31話32話
今回は2話分投稿です。よろしくお願いします。
しばらくは水入らずで三人仲良く話でもしたらといいサキはまた風呂の準備をいてやると女神たちは嬉しそうにしていた。
セラは初めは驚いていたが二人に促され恥ずかしがりながらも嬉しそうに参加していた。
「じゃあ俺はまだやることが残ってるから皆は留守番お願いね?」
すると二人よりもセラがいち早く反応する。
「もういってしまうんですか?」
ほかの二人は驚いていた。いつもは自分より周りを優先するセラが初めて他の人、それも人間にそのような反応をとったのだから。
しかしフレイアにも同じような部分があったらしくその後は気に求めていなかったがアクエルは違った。
セラがこんな反応をするなんて…………。
ユキ様は本当にいい人だとは思うんだけど何か引っかかるわ………。もし、もしも最悪の状況になったときは私が二人を守らないと……。
サキはそんなことを思っているアクエルの表情や仕草に見覚えがあった。
昔、今のアクエルみたいな感じの人間がいたなぁ。
それは双子の姉妹を守るために死んでも守ると叫びサキを悩ませた人間の女だった。ホシは双子の姉妹であり自分は狙われていない。しかし勝てないと分かりきっている相手にわざわざ立ちふさがったのだ。
その時の女と表情や仕草が似ていることからアクエルもきっとこの二人を守るとかなんとか思っているのだろうと察した。
他人の為に死んだり面倒事に自分から足を突っ込んだり…………。訳がわからないよね。
アクエルのことは特に気にせずサキは出かけることにした。セラからはそのまま二人と同じように名前で読んで欲しいとの要望で名前で呼ぶようにしていたが名前で呼んだときのセラは顔が真っ赤だった。
「大丈夫だよセラ。明日の昼には戻ってくるから、三人ともいい子でお留守番してて。あと皆しばらく外出禁止でいいかな?」
それに対してセラはホッとした。
この人なら約束を守ってくれるという安心からから来ていた。そして二人は外出禁止と聞いていち早くセラのことで周りを警戒しているのだろうと察した。
フレイアは密かに思う。
私たちの為に周りに気を配ってくれる。最初は怖かったけどやっぱりユキ様っていい人だったんだ。アクエルは心配してるみたいだけどそれは逆に失礼なのに………。
フレイアはサキの演技になんの疑いも抱かなくなっていた。
アクエルも最初の頃に比べたらサキへの疑いは段々なくなっていたが、所々の不自然さが気になっているようだ。
信用したいのに信用できない。何かに引っかかる。アクエルはそんな自分すらも嫌になっていた。
しかしこうして仲間を助けてくれたことを考えると疑っている自分は何なんだと胸が苦しくなったりもした。
そんなバラバラの思考の三人を置いてサキは一人外へ出ていった。
留守番の三人組は現状の話や、今までの話、ここまでの経緯を腹を割って話すことにした。
一番驚かれたのはセラの過去だった。禁忌の種を持ち出したフレイアの話もそうだが、皆人間にいいように利用され裏切られてしまっていたようだ。
「禁忌の種は流石に……………」
第一声はアクエルだった。フレイアは顔を赤くしながら答える。
「だ、だって………。アクエルにはわからないよ!!人を好きになるっていうのは………そういうことなの!………よ……」
最後はぽつぽつとしか聞こえなかったがセラにはフレイアの気持ちがわかっていた。というのもフレイアとは少し違うが、同じ人間を好きになっていたからだ。
「私もその気持ちわかる気がするわ」
セラの言葉にアクエルはため息を、フレイアはキラキラした目を向けてきた。
「うんうん!やっぱりセラならわ分かってくれると思ったー!アクエルのひとでなしー!いや、女神なしー!」
「言いたい放題ね…………。まあこうして状況を俯瞰してみると私達女神は人間のために尽くしてきたのに人間は尽く裏切ってくれたわね…………」
「「………………」」
かといって復讐しようとは思わない。
