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悪霊令嬢 あくりょうれいじょう ~とんでもないモノに憑りつかれている私は、そのまま異世界に転生してしまいました~  作者: にわとりぶらま


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第109話 真実の愛情

 私はトゥール家の馬車をお借りして、目的地のオペル座に辿り着いた。あの後、私の申し出は、トゥール卿にすんなりと受け入れられたのだ。


「私に大切な事を気付かせてくれたレイチェル嬢のいう事だ、何か考えをお持ちなのであろう」


 その一言で、執事のレプトさんも承諾して、先程の馬車と御者の人を私に回してくれた。私は、その馬車の中で先程流した涙を拭いつつ、オードリー嬢に対立する決意を固めていた。


 そして、馬車がオペル座の前で停止し、御者が到着を告げる。


「レイチェル嬢、オペル座前に到着いたしました」


「ありがとうございます。私の我儘を聞いて下さって」


 私は馬車を降りながら御者に礼を告げる。


「いえいえ、こちらこそ、レイチェル嬢には返しきれない程の御恩ができました。旦那様のご相談相手になって下さった事や、その命を救って下さった事、そして今、オードリーお嬢様を説得して頂くのです。もはや、トゥール家、皆の恩人と言っても過言ではございません」


 そう言って、御者はまるで英雄でも見るような目で私を見るので、私は少し照れて恥ずかしく思ってしまう。私自身は、単なる小娘でしかない。その単なる小娘の言葉をトゥール卿が取り合って下さったので、今があるのだ。


「いえ、私の事など、大したものではありません。私の様な小娘の話をちゃんと取り合って下さったトゥール卿の懐の広さのお陰です」


「旦那様がいくら懐が広くても、中に何もなければ、ただ空っぽの胸の内です。レイチェル嬢はその旦那様の胸の内に、様々な想いを詰め込んで頂きました。なので恩人にはかわりありません!」


 ここまで褒められると、なんだかその気になってしまうが、慢心せずに気を引き締めないとオードリーは説得できないであろう。


「では、行ってまいります」


 私はオペル座の入口に足を向ける。


「行ってらっしゃいませ!」


 その私の背中を御者は敬礼して見送ってくれた。私は武人ではないが、こうして軍隊の様な敬礼で見送られるとなんだか勇気が湧いてくる。


 私はオペル座の中に進むと、まず受付の所へと向かう。


「あの、すみません」


「はい、なんでしょうか?」


 受付のオペル座の新人が私の声に答える。


「こちらにオードリー・ミール・トゥール様が御滞在だと思うのですが、部屋を教えて頂けますか?」


「失礼ですが、どちら様でしょうか?」


 受付の新人は身元を尋ねてくる。


「私は学園の同級生のレイチェル・ラル・ステーブです。マルティナ・ミール・ジュノーの友人です」


 オードリーはマルティナの所に泊まっていたので、彼女の名前は受付にも伝わっているかも知れない。


「少々、お待ちいただけますか? 只今、問い合わせて確認してまいりますので」


「よろしくお願いします」


 私がそう答えると、受付は別の人員を連れて来て、奥の通路へと消えていく。私はすぐに戻ってきて返事がもらえるものと考えていたが、結構待たされた。五分程、経ってようやく戻ってきて、私はオードリーの所へ案内されることとなった。


 その途中、オードリーがいるのはこの建物だと考えていたが、そうではなく、二階の陸橋を通って別の建物に移動する。そこはどうやら、オペル座に務める役者の寮のようで、もうすでに役者になって舞台に上がっている者や、役者の卵たちと行き交う。そうして、私は客室と思われる一室に案内される。


「オードリー様はこちらでございます」


「案内してくれてありがとう」


 私が礼を述べると受付の新人は一礼して去っていく。私は扉をノックして返事を待つ。


「レイチェルだね、どうぞ」


 中からオードリーの声が響く。


「失礼いたします」


 私はそう答えて、部屋の中へと進む。そこはやはり客室で、急遽ベッドを用意して寝泊りできるようにした部屋であり、その中央にオードリーは立っていた。


「やぁ、レイチェル、よく来てくれたね。マルティナの事で来てくれたのだろ? 私はマルティナの事を心配していたんだ、なんの連絡も無く、メイドと共に姿を消してしまったからね。君も姿が見えなかったので心配していたんだよ。それで、マルティナは無事だったんだよね?」


 確かにあの事件で私もマルティナも、シャンティーも、事件の後処理と私の看病とで、皆の前から姿を消していたので心配をかけたであろう。


「心配をおかけして申し訳ございません。マルティナもメイドのシャンティーも、そして私もこの通り無事でございます。私たちが姿を消していた事は後ほど、改めてお話いたしますが、オードリー様にお願いがございます」


