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異世界でも殺し屋さん?  作者: なきもち
38/42

39話40話

ここから第二章になっていきます。よろしくお願いします。




帝国とクリエストの間にある森の中。危険と言われほとんどの人間が避けて通るこの森の中を索敵をするでもなく魔物への注意をするでもなくただひたすら逃げていた。


「な、何なんだあいつは!?なんであんなバケモンが街の中に……っはぁ!」


息も絶え絶えの中男は必死に走る。


『トンットンッ』


その音は明らかに男の足音ではない。それは男の後ろをずっと追いかけてきていた。


「ああああああああ!なんで!」


そして男は突然走ることをやめた。否。辞めさせられた。


『ドサッ』


ゴロンゴロン。

男は急に体勢を崩すとそのまま地面に転がり倒れた。


「いててて……。なんだ?!」


何かに躓いたのかと足元を見るとそこには真っ赤な塗料を塗ったような地面があり見慣れた足が、男の足が転がっていたのだ。地面に染み込んでいるのは男の膝とその膝から先になった物体から出た血だった。

そしてようやく自らの状況を把握すると突然信じられない激痛がやってくる。


「ぎゃああああああああああ!俺の!俺の足があああ!」


男は膝を抑えながらゴロゴロと地面を転がりまわる。止血しようにもそんな道具は愚かその思考にたどり着く前に”ソレ”が目の前に迫っていた。


「あぁあ………。あああ!」


男の前に現れたのは男より年若く20代前半くらいだろうか。膝の丈まであるボロボロの布を纏っており、見た目はただの村人のようにも見える。しかしその青年はこの世界では少数な黒髪の青年だった。だらしなく背中まで伸びている髪の毛で表情が隠れているがその口元は笑っていた。

そして男の下まで行くと持っていた木の棒で男の頭を殴り始めた。


ゴッ、ゴッ。


「やめて!!やめでぐれええ!………。ひぐぅ……。わざとじゃながっだんだ………。ちょっとお金がほじぐで……。ぶふぇえっ」


男は命乞いをするが青年は口角を上げながら男を殴り続ける。

やがて男は声を上げることもできなくなり青年にされるがままになるがしばらく青年は男を殴り続けた。


「はぁ………。はぁ………。いい…………赤色……。綺麗―――」


青年は男の体から飛び散った血を眺めながら既に事切れた男の体に跨ると男の腰にさしてあった短剣を取り出す。

そして迷うことなく男の腹を斬りそこに自らの手を突っ込む。

ぐちょぐちょと音を立てながら男の死体を掻き回す。そして短剣で器用に体をきざんでいく。そしてその刻んだ部位を………。指を自らの口へ放り込むとまたしてもニヤつきながら咀嚼する。

その青年の目は無邪気なものでただ純粋に遊びを楽しんでいるかのようだった。罪悪感など全くなくそこにあるのは己の欲望を満たして下半身がだらしないことになっている青年の姿だけがあった。


「んはぁ………」


咀嚼音と人体を無理やり貪っている音の中に熱い吐息が混じる。


「ベッ」


そして先程まで味わっていた指を吐き捨てると、また男は満足そうに笑った。


「ははっ!っふぅ………ん」


そしてよがれた指を綺麗に舐めとる。既に男の体は本当に人間だったのか怪しいほどにズタズタにされており、もし一般の人間が見たら即倒するであろう有様で放置されていた。青年は先ほどまで執着していた死体でも興味をなくすとあっさりと離れた。

そしてまだ熱を帯びた目でおもちゃのいる方を………。街の方を見て囁くように呟く。


「もっと………。もっと欲しい……」


そして青年はゆっくりと歩き出す。周りに居る魔物には目も呉れずただひたすら人間というおもちゃを見つけに西へ向けて。

そして周りの魔物もその異質な青年を本能で危険と悟り決して動かずただそこに身をすくめている事しかできなかった。青年は子供が誕生日プレゼントをもらうときのような足取りで森の奥へと消えていった。


