第078話 父との連絡
私は寄宿舎に戻ってから、通信魔法陣の準備をする。セクレタさんとの約束を守る為に実家の父に連絡するためである。この世界に置いて通信魔法陣は現代日本で言う所のメール機能付き電話のようなものである。ただし、日本の電話機のような小型のものではなく、サイドテーブルぐらいの大きさがあり、扱いにくいものだ。
私は魔法陣の大きな目印の所に両手を乗せ、魔力を注ぎ込む。細かい魔法操作をしなくてもよい作りになっているので、便利であるが、なんだか、お年寄り用のらくらくホンでも使っているような気分なので、少し自分が恥ずかしい。
魔力を注ぎ込んだ魔法陣が光り始め、メッセージの送信可能状態になるのを見て、私は一度深呼吸をしてから、父に向けてのメッセージを話し始める。
「お父様、ご無沙汰しております。レイチェルです」
そこまで、言ってもう一度息を整える。
「今日、帝都の書店で、以前私の家庭教師をして下さったセクレタさんとお会いいたしました。セクレタさんは今、レグリアス地方ツール郡のとある領地で領主補佐の仕事をなさっているようです」
ここからが、父に向けての提案やお願いになるので、再び呼吸を整える。
「そして、セクレタさんはその領地で転移魔法陣の開発に成功して、今は帝都側の設置場所を捜しておられるそうです。そこで、我が家の封鎖している庭園を使ってはどうかと提案しておきました」
ここでもう一度、息を整える。やはり私は父との会話になれていないのであろう。この世界に来て突然父親になった人物であり、この学園に来るまでの二年間ほとんど会話もしなかった。
こうして、今まで育ててもらった事や、学園に送り出してもらった事には、感謝や恩義は感じているが、まだ親近感を覚えるほどにはいたっていない。
「お父様には相談せずに勝手に話をしたことは申し訳ございませんが、相手の領主であるマールさんという御方は、転移魔法陣を開発できるだけの資金力、そしてそれを成し遂げる技術力、そしてセクレタさんを使いこなす人心掌握力をお持ちの方です。今のうちに人脈を繋ぐことが出来ればと判断して話をしてしまいました」
言い訳はこれでよいだろうか?
「明日、直接、セクレタさんがそちらにお伺いするそうなので、お話を聞いていただければ幸いです。お父様のご健康とご多幸をお祈りしております。では、また…」
そこまで言葉を話してから、私は魔法陣から手を放す。すると、今まで話した内容が魔法に変換され、光の球になって実家のある方向へと飛んでいく。この通信魔法は電話の留守電の様にメッセージを保存する。おそらく今の時間であれば、寝る前か、遅くても翌朝には気が付いてくれるだろう。
魔法を使う事と、父に対して言葉を送ることに気疲れした私はベッドの上に腰を降ろして胸を撫でおろす。なんだか一仕事を終えた気分である。そして、私はベッドに身体を倒す。
さて、これからどうするか、夕食を食べて、お風呂に入って、勉強の予習復習もしなくてはならないし、『悪役令嬢』全員とのお茶会の方針と言うか対策も考えないといけない。
とりあえず、ご飯を食べてお風呂に入ろう。お腹が空いて冷えた状態だと、碌な考えしか思いつかない。身体が満たされれば良い考えが思いつくはずだ。
私はそう思って、ベッドから状態を起こす。
「あれ?」
状態を起こすと、先程の通信魔法陣の上に光球が光っている。誰かからメッセージがきたのだ。私は、魔法陣の所へ行き、メッセージの内容を再生する。
「私だ、お前の父のファルスだ。レイチェル、まだそこにいるのか?」
父からの返信であった。しかも私との会話を望んでいる様である。
「はい、レイチェルです。お父様、ご無沙汰しております」
私はすぐに返信を送る。すると一呼吸おいてから、再び返信が戻ってくる。
「そうか、連絡がないので心配しておった。レイチェル、元気でやっているか?」
父が珍しく私と会話を続け、私の身を案じてくれる。ただ、お互いに相手のメッセージを再生してからの返信なので、テンポが悪いというか、無線でもやっている気分である。
「はい、元気でやっております。お父様こそ、ご健勝でしょうか? それよりも、お父様に相談なく話を進めてしまった事は大変申し訳ございません。お父様のお力に成れればとおもったのですが」
すぐに返信がきたということは、父は私が勝手をしたことに対して怒っているのかもしれない。だから、謝罪と言い訳じみた言葉を送る。
リアルタイムで会話するのではなく、しばらく返答を待つ、この形式は返信が来るまでの間、緊張して心臓に悪い。
「レイチェル、話を進めたことは気にするな。悪い話ではない、それどころか伸び悩んでいる我が領地にとってはこの上ない話だ。だから、レイチェル、お前には感謝している」
怒られるのかもと思っていた私に、逆に父からの感謝の言葉を聞いて私は驚きを覚える。
「レイチェル、お前は私に何か引け目の様なものを思っているかもしれないが、私はお前の父親だ。もっと信頼して甘えてきなさい。そして、一度は帰ってきて顔を見せて欲しい、ここはお前の家で、私はお前の家族なのだから」
私は父のその言葉にようやく気が付いた。私が父にどの様に接したら良いか分からなかった様に、父も私にどの様に接して良いものか分からなかったのである。だから、今までの父は冷たく突き放していたのではなく、接し方が分からなかっただけで、私を見守っていてくれたのである。
『あぁ、側にいてくれた人の気持ちが分からなかったなんで、私も馬鹿よね…』
私は実家での事を思い出し、様々な思いが胸に込み上げてくる。私はその思いを整理しながら父に返信を返す。
「お父様、ありがとうございます。その様にお気遣い頂き、レイチェルは幸せです。一度、時間を作って自宅に帰ろうと思います。その時はまたご連絡申し上げます」
私の思いの言葉を詰めた光の球は、父のいる領地の方向へと飛んでいく。そして、再び父からの言葉の詰まった光の球が帰ってくる。
「その日を待っている。それまで達者でいるのだぞ、我が娘レイチェル」
私は父の言葉で身体が満たされたのであった。
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