 私たちが無事という言葉を聞いてオードリーは安堵の表情を浮かべる。


「そうか、みんな無事だったのか、それでお願い事とは?」


 私は真剣な眼差しでオードリーに向き直って告げる。


「オードリー様、実家のお屋敷にお戻りください」


 私の言葉でオードリーの顔が一瞬で強張る。


「どうして!? 私がレイチェルの部屋やマルティナの家で待っていなかったのが悪かったのかい?」


 オードリーは自分が私たちの機嫌を損ねる事をしたので追い出されると勘違いして、狼狽える。


「いいえ、違います。オードリー様、お父上のトゥール卿が倒れられました」


「えっ!? 父が!?」


 オードリーの目が開く。


「はい、今はある程度は回復して安定しておりますが、一時は心停止までの状態になられて、命も危ぶまれました」


「そうか…父はまた心臓発作をおこしたのか…」


 オードリーはトゥール卿の心臓の事を知っていたのか、ならばなおさらここは引けない。


「オードリー様、もう家出ごっこは終わりにしましょう。そして、お父上のトゥール卿の側にいてあげてください」


「だが…しかし…」


 私がそう告げるが、オードリーは顔を逸らす。


「オードリー様、私の話を聞いてもらえますか?」


「話って…?」


 オードリーは顔を逸らしたままだ。


「…私は転生者です」


「何をいきなり…って、レイチェルは転生者だったのか?」


 オードリーは目を丸くして顔をこちらに向ける。


「私の前世は、父が新しい女を作って、母と私を家から追い出し、私たちは小さな部屋で二人暮らしをしていました」


 私はオードリーの様子など構わず話をつづける。


「突然、信じていた夫に浮気され、しかも家からも追い出された母は、女手一つになっても生活の為に昼夜を問わず働き続けて、そんな状態でも私を気遣って大切にしてくれました」


 男女の役柄が逆になっているがオードリーと似たような状況なので、彼女は私の話を聞き入っている。


「しかし、私は突然、事故に巻き込まれ命を失いました。私の為に頑張っていた母を一人残して…」


 オードリーは目を伏せる。


「私は、母から数えきれないぐらいの一杯の愛情と恩義を受けました。仕事で疲れているはずなのに、私の話を聞いてくれたり、誕生日には家計が苦しいはずなのに、プレゼントや料理を準備してくれました。本当に返しきれないぐらいの愛情と恩義です…」


 私は母との思い出を語ったので感情が高ぶってきて、声が震えてきた。


「でも、私は何一つ、母にその愛情と恩義を返す前に、死んでしまいました…」


 ダメだ…瞳が潤んでくる…


「普通に死んだのであれば、魂だけの存在にでもなって、母を見守る事も出来たでしょう…でも、私は、母がいた世界とは別の世界であるこの世界に、転生してしまいました…」


 瞳から溢れ出た涙がとめどなく頬を伝って落ちていく…


「私はもう、母に愛情や恩義を返す事も、魂だけの存在になって見守る事も…もう、何もかも出来ないのです…!!」


 オードリーは唇を噛み締める。


「確かにオードリー様のご両親は色々あって、今は別々に暮らしているので本当の愛ではなかったのかもしれません…」


 男女は互いを選ぶことが出来る…


「トゥール卿は私がオードリー様の友人や知人である事を知らずに、オードリー様の為に、頭を悩ませながらプレゼントする為の本を捜したり、また、オードリー様との仲を改善する為の相談をなさっていました…」


 しかし、子供は親を選べない。


「ご両親の愛は真実はなかったとしても、トゥール卿のオードリー様に注ぐ愛情は真実ではなかったのですか!?」


 男女は別れてしまえば他人になるが、親子はどれだけしても親子のままなのだ。


「私は…私は… オードリー様に私と同じような思いをして欲しくないのです!!」


 私の声がこの客室に響き渡る。


「…済まない…」


 オードリーは顔を伏せて、肩を震わす。


「私は…私は…子供だった…身体だけ大きくなって大人になったと勘違いした子供だった…」


 オードリーの伏せた顔から、ぼたぼたと雫が落ちて床を濡らす。


「私はただ、駄々をこねて我儘を言って、父の愛情など気付きもしない、本当に馬鹿で愚かな子供だよ…」


 オードリーは涙で濡れたままの顔をあげ、私に表情を見せる。


「母が姿を消した後、私が我儘をいって読み聞かせをせがんだり、演劇をやりたいと言った時も、父は何一ついやな顔はせずに、優しく微笑んでくれていた… どうして、そんな事すら、私は忘れていたのだろう…」


 オードリーはゆっくりと私に近づいてきて、私の手を握りしめる。


「ありがとう、レイチェル…君は私の大切なものを思い出させてくれた…」


「オードリー様…」


 あぁ…良かった…良かった…オードリー様は気が付いてくれた…


「ありがとう、レイチェル…私は、父の所へと戻るよ、これからすぐに…」


 オードリーはそういって、私の手の甲にキスをした後、速足で扉へと向かっていく。


「オードリー様、外で家の馬車が待っています、それを使って下さい!」


 私はオードリーを追いかけながら声を掛ける。


「ありがとう、レイチェル、何から何まですまないね」


 そうして、オペル座の前まで辿り着くと、先程の馬車と御者の姿があった。


「オードリーお嬢様!!」


「やぁ、プペル久しぶりだね。私を家に…父の所へ送ってくれるかい?」


「も、もちろんです!! オードリーお嬢様!!」


 オードリーは馬車に乗り込み、御者は運転席に駆け上る。そして、馬車の窓からオードリーが顔を覗かせる。


「レイチェル、今日は本当にありがとう。後日改めて礼をするよ」


「オードリー様、私に礼をするより、トゥール卿に精一杯親孝行をして下さい。それが私への礼になります」


 私は微笑んで答える。


「ありがとう! では行ってくる…いや、帰るよ!」


 そうして、私は家路に急ぐオードリーの馬車を見送ったのであった。



連絡先 ツイッター にわとりぶらま @silky_ukokkei


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もご愛読頂ければ幸いです。

※はらついの次回は現在プロット作成中です。


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