第079話 悪役令嬢全員集合
今日は予定されていた『悪役令嬢』が一堂に会するお茶会の日である。場所はマルティナの部屋という事であるが、マルティナが私の部屋に来ることは多いが、私からマルティナの部屋に訪れたことは無い。なので、エマに場所を教えてもらいながら進んでいると、寄宿舎の建物から離れた場所に進む。
「エマ、こちらでいいの?」
私が前を歩くエマに尋ねる。
「はい、こちらですよ、大貴族の方や、富豪の方は別棟の寄宿舎にお住まいなんですよ」
大貴族や富豪は、一般の寄宿舎ではなく、スイートルームの様な部屋だと思っていたが、まさか別棟だとは思わなかった。
「ここです、レイチェル様」
「ここって…」
そこにあったのは別棟というか、まるまる一軒家があった。このマルティナの物以外にも、住宅地の様に一軒家が並んでいる。世の中のお金持ちとは結構いるものだと思う。
「あら、レイチェルじゃない、いらっしゃーい」
たまたま、窓から顔を覗かせていたマルティナが声を掛けてくる。
「早めにきたわよ」
「レイチェル、上がって来てよ」
家主であるマルティナからの許可を得たので、私は家の中へと進む。
「エマ、シャンティーを手伝ってあげて」
私はエマにそう告げると、マルティナのいる部屋へと向かう。扉を抜けて部屋の中に入ると、その部屋の大きさと、家具などの装飾品の豪華さに驚く。
「ねぇ、マルティナ…」
「どうしたのレイチェル?」
部屋の凄さに驚くを通り越して、呆れている私に、マルティナは首を傾げる。
「こんな広くて立派な部屋があるのに、どうして貴方は私の部屋をたまり場にするのよ」
マルティナは家主不在にも関わらず、私の部屋で寛いでいることが多い。先日、マルティナが買いあさった少女漫画も置いてあって、マルティナはお菓子持参のネカフェ状態ですごしているのだ。
「あぁ~そこ? そうね、私ってもとはやっぱり日本人の一般庶民でしょ? こんなに大きくて立派過ぎる部屋だと、なんだか落ち着かないのよ」
マルティナにそう言われて、転生した直後の事を思い出す。見知らぬ大きな部屋で落ちづかず、ベッドの上だけが自分の居場所だと思っていた時代が私にもあった。
「そうね、確かにそうだわ。私も転生したての時は、自分の部屋が落ち着かなかったわ」
「でしょ? だから、レイチェルの部屋のようなシンプルで質素な部屋が落ち着くのよ」
マルティナはやっぱりそうでしょうという顔をする。
「わかったわ、たまり場にするのはいいけど、寝床や巣にはしないでね」
私は一応マルティナに釘を刺しておく。
「えぇっ…そうなの…じゃあ、ソファーで我慢しておくわ」
何をどうソファーで我慢するのか分からないが、寝床化は計画していたようだ、釘をさしておいて正解である。
「それよりも、私が一番最初なの?」
「えぇ、そうよ、他の皆は寄宿舎からではなく、それぞれのタウンハウスからだからね」
「そう言えば、マルティナの所はタウンハウスはないの?」
マルティナも侯爵家でマルティナの様子を見ていれば、実家のジュノー家がお金に余裕がないわけがない。
「あぁ、私の家は、タウンハウスと言うより、取引事務所の様になっているから、住むというより、住み込みになっちゃうのよ。それにせわしなく従業員の行き来があるから落ち着かないの」
それで、学園にこの寄宿舎を借りているのか、贅沢だと思う…
「レイチェルの方にはないの? タウンハウス」
逆にマルティナから問われる。
「私の実家は、帝都から馬車で2時間ほどの郊外にあるから、タウンハウスは必要ないのよ」
「へぇー、そうだったんだ。じゃあ、通学しようと思えば通学できるんだ」
「毎日、片道2時間、往復で4時間、そんなのやってられないわ」
「でも、転生しなければ、向こうで働く時はそれぐらいの通勤時間になるんじゃないの?」
「それは首都圏の話じゃないの? 私の田舎ではそんな事はなかったわ」
しかし、電車や車のある日本でもそんなに時間を掛けて通学や通勤をしている人がいるのか…私も結構、世間知らずのようだ。
「あの~ すみませーんっ!」
私とマルティナが話をしていると玄関から声がかかる。
「誰だろ?」
マルティナが先程の私の時の様に、窓から覗いて訪問客を確認する。
「あぁ、ミーシャ、いらっしゃーい! あがってあがって~」
マルティナが窓から身を乗り出して、玄関前のミーシャに手招きを送る。マルティナはだんだん、貴族令嬢の作法を忘れて、日本人である地の身振りをするようになってきている。
「マルティナ、最近、日本人の地が出ているわよ、もっと注意しないと」
「あっそうだね、最近、身の回りに日本産の品が増えてきたら、地が出ちゃっているかも」