青年が十分離れたことを確認した付近の魔物はまだ暖かい男の死体をゴミをあさるかのように貪る。

もちろん青年にとってはそんなことはどうでもよかった。ただ飽きたおもちゃがどうなろうと関係ないのだから。










「ようやく帝国の領土との境目付近に差し掛かりましたね!」


そう嬉しそうに言うのは火の女神であるフレイアだった。

サキ達は崩壊したクリエストの街から東にある帝国の領土へと向かっていた所ようやく国堺付近へ差し掛かった。


「ええ、ですがこの森は魔物が頻繁に出てきてとても危険だと聞いていたのですが………」


丁度その頃、光の女神であるセラはこの森の危険性をあらかじめ知っていたがため、魔物と出くわすどころか静かな森の中を歩いてただけの状況に疑問を抱かずにはいられなかった。

そんなセラの疑問にフレイアは得意げな顔で答えようとする。


「ふふふ!それはねー!ユキさ―――」


「ユキ様とホワイトウルフの……。シロのおかげよ!」


フレイアの得意げな言葉を遮るように水の女神アクエルが割り込みサキとシロのことをセラに説明する。割り込まれて不機嫌そうなフレイアだったが、思っていたことは同じだったようでそこは口を膨らませる。セラはそれを見てクスッと微笑んだ。


「うふふっ。二人共ユキ様とシロのことが大好きなのは少し前からわかってるわよ」


「「な!?そんなことないわよ!」」


二人で口を揃えて否定するが顔はまんざらでもなさそうだ。


「そ、そもそもアクエルが割り込むから私の説明が!」


「なによ!どうせ同じこと言おうと思ってたんだからいいじゃない!」


先ほどと同じく口をふくらませたフレイアがアクエルに物申しているがアクエルは大声でうやむやにしようとする。

三人の女神達が和気あいあいとした空気で居る間もサキは現在地から国境付近にある街がどこにあるかを頭の中の地図で確かめる。

クリエストの冒険者ギルドで覚えてきた地図を思い出しながら自らの場所と照らし合わせる。


うん、そろそろ街?というか村があるあたりなんだけど……。なんか臭うんだよねぇ。


森の中はほんの微かだがサキの鼻腔をくすぐる臭が漂っていた。常人では気づくことができぬであろう臭い。


「ここで少し休んだらこの先にある街に宿をとろうか」


「「「はい!」」」


女神達は休憩と聞くと羽を休めるために近くの切り株に腰を落とした。その間もサキは武器の手入れを怠らない。女神達もこれからのことや過去の話で盛り上がっているようだった。


「それでね!その時アクエルったらどんな顔してたと思う?セラの想像をはるかに超えるさ!ぷぷー!」


「もーー!変なこと言わないで欲しいわ!」


「ふふっ」


いつもどおり仲のいい三人の会話。サキは絶妙なタイミングで言葉を切り出す。会話にできた自然な間を的確に読んだ。


「俺は少し周りの様子を見てくるからみんなはもう少しここで休んでいて」


「ユキ様もしっかり休んで下さい!」


「そうですよ!私達よりもユキ様の方が疲れてると思いますから」


「無理はなさらないで下さいね」


皆サキのことを心から心配しているようだった。サキはそれに軽く会釈をして周囲の探索に出る。先程から気になっていた臭の強い方へと向かっていく。

女神達の気配も薄くなるあたりで刺激臭がする場所へたどり着いた。


「汚い‥…」


そこにあったのは死体。一見すれば魔物にくい散らかされた何か。しかしサキにはわかる。

食い散らかされた大腸に人間の腹部を割いた跡。他にも人体を無理矢理解体したような形跡がいくつもあった。

サキの中には思い当たる節があった。というのも以前……。元居た世界でもこのような死体を目にしたことがあるのだ。それは人を殺すことで愉悦に浸る特殊な性癖の持ち主がホシだった時。そのホシはサキの目の前で組織の構成員を殺し更に死体になっても痛ぶり続け最後には自らの欲望を吐き出した。


どこの世界でもそういうやつはいるって事かな。


しかしこれから宿を構える予定の街の近くに危険因子がある事をサキはよしとはしなかった。そして女神達の様子を見に戻ってみるとまだ楽しそうに話をしていた。それを確認したサキは血の臭と勘を頼りに危険因子を探しに向かった。