しかしフレイアやセラはそうはいかないだろう。その言葉にフレイアとセラの表情は曇った。
「わ、私は別に…………」
いいごもるセラだがフレイアは違った。
「私は許せない………。約束したのに裏切られて……………。でもユキ様が助けてくれるから!私はそれで平気よ!」
セラはサキの話にハッと顔を上げた。そしてフレイアに問い詰める。
「ねえフレイア!教えて、あの人はどんなお人なの?あなたの今のお話もそうだけど…………」
いつもは二人の姉のようなセラがこうもがっついて来る事に二人が驚くことしか出来なかった。
しかしフレイアはなにか共感できるものを感じたのかサキが変わりに復讐してくれることや、サキがどういう人物なのか一通りセラに話した。
するとセラは少し嬉しそうに「そう、そうなのね」と呟いていた。
アクエルもフレイアがそのような目線でサキを見ているとは知らず驚いていた。そして所々疑っていた自分を殴りたくなった。
なによ………私が先にユキ様に合ったのに二人はあんな嬉しそうに………。
私一人バカみたいじゃない……。
アクエルは自分の気持ちがわからなくなっていた。それは二人の話を聞いたからと言うのもあるが、自分の気持ちに正直になれずにいた事が大きかったのだろう。
その後女神たちはサキの話や今後の方針について話していると気になることがあった。
「そういえば、二人はユキ様と契約しているのよね?」
「「う、うん」」
しかし二人は後ろめたいことがあるのかあまりいい顔をしていない。セラは気になり詳しく聞くと、難しい顔をした。
「なるほど、今までの経緯は聞いていたけどそんなことがあったのね」
その言葉に二人は頷くが、同時に話しだした。
「「でも今は別に」」
「あ」
「あ」
ほぼ同時に同じことを言い出したのだ。
それを聴くとセラは微笑みながら答える。
「うふふ、二人共もうユキ様のことが好きなのね」
そう言われたアクエルとフレイアは顔を真っ赤にして話を急かす。
「そ、そんなことより契約の話よ!どうして私達の契約の魔法がうまくいかなかったのか。そこが問題だわ………」
「そうだよね!!セラなにか知らない?」
慌てて話題を切り替えたことには微笑みで返すセラだが、契約の話には少し覚えがあった。
「………………。二人は私よりも先にクリスタルに封印されちゃったからわからないと思うけど、私達と同じように既にクリスタルから開放されている女神がもう一人いるのは知ってる?」
もちろんそんなこと初耳だった。
「でも私達を見ることの出来る人間なんてそうは居ないわよ」
「うんうん、それに封印を解くことがどれほど恐ろしいかわかってるんだからありえないよ~。強引に不委員を解けば危険なことは皆知ってるからね~」
しかし次のセラのセリフで二人は硬直する。
「確かにこの世界の人間ならば封印を無理に剥がすことはないわね。でもそれがこの世界の人間でなければ?」
「「まさか!?」」
二人は答えにたどり着く。
そう、この世界の人間で無ければクリスタルだの女神だのを突然敬う訳がない。
逆にそんな怪しい紙がはってあればはがしてしまう確率の方が高いだろう。その結論に至った二人だがすぐに疑問が浮かぶ。
「でも別の世界の人間が簡単にこちらへ来れるものなの?」
「そうよね~、ユキ様のようなイレギュラーでもなければほいほいと世界観の移動なんてできないと思う~」
フレイアとアクエルの疑問は同じだった。
「確かにそうね。勇者召喚でもしない限りはそう簡単に移動なんてできないわ………。それこそ神々でなければできないこと」
「もしかして……………。勇者?」
アクエルは確信をついた。
「その通りよ、もうひとりの女神の封印を解いたのは数年前に呼び出されたばかりの勇者」
二人は驚愕した。自分の世代で召喚された勇者ならばとっくに死んでいるはず。そしてそんな最近勇者召喚が行われていたことを知らなかったのだから。