そんな話をしていると、ミーシャが玄関から回ってマルティナの部屋にやってくる。
「マルティナ、来たわよ」
「あーん、ミーシャいらっしゃい! ミーシャったら今日も可愛いわね~」
ミーシャの姿は、薄い黄色とピンクを基調にした、ふわふわした可愛らしいドレスである。マルティナはそのミーシャに抱き付いて頬擦りをする。
「もう、ミーシャ可愛すぎるわ、私の着せ替え人形にならない?」
「ちょっと、マルティナっ!」
先程、地を出すなと言ったばかりなのに、マルティナはお構いなくミーシャに絡みつく。
「あはは、マルティナったら、その言葉久しぶりだね、子供の頃はよくマルティナにそう言って誘拐されそうになったし」
えっ?これは日本人のスズキ・マリコの地ではなく、マルティナ本人の地であるのか…意外と転生前のマルティナと転生後のマルティナは似たような人物なのかもしれない。
「あぁ、ミーシャったら、お日様の匂いがするわ、いい匂い~ それよりも、ミーシャ、バケットを持っているけど、もしかしてお土産を持ってきてくれたの?」
「うん、そうよ。私の得意な動物クッキーよ」
マルティナはミーシャのその言葉を聞くと、ふふんと笑う。
「ミーシャ、後で紙を渡すから、それに作ってきた動物の名前を書いていってもらえる?」
「どうして?」
ミーシャはきょとんとした顔でマルティナに聞き返す。
「それはね…ごにょごにょ…」
マルティナはミーシャに耳打ちをする。
「あぁ! それ、面白いね、やろうやろう!」
ミーシャはマルティナの耳打ちを聞いて、にこやかな笑顔を作って答える。
「今、紙とはさみと書く物を渡すからお願いね。書き終わって畳んだ紙はこの小箱にいれて」
マルティナはミーシャを連れて、別のテーブルで作業を始める。すると、また窓の外から人の物音が聞こえる。数名いるようであるが、声から察するに、コロン嬢、オードリー嬢、テレジア嬢の三人だ。
「マルティナ、コロン様たちも来られたようよ」
私は作業をするマルティナに声を掛ける。
「レイチェル、おねがーい」
マルティナは簡単にそう返してくる。
「いや、お願いと言っても…」
私もマルティナの様に窓から顔を出して、手招きするわけには行かない。
「玄関まで迎えに行ってくるわね」
「ありがとう~」
私はマルティナの部屋を出て玄関へと向かう。玄関の扉を開くと、すぐそこに扉をノックしようとした、コロン嬢の黒い執事の姿があった。
黒い執事は私の姿をみるなり、驚愕の表情を浮かべ、すぐさま後ろに飛び下がろうとするが、その背中をぐっとコロン嬢が押さえる。
「ちょっと、デビド、前もそうだったけど、どうしてレイチェル様から逃げようとするのよ」
コロン嬢は少しご立腹で黒い執事に尋ねる。コロン嬢聞かないであげてください。おそらくこの黒い執事は私に憑りつく存在が見えていて怖がっているだけなのですから。
「コロン様、私は構いませんわ。それよりも、皆さま、本日はようこそお越しくださいました。家主のマルティナに代わってお礼申し上げます」
私は、コロン嬢、オードリー嬢、テレジア嬢に向かって一礼をする。
「あら? マルティナはどうしたの?」
「マルティナは今、お茶会のちょっとしたイベントをミーシャ様とご一緒に準備なさっています。なので、私が部屋までご案内いたしますわ」
理由を告げて、私は皆をマルティナのお茶会の部屋へと連れていく。
「あっコロン様、オードリー様、テレジア様、お迎えに上がらず申し訳ございません」
部屋に入るとマルティナが皆の姿を見つけて、声を掛けてくる。
「別にいいのよ、それよりも本日はお招きいただきありがとうございます、マルティナ。お土産に私の領地でとれた茶葉を持ってきたわ、デビド、お渡しして」
「ははっ、コロンお嬢様」
コロン嬢の前では黒い執事は完璧な所作で行動する。
「私も、お茶会に合えばと思って花を持ってきたんだ、飾ってもらえるかな?」
オードリー嬢は、手に持っていた豪華な花束をマルティナに手渡す。さすが、オペル座の男役。イケメンである。
「すみません、私、なにも持ってこなくて…」
そう言って、目を伏せるのがテレジア嬢である。
「いいんですよ、テレジア様、私も手ぶらでしたし、今日は来て下さるだけで意味があるんですよ」
私はテレジア嬢に慰めの言葉を送る。
その間にも、オードリー嬢の持ってきた花束を飾り付け、皆が席に座り、シャンティーとエマがティーワゴンでお茶の準備と、お菓子を持ってくる。
「さて、準備が整いましたわ、それではお茶会を始めましょうか」
マルティナの声が皆に響いた。
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