探す途中は索敵も欠かさない。そして魔法の練習として杖に魔力を込めてそれをまた自らの魔力へと流す練習をするがそれはなかなか上手くいかなかった。


「魔法も魔力に変換とか出来ないのかなぁ」


マナを媒体にして魔法を顕界してるならその逆も出来そうなんだけどなぁ……。


サキは索敵と散策をしつつ魔法について考えていた。実際サキの考えていることは正しく、マナを媒介にしている一般の魔法であれば魔力に変換し循環させることは可能である。しかしこれには高度な技術と精密な魔力操作が必要なため今のサキにはまだ出来なかった。


「まあ何回か試行錯誤が大事ってことか」


するとサキはまた魔法を魔力に循環しようと試行錯誤を開始する。その作業を繰り返し散策を続けていると視界の端に奇妙な人影を捉えた。


?……。そんなに近づかれるまで気づかないなんて。俺もまだまだだなぁ。


そう思いつつも警戒は怠らない。サキの警戒網に引っかからずここまで距離を詰められたことにサキは少し驚いていた。しかしその人影はピクリとも動かずまるで死んでいるかのようにただそこに立ち尽くしている。

よく見れば二十代前半の程よい難いの男だった。髪は黒く全く手入れがされていないのかだらしなく伸びている。しかしサキは直ぐに理解した。

その青年の目は妖艶さを帯びており事後のような熱を帯びていた。そしてその目がサキを捉えたとたん―――。

青年の姿が消えた。否、青年はその場からありえない速度でサキの方へ突っ込んでくる。


「っ」


サキはそれを左後方へ引くことで避けるがサキが立っていた足元には青年がどこかに隠し持っていたのか、短めの棍棒が深く突き刺さっていた。


「避け………られた……?」


青年は総つぶやきながら口角を上げサキをジッと見つめる。サキもまた何も言わず青年を見つめるが、青年のその目は新しいおもちゃを与えられた子供のように無邪気だった。


やっぱりこういう類の人間か……。


どこまでも赤黒い目をした青年はサキの体を上から下までじっくり舐めまわすように観察する。そしてまたしても口角を上げると小さな………。本当に小さな声で呟くように何かを唱えた。


「プロテクト………。肉体強化…………。今……食べてあげ……るね………」


そう言うと青年の体に魔法陣が一瞬現れ薄オレンジの光が青年を覆うと一瞬で光は消える。しかしサキにはわかっていた。青年の体が先程までとは違い、強化されていることに。それでもサキは動じず冷静にアイテムボックスから持っていた長針を数本取り出すとそれと青年の心臓に向けて投げる。そしてもう一度大きく腕を振り返しその力を利用してもう2本の長針を左右に投げた。


「見えてるよぉ……。……!?」


青年は余裕ぶった顔で初撃をかわそうと左に避ける。しかしその避けた先にはサキが投げておいたもう一つの長針がすぐ目の前まで来ていた。青年は驚いた顔をしたまま人間離れした動きで更に体を左に動かすが長針は青年の腕を掠めると後ろの木にストンと刺さった。

青年は自分の右腕を触ると手についた血を見て笑いそれを――――。


「そっかぁ………。俺の血も……赤……だったんだ………」


嬉しそうな表情でそれを舐めた。しかし青年が自分の指に目をやった一瞬をサキは見逃さなかった。

その瞬間今度はサキがいつも愛用しているジャックナイフを取り出し青年の懐へ一気に距離を詰める。青年はサキの速さに目を見開くがどこを攻撃されるのか一瞬で判断すると体を無理矢理後ろへ後退させた。


『ドサッ』


しかし青年の目を話したその一瞬でサキは距離を詰めよけられることを悟ったサキは更に高速でナイフを振り、青年の肘から先を………。切った。


「え?………」


青年は理解できていない。地面に落ちている腕がどこから落ちたのか。誰のものなのか。

そして青年の見開かれた目は自分の左腕を見る。そこには肘から先が無くなって行き場をなくした血液がダラダラと滝のように流れる光景があった。

しかし青年は叫び声もあげずにサキをじっと見る。そして小さな声で、しかししっかりとサキに向かって話しかけた。


「名前………。おしえて……」


本当に小さな声。しかしサキにはしっかりと聞こえていた。普通であればこんな得体の知れない人間に名前を教えるはずはないのだが、なぜかサキは少し微笑むと催眠を交えながら答えた。