「ねえセラ、フレイア、勇者の元いた世界がユキ様と同じ世界とは限らないけれど、この情報はユキ様にいち早くお教えするべきね」
二人は無言で頷いた。
「でも分からないわ。封印を解いたなら逆に女神は自由の身のはず。なら女神通信でなにか情報が入ってきもおかしくないわ」
そう、女神の封印がお解かれたのであれば実力的に例え勇者であろうと簡単に女神を服従させることはできないはずだ。
しかし女神通信には今いる三人以外の声は聞こえない。つまりもう一人の女神は何らかの理由で開放されたが魔法を自由に使えない身にあるということになる。
「もしピンチな状況なら助けてあげたいけど…………………」
そこまで言うとアクエルは暗い顔をする。
「そうね…………。でも私達に出来る事は今のところないし………。肝心の契約をしていないセラもサポート系だからねえ」
「……………」
三人は黙り込む。
しばらくしてセラが口を開いた。
「ねえ、私もユキ様と契約をしようと思うわ」
その発言に二人はまたもや驚かされた。
つい先日まで人間に裏切られ、いいように使われていたセラ。しかし同じ人間に魔法を使わせる契約を自らすると言い出したのだ。
「それは私達と同じイレギュラーな展開になることを望んでの契約?それとも…………。逃げるための契約?」
アクエルは慎重な顔で聞き返す。
親友と言えどサキを裏切つ様な事をするなら黙って見過ごすことは出来なかったからだ。
しかしセラから帰ってきたのは意外な答えだった。
「いいえ、二人の契約と同じ魔法式で契約すれば同じイレギュラーが起こるわ。現にもう一人の女神の状況が二人と同じに近いと思うから」
セラの説明はこうだ。
もう一人、勇者のところにいると見られる女神の状況は今のフレイアとアクエル同様奴隷の状態でレベルと魔法は全て勇者に譲渡されていると思われる。
そのためセラも同じほうほうでサキに力を譲渡すれば少しでも他の女神を助ける力になれるではないかと。
「でもそれはユキ様が助けると言うかどうかにもよるわ。現にセラを助けられたのは気まぐれかもしれないし…………」
「ちょっとアクエル!?流石にユキ様をそんな風にいうのは許せないわ!」
しかしそれに反対したのはフレイアだった。
フレイアはアクエルのサキに対しての態度に不満を抱いていた。それが今言葉になってつい出てしまったのだ。
「べ、別にアクエルがどう思おうが関係ないっちゃないんだけど………。助けてもらって色々良くしてくれている人にそんな態度はどうかと思う」
「……………。ごめん、カッとなっちゃったわ。確かにユキ様なら相談すればいい返事がもらえるかも知れないわね」
セラは二人のやり取りを聞いて思う。
フレイアは元からのようだが、アクエルも段々サキに心を許しているのだと。
そして自分もまた…………。
最後にもう一度人間を信用してみるのも――――――。いいかもしれないわね。
そう思った。
「まあまあ、二人とも落ち着いて。今の問題はそこじゃないわ。とりあえずユキ様には契約のお願いをしてみて、更にもう一人の女神の情報と勇者の情報をお教えしてみてからよ」
二人は頷く。
「そうね………。ごめんなさい」
「いいのよ、アクエルは少し遠慮しすぎなのよ。もう少し自分に素直になることも大事だわ」
セラは微笑みながらアクエルの手を握る。
「ありがとうセラ。あなたにはいつも助けられてばかりだわ」
「いいのよ」
「もー!私の存在を忘れないでよ二人ともー!!」
「うふふ、ごめんごめん」
セラはフレイアの手も一緒に握り三人は和気藹々としたまま夜まで過ごした。
女神達をヤドリギに留守番させてきたサキは街を回りながら、これからのことについて考えていた。
まず女神を連れ出した後の王城について。
この国はそこそこの大きさの国でそれこそ要塞としての役割も兼ねている。それだけあって人も多かった。
しかしどこからも女神のクリスタルがなくなったことに関しての話題がないのだ。
情報収集………。情報……。情報?
