。
「間引きの件、勇者の活躍の件…そしてこの地形の件報告せざるを得ません…」
「はい…」
「私たち…減給でしょうか」
ソフィーテアさんが涙目になってしまった。
あちゃー王様に何か言われるのかなー
王都に戻るのが憂鬱になり、俺は肩を落した。
「大丈夫。私がフォローしてあげる」
マリアの、元気が逆に不安だった。
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