「俺の名前はユキ。君の名前は?」


すると青年は嬉しそうにサキの名前を復唱しながら笑う。止血をするでもなく。ただサキを見つめる。


「ユキ……ユキ………。本当に?ユキっていう名前は………ほんもの?……」


そして困ったような、泣きそうな顔でサキを見つめ問いかけてきた。これにはサキも少し考える。


ただの狂者かと思ったけど……。そうじゃないみたいだね。


青年はサキが逡巡する間に自分の来ていた長い服を無理矢理破くとそれを器用に腕に巻いて止血をする。そして困ったような泣きそうな顔をしてサキの方を見ると落ちている自分の腕を拾いながら囁く。


「じゃあ………。俺が勝ったら……本当の名前………おしえ………てっ!」


その言葉を合図に青年は一気にサキとの距離を詰め拾った自分の腕をサキの前で180度振った。すると腕に残っていた血が丁度サキの両目にあたり視界を封じられる。


「っ……!」


それを好機と捉えた青年は腕を持ち変え爪の方をサキに向かって振り下ろす。気配は感じるが目を封じられていたためサキの反応が一瞬遅れた。

青年の腕についていた爪は尖っており、そのままサキの首元を抉る。そしてその動きは止まらず更に抉り続けようとするがサキは青年の腕を持っていた方の手首を掴みそれ以上動かないように固定する。

しかし全く動かないと思っていた青年の腕は少しづつサキの首元を抉り続けようとする。


「そっか……」


そうつぶやくと、サキは後ろに後退すると同時に青年の腕を引き体を引き寄せると胸を蹴り飛ばした。突然手前に引かれた青年は重心の移動ができずにそのまま奥へ突き飛ばされる。


「カハッ」


ゴロゴロととき飛ばされた青年は肺のあたりを抑えながらよろりと立ち上がる。その頃にはサキの視力は完全に戻っていた。そしてその時のサキは―――――――。


笑っていた。





「久しぶりに、久しぶりに自分の血を見たよ」


その言葉を聞いた青年は狂気に満ちた笑顔で嬉しそうに答える。


「僕は……。初めて………、初めて自分の血……血を見たよ…………!ユキ……普通の人間じゃ………ない……。壊したく………ない……」


嬉しいはずなのに悲しいといった表情をする青年を理解する気がないのかサキは自分の首筋から流れる血を見てまた青年の腕を見る。


「壊したくないか……。じゃあ俺は君を壊してもいいかな?」


サキの表情は怒りの表情でもなく悲しい表情でもなく、ただただ微笑みだった。元居た世界でもサキの体に傷をつけられる者はほんの少数だった。そしてそのどれもがチームを組んでおり、サキをいたぶる目的で襲撃してきていた。

しかし目の前の青年は違う。『壊す』という表現の中に込められた感情は死ぬまで時間をかけて遊びたい『殺したい。壊したい』という感情。欲望。その全てが込められていた。そんな異質な存在に……。この世界で初めて出会った歯ごたえのある敵に殺人マシンとしての素が少し出ていたのだ。ただ今までのように殺すだけでなく自分で『殺してもいい』と思える存在は初めてだった。


サキのその言葉に青年は何を考えているのか武器となる自分の腕を捨てサキの顔を見ると泣き出した。

両膝を地面に落とし青年はすすり泣きを始める。

これにはさすがのサキも理解が出来なかった。


「僕を壊してくれるって………すごく……嬉しいのに………。嬉しいけど……僕が壊れたら………。僕は誰も壊せなくなる…………。殺せないのは……嫌だ………嫌だよ……ゆきぃ……」