サキはふと思い出した。以前この街の本屋らしき場所である提案をされたことを。
もしかして兵士の動きが変なのは戦争か何かに備えていて………。今クリスタルが盗まれたことで兵士たちが更に動き出すことも考えられる……。ならこの街に長居するのは良くないよねえ。
サキは本屋に行く途中道具屋により使えそうな者を色々買い込んだ。この世界では火起こしの魔法が一般的に仕えることから火を起こす道具は売っておらず他にも見たことのない道具が沢山あった。
サキにわかるのはポーション……。元の世界の知識でよくある回復系のアイテムだけだった。そのためサキは全種類のポーションを買うと次は食料を買いに別の区画へと移動する。見たことのない食料や調味料が沢山あったがそれは店の人間に聞き出し軽くメモを取るとそのまま本屋へ向かった。
サキが本屋についた頃には既に夕日が傾いていた。
「いらっしゃ―――、おおお前さんか」
「はい。今日は用事があるので早めに帰ることにします」
そう言うとサキは早速情報を提示する。男は目を見開く。
まさか自分の住んでいる国に貴重な女神のクリスタルがあるとは思わなかったようだ。
当たり障りのない情報を渡したあと男は店の奥に行くと約束の本と杖を持ってきた。
「いやぁ~。この街の情報を集めるのが趣味でな変なことは気にしなくてもいいぞ。しかし商人の情報網………侮れんのぅ~。また何かあったらここに来るといい。なんでも力になるぞ!ちなみにその杖はなかなかの品じゃ。決して盗まれんようにな」
そう言って男が手渡してきたのは以前見せてもらった本とシンプルな見た目の木で出来た杖だ。杖の柄の部分には所々赤色の石が組み込まれており先端には拳サイズの赤い石がはめ込まれている。しかしその石は不思議なことに目を凝らして見るとなにかの目にも見えた。すると男は嬉しそうに言う。
「っはっはっは。気づいたか。その杖の石は特殊な魔物の目をくり抜いて使っていてな、その魔物の魔石も組み込んであるから相性もよく性能も桁違いに高いんじゃ。まあ本人以外には普通の杖に見えとるから安心せいよっぽどのことがない限り変に思われる心配はない!」
男はご機嫌そうだった。それほど自慢の逸品だったのだろう。サキは盗まれないように気をつけようと思い男にお礼をする。
「こんなに素晴らしいものをありがとうございます。このあと用事があるので足早ではありますが失礼しますね」
「おう!また来てくれ」
男は上機嫌なままサキを見送ると店の中へ戻っていった。
初めてサキがこの店に来たときとはだいぶ印象が変わったが男の印象を変えるトリガーか何かがあったのだろう。
サキは本と杖をアイテムボックスにしまうと街の外へ向かった。
もう日も暮れそうだというのに何処へ行くのかと思えば向かった先はあの森だった。
『クゥン』
森に入るとシロは嬉しそうにサキの前で服従のポーズを取る。
「やあシロ、いい子にしてたかい」
『ワォン!』
シロを撫でてやった後シロを下がらせる。
そろそろ体を動かさないとなまっちゃうからね。それに………。
サキはシロをみる。
『クゥ?』
丁度いい実践相手もいるからね。
そう考えるとサキはシロに指示を出す。
「これから俺の運動に付き合ってもらうけどいいかな?」
『クゥン…………』
またしても本能で何かを察したのかシロの耳はペタンと垂れる。
「あぁ、殺さない程度にだから大丈夫。それに薬草系は大量にあるしポーションも買ってきたから安心して」
するとシロは少し嬉しそうに返事をした。
『ワォン!』
殺される心配がないとわかったシロは軽く伸びをするとサキから少し距離を取ろうと後ろに下がろうとする。
「待って」
『?』
しかしそんなシロをサキは呼び止めた。何か悪いことをしてしまったのかとシロは必死に考えるが伸びたこと以外何もしていない気がした。
しかしサキから言われたことは全く見当違いのことだった。
「シロは武器を使ったことはある?」
『クゥン』
ないと言いたげに首を横に振る。
「そっか、じゃあいい練習になるかもしれないからちょっとコレ使ってみて」
そう言うとサキはアイテムボックスからナイフを取り出し近くにあった人の腕くらいの太さの枝を二つ切り落としナイフの形になるよに鋭利にカットしていく。モノの数分で木製のナイフが出来上がった。
試しに近くの枝に向かって振り下ろすと枝の断面は綺麗に切り落とされ枝はなんの抵抗もなく切り落とされる。
