(34)ミス学園祭の大番狂わせ
波乱の幕開けを迎えた二日目は、その後、進展も新たな事件もなく静かに暮れた。
そして学園祭最終日。この日もまた大きなトラブルは起きていない。
唯一の事件らしい事件と言えば……
「さあ、いよいよ一位の発表です! 今年のミス学園祭は──謎のダンサー『カトゥラ・カドゥレ』!!」
人気投票の大番狂わせである。
原因はいろいろと考えられた。
まず影の立役者として活躍していた生徒会執行部役員は、慣例通り受賞辞退。これによりその容姿と目立つ言動でなんやかんや優勝候補最右翼であったヒルデガルトは、多くの支持を集めつつもランキングに並ぶことはなかった。ちなみに『ゲーム』では一位を狙えるはずの『ヒロイン』も『悪役令嬢』も、現実ではそもそもランク外だった模様。……自分が『ヒロイン』として全く機能していないことを厳然たる数値で突きつけられたリリアの凹みようは近年最大のものであったが、残念ながら当然の結果というやつである。
さらに、今年は取り立てて目立つ活躍をした人物が見当たらなかったことが大きい。容色優れた令嬢は各所におれども、学園祭における貢献度や、スター性、カリスマ性などといった有無を言わさぬ牽引力に欠ける者が多く、票が分散してしまったようだ。……なにせ、優勝候補に見込まれていた面々の中にサンドラ・アンハイムやエイミ・シーニスを始めとする例の令嬢集団の名前が挙がっていたほどだ。人材不足が偲ばれる。
そこへ来て、例の「謎のダンサー」である。
二日目、開園一発目のステージ。決して恵まれた手番ではなく、例年人気がある出し物というわけでもないにも関わらず、特別講習クラスの演目はかつてないほどの観客を集めていたらしい。例の怪鳥の舞が、思いのほか人を呼んでいたのだ。
そして、観客にとって怪鳥の舞のインパクトは相当のものだったようで、運良く観劇できた人々から周囲へ口コミが広がり、例の謎のダンサーは水面下で密かな注目の的になっていたのである。「なんかすごかったらしい」から、いつしか「プロ顔負けの演技だったらしい」へとランクアップし、なんなら「絶世の美女だったらしい」とまで尾ひれがつきまくっていたところに、投票用紙にエントリーされていた「謎のダンサー『カトゥラ・カドゥレ』」という項目の絶妙な語呂の良さや字面の面白さが後押しし、トータル十分もない一度こっきりのダンスステージしか出番のなかった謎のダンサーが、軽率に僅差の一位を獲得してしまったのである。
突出したヒロイン不在の人気投票で起きてしまった珍事件。
まあしかし、その経緯自体はどうでもいいだろう。
問題は……『カトゥラ・カドゥレ』の名を、誰が知っていたか、だ。
「わぁぁ……まさかの一位? さすがに想定外……」
暢気なような困ったような声が傍らから上がり、ミス学園祭の結果に魂を飛ばして放心していたカトリーヌははっと我に返った。
──犯人は、身内に。
「……ソ〜キ〜ウ〜スぅぅぅぅー!?」
「えっ、わあああ、ちょっ、カドレッド!?」
「あんたやってくれたわね……!」
「いやそれは不可抗力っていうかっ。カドレッドに内緒で謎のダンサーに名前をつけたいって女帝に相談されて、つい、ね!?」
「つい、じゃない! ヒルデなんかに乗せられてんじゃないわよこの唐変木ーッ!!」
正体不明、所在不明の謎のダンサー『カトゥラ・カドゥレ』が本人不在のまま表彰されているその隅で、人間嫌いの変わり者令嬢と大商会のお人好し三男坊が、必死の形相で追いかけっこを開始したところを目撃した人間はあまりいない。
学園祭の喧騒に背を向けて、いつも以上にひとけのないいつもの池畔へともつれ込んだ鬼ごっこは、カトリーヌの体力が尽きたところで妥協の仲直りとなり、あとはいつものベンチでいつもどおりのんびりと、学園祭の終わりまで時間を潰すだけ。
まるでシャンデリアが落下した事件など存在しなかったかのように、適度に騒がしくも平穏な学園祭が幕を閉じた。
不穏な火種を、学園のどこかに未だ燻ぶらせたまま。