サキは目を見開く。

青年の言葉が理解出来なかったわけではない。戦闘が楽しくなってきたのに興ざめしたからでもない。

青年の言葉の中に込められている感情………。考えの中にあるはずのないモノが混じっていたのだ。


「どう………して?」


サキは無意識に声に出していた。

青年の言葉に秘められていた感情は………。サキにとって最も大事な人間が――『サカキ』がサキに向けていた感情と同じだったからだ。

サキは理解出来なかった。サカキのあの時の言葉も感情も理解出来ていなかったのに、目の前の青年はそのサカキと同じ感情を自分に向けてくる。この世界で色々な者に好意を向けられたがその中の何とも違う。それを初対面の人間にされたことでサキは迷ってしまったのだ。

突然動かなくなったサキを見た青年はサキに懇願するように頭を垂れる。


「おね……がい………。なんでもするから……僕に………壊させて?………。ユキになら壊されたいけど………僕はまだ……壊したいよぉ………」


ようやく青年の方を向いたサキは考える。

このまま青年を殺してしまえばこの感情が、理解できないモノがなんなのか二度とわからなくなってしまう。知りたいという欲求。サカキにそう育てられたサキは悩んだ。

もし不意を突かれれば自分でも大怪我は免れないような戦闘力を保持し、謎の魔法まで使ってくる存在。それをみすみす逃すのはどうしたものかと。


別に殺してしまってもいい………。でも、本当にそれでいいのかな……。わからないよサカキ。


サキが考えるようすを見せたこと青年はたれていた頭を上げる。そしてこう続けた。


「ぼ……く、ゆきぃの言うこと聞くから………。だから壊させ………て……。そしたら………僕のことも……壊していいから………ゆきぃ……」


青年はすっかり戦意喪失しており膝を付いたままサキを見つめていた。あとはサキが決めるだけの状況になってしまっていた。どうしてこうなったのか。どうしてこうなる前に殺さなかったのかサキ自身にも理解できなかった。

お互が沈黙に包まれる。

最初に折れたのはサキだった。


「わかったよ……。どうせ殺す予定の人間はいるし、それに―――君の事がもっと知りたくなったからまだ殺さないでいてあげるよ」


サキに嘘は通用しない。そして青年は心からサキの言うことを聞くと言い出した。しかしまだ100%信用したわけでもなかった。嘘がつけなくてもこの戦闘力と、狂人のような思考は危険そのものだった。短い戦闘の中でお互いの実力の半分以上が露見したといっても過言ではなかった。傍から見ればお互いに一撃を食らっただけだがその一撃で実力の差を理解する程の目と頭をこの青年は持ち合わせているということなのだから。


「ゆきぃ………。僕に壊させてくれる……の?」


「うん」


その言葉に青年は拾ってきた子犬のような目でサキの方へ飛んできた。唐突に自分より大きい男に抱きつかれる形になったサキは驚いた。

なぜ自分は今避けなかったのか。


やっぱり今殺しておくべきかな……?


しかし青年から悪意は一切感じず戦意もなかった。それを悟ったサキはため息をつくと青年に問う。


「君の名前は?」


もちろん最低限の催眠を忘れない。この青年には一瞬も気を抜けないとサキは心に決めたからだ。

『欺き続けろ』

大事な人のその言葉はサキの心にしっかりと根付いていた。


わかってるよサカキ―――。


「僕は………、ギデオン……。そう呼ばれて……る………」


「ギデオン………、破壊か……」


「でも……ゆきぃがつけてくれるなら………そっちのほうが……いい………」


俺のネーミングセンスがない事をわかってもらいたいなぁ……。


そう考えながらもサキは名前を考える。なるべくこの世界にありそうな名前を考えるがなかなか思いつかない。他人の名前には元々興味を示さなかったサキ。


「思い浮かばないなぁ………」


その言葉に青年ことギデオンはしょんぼりとした顔になる。今にも泣きそうなそんな目で見られたサキは調子を狂わせられるようにまた名前を考え始める。


変な感情を向けてくるせいで集中が切れそうだよ………。まるでサカキみたいな……。


「考えるからそろそろ離れてくれないかな?」


先程から抱きついたままのギデオンにそういうが一向に離れようとしない。サキが一瞬殺意を込めた目で見つめるがそれに何を感じたのかギデオンの下半身はなぜか高ぶっていた。