「コレを口にくわえて切りつけるもよし、投げて囮に使うもよし、使い方は自由に考えてみて。それが今回のシロの練習でもあるってことで」
『ワォン!』
するとシロは丁寧にサキの手からウッドナイフを受け取ると器用に口にくわえる。
結構器用なんだ………。
そんなシロからは恐れの感情が半分と歓喜の感情が半分伝わってきた。
武器くらい自分で入手できそうだけどその身体能力だけでそこまで強くなったってことかな?魔物の生態系についても勉強しておかないといけないかな。
『ワォン!』
サキが考え事をしていると不意にシロが叫んだ。
「準備はいいかい?」
『ワォン!』
「じゃあ…………。シロは俺を殺す気で来てね」
『クゥン………!』
若干悲しそうな表情ではあるが了承してくれたシロ。元々言葉の少ないサキと喋らないシロに言葉はそこまで必要なかった。
「今から石を投げるからそれが地面に落ちたら開始」
『ワウン!』
するとサキは石を広い天高く投げ飛ばした。
その間自らも一緒に作ったウッドナイフを手に持つと、数秒間空中を舞っていた石は重力に従い地面に落ちる。
『ドンッ』
石が地面に落ちたと同時に二人は動き出した。
サキとシロが踏み込んだ場所にはただいの足跡がくっきり残っている。先に攻撃を仕掛けてきたのはシロだった。
サキはシロをじっくり観察する。初めに出会ったときの腕試しとは違い本当に殺意を抱いて攻撃してきている。
そう、それでいい。
シロは口にくわえたナイフを器用にサキの横腹に向けながら飛び込んでくる。しかしそれを軌道から読んだサキはシロのナイフに自分のナイフを当てて動きを逸らす。しかしシロはそのままの勢いを利用し地面を蹴ると今度は先ほどとは反対側の脇下を狙って来た。
人間との戦闘は初めてじゃない……。狙い度ことが悪いけどいい筋してるかもね。
しかしサキは一歩後退することでシロの攻撃をギリギリかわす。
『クゥ!?』
シロもかわされるとは思っていなかったのか驚いているようだ。しかしサキは攻撃を避けただけではなかった。
サキもまた後退した勢いをそのままに片足を振り上げシロの腹部を蹴り飛ばす。もちろん手加減はしているがシロにとっては一瞬呼吸ができなくなるレベルである。
『キャンッ!』
あ、力入れすぎた?………。いや、ドラム缶を凹ませる程度しか力入れてないし大丈夫かな。
本人は気づいていないが十分驚異的な威力である。
シロは体制を立て直すために木の上へ逃げるとそこで呼吸を整える。
しかしそれも束の間だった。
「敵を目の前にして休むのは愚策だよ?」
なんとサキも木上まで跳躍して来た挙句完全に背後をとってきたのだ。
『クゥン!?』
そのままサキはシロの首筋にナイフをピタリとあてるとそのまま軽やかに地面に着地する。
「まあ突然腹部攻撃されたらそうなっても仕方ないよね~」
先ほどとは別人の顔で微笑むサキだが、シロはその代わり用も背後を取られたときと同じように恐怖していた。
それは殺気。
今のは確実に自分を殺せたというアピール。そしてもっと本気で来いという無言の圧力だとシロは受け取った。するとシロは全身の毛を逆立たせる。
これは恐怖からではない。哺乳にサキを殺すための殺意で全身の毛が逆だっているのだ。
人間は恐怖の顕界を突破すると底知れないパワーを発揮すると言われている。しかし、それは動物にとっても同じである。
いや、野生の魔物であればそれ以上だろう。シロの頭の中に機械音が流れる。
『恐怖が一定に到達しました。スキル『恐怖耐性』を入手しました』
『憤怒が一定に到達しました。スキル『狂化』を入手しました』
すると体中に力が湧いてくる感覚がした。
『グルルルルルルルルルルルゥ』
そのまま手に入れたばかりのスキルを使用する。すると突然視界の端から景色が赤く染まり始めた。
シロは思った。これなら新たな主人が満足してくれる動きができるかもしれないと。
そして本能のママにシロは行動を開始した。
ん。シロの雰囲気が変わった?
不思議に思いシロを鑑定してみた。すると驚くことにスキル欄に今までなかったスキルが増えていた。
『恐怖耐性』に『狂化』か………。
狂化はバッフロンにもあったけど恐怖耐性?さっきは敵を前にして休んじゃダメだよって教えたつもりだったけどあの殺意で恐怖耐性って……。やっぱりこの世界はスキルを入手しやすいってことなのかな?