「はぁ………。どうして異世界ってまともな人間に出会う確率の方が少ないんだろう……。離れてくれないならここで殺す」


サキが本気だよと言いながらそう言うとギデオンはしょんぼりした顔で渋々離れると待てをかけられた犬のようにサキの顔を見たままじっとする。それを無視してサキは名前を考えるがやはりいい名前は思いつかなかった。


「ぅぁ………」


それを悟ったのかまたしても悲しい顔でサキを見つめてくるギデオン。


「思いつかないものは思いつかないからどうしようもないよ。それにギデオンってすごく似合ってると思うからそのままでもいいと思うよ」


似合ってる。その言葉にギデオンは嬉しそうにサキを見つめる。しかしそれも直ぐに不安そうな顔に変わりギデオンは続けた。


「ゆきぃ………。ユキ……。ユキの本当の名前……知りたい…………」


これだ。サキは何も言っていないのになぜ本当の名前ではないとわかるのか。サキにはわからなかった。


「どうして本当の名前じゃないって思うの?鑑定でもした?」


その言葉にギデオンはしょんぼりしつつ答える。


「なんとなく………。今まで嘘まみれの中生きて……きた………。だから自然となんとなくって……。ゆきぃは本当の名前……僕に言いたく……………ない?」


催眠を使っているわけでもない。変な魔法を使われている感じもしない。しかしサキはモヤモヤした何かを感じずにはいられなかった。


不快感でもない……。自分の感情なのに自分でも理解出来ない………。


これ以上考えても無駄と判断したサキは困った顔で答える。


「確かにユキっていうのはこの世界での偽名だけど、本当の名前を教える義理も必要も感じられないよ」


「うぅ………。誰にも……言わない…………。ゆきぃ……」


また、またこの感覚。気持ち悪いようなモヤモヤした感覚……。どうすればこの感覚の正体が分かるんだろう?


観念したのかサキは本当の名前を明かすことにした。そしてこの世界に来ることになった経緯を軽く説明するとギデオンは自分が何かをされたわけでもないのにまた泣き出す。


「どうしてギデオンが悲しむ必要があるの?当事者は俺なのに」


「だって………。ゆきぃは……サキは僕の……理解者だから………」


何を言っているのか理解出来ないサキは「もういいよ」というとまた名前を考え始める。その間もギデオンは髪をもさもさしながらサキの言葉を待つ。


破壊………。そういえば昔いたかも。


「『ヴィーノ』でどうかな?」


「ヴィーノ………。ヴィーノ…………えへへ」


嬉しそうに自分の名前を大切に復唱する。すべきことはしたという顔でここを離れようとしたサキにヴィーノは思いがけない事を行った。


「僕……サキに………ついていきたい。なんでもするっていう約束……まもる!サキの言うことは聞く……。だから――――」


「突然そんなこと言われてもねえ。俺はまだ君のことを信用してないんだけど………」


「それでも………いいか……ら………」


またこの顔……。不快感でもない、なんだろう?


催眠の効果も芳しくなく、これ以上の説得は無駄と思ったサキはヴィーノを連れて帰ることにした。


女神達に説明………しないとダメかなぁ。


新しい仲間?とこれからの事を考えため息の出るサキだった。

その横をヴィーノは嬉しそうにサキを見つめながらついていくが、サキの歩幅にしっかり合わせ足音もサキに被せていた。本人は無意識なのだろうがサキにとっては不思議な感覚だった。


そういえばサカキの時は俺が合わせてたっけ………。


そんなことを考えているとヴィーノの方から口を開く。


「女神?は僕には………見えないと思うけど……、サキの話に合わせれば……いい?」


「そうだねえそれは行きながら話そうか」


サキはヴィーノに説明をしつつ周囲の警戒をする。ヴィーノはサキを飼い主を見るような目で見ながら先の話を聞きながら歩く。そんな奇妙な二人組は女神たちの居る国境付近まで戻るのだった。












サキの心情も少しづつ変化してきています。これからも楽しんでこの作品を読んで頂ければ幸いです。ブクマ評価大変励みになっております。なるべく早めの更新を心がけたいと思いますこれからもよろしくお願いします。

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