そこまで考えているとシロは吠えながらこちらへ向かってきた。
『グルルルルルゥァアアアア!』
先ほどとは段違いの速さではあったが、サキからしたら居場所を教えながら攻撃することはよくないと思っていた。
しかしシロほどの魔物になるとその方向も狂化の副作用である一時的に自画がなくなることも対して痛手ではなかった。
というのも戦いながらサキは実感していたのだ。
変に主人だからかしこまることがなくなったことに合わせて本来の戦闘能力を引き出せてるってことか………。
サキは魔物に関しての狂化の評価を改める。
そんなことはお構いなしにシロはサキに攻撃を仕掛け続ける。目にも止まらぬ早さで木から木へと移動しながら隙を突いては攻撃を仕掛けてくる。しかし決定だにはなり得なかった為シロはどんどん体力を消耗する。
「的確な判断ができないのは結局致命的なんだよねえ」
そうつぶやくと目が慣れたサキはシロの足首をナイフで切り裂く。
木製といってもしっかりとと研がれているため切れ味は抜群だった。
『キャイン!』
的確に筋を切られたシロは勢いを殺しきれずにそのまま地面へ滑り込んでしまう。そしてサキは臨戦態勢を特とそのままシロへ近づいていった。しかしシロの狂化はまだ解けておらず攻撃を仕掛けようともがく。
「めんどくさいなぁ……」
そういうとサキはシロへ殺気を向ける。それも先ほどとは比べ物にならない殺意だった。
『!』
するとシロは一瞬で目の色を変えると怪我をした足を引きずりながらも服従のポーズを取ろうとするがそれをサキが静止する。
「いいよ、元に戻ればいいなっておもっただけだから殺す気はない」
そういうと安堵したシロは罪悪感を抱きつつもサキの前に横たわる。そんなシロの足を見るとサキはアイテムボックスから持参した針とスリーピーのわたから作った糸、そしてこの世界にきたばかりのときに調達した薬草を取り出した。
薬草は元の世界ではガマと呼ばれていた薬草に似ているものを使う。この世界の鑑定では『マガマ』と呼ばれており主に花粉の部分を使って治療するようだった。
切り傷にもいいから丁度いいと思いシロに治療を施す。
花粉を傷にそのまま使用すると今度は素早く針で傷口を縫い始めた。
『クゥン…………』
すると痛みが和らいだのかシロの表情が緩む。
「ごめんね。半日も経てば抜糸も出来ると思うからそれまでは食事も俺が作るよ」
魔物の生命力であれば半日から一日でほぼ治ると思っていた。
『クウゥン!ワオン!』
するとシロは激しく首を振った。シロからは拒絶と罪悪感のみが伝わってくる。
「嫌がってもダメだよ…………。じゃあ俺からのお願いってことでどうかな?」
そのまま無理して悪化されても面倒だと思ったサキはシロに微弱な催眠をかけつつお願いをする。温和な雰囲気のサキにシロは何も言い返せず尻尾をパタンを地面に下ろす。
「いい子だね」
『キュウゥン』
どこからそんな声が出るんだか………。
「とりあえず一旦街に戻るから場所を移動しようか。ここで待ってて」
『ワォン』
するとサキは森の更に奥の方へ移動を始めた。あまり人の通った後がないところ、更に周りにはなんの気配もない場所を探す。
暫くすると初めてサキが水浴びをした湖があった。
水場も近い更にその近くに大きな気を見つけたためサキは愛用のナイフを取り出し『水刃』を使用すると木の根元にギリギリシロが入れるくらいのスペースを作り出した。
あとは食べ物か…………。生肉でいいかな?
先日狩ったバッフロンの肉を食べやすい大きさに斬り、切り取った木を更に薄く平に整えその上に生肉を乗せる。
簡易的な更ではあるがないよりましだろう。更に地面にはスリーピーのわたをしきつめ体に負担高からないようにする。
こんなもんでいいかな。
するとサキは周りに気配がないか入念にチェックするとシロのいる場所へと戻っていった。
シロはサキに支持されていた通りその場で待っていた。主人が戻ってきたことで走り回れない代わりに尻尾をブンブンと振る。
「ただいま、誰か近くを通ったりした?」
『クゥン』
「そっか」
シロの思っていることはだいぶわかるようになってきた。いや、先ほどの戦闘から急に素直に表示に出やすくなったのだ。
サキはシロの近くまで行き、地面に膝をつくとそのままシロを抱き抱える。
サキの体重の数倍はあるであろうホワイトウルフを軽々と持ち上げたのだ。しかもお姫様抱っこである。
『ワォゥ!?』
驚くシロだが拒んでも無駄だよというサキの無言の笑顔に黙って大人しくしていることしか出来なかった。
暫くするとサキが見つけた場所へと連れてこられたシロは改めて驚かされることになる。
浅瀬の湖がありいつでも水分を取れるうえ、そのすぐ近くの大きな木をくり抜いて自分が入れるスペースを作り、更には食事と貴重なスリーピーの綿を敷き詰めてあったからだ。
シロは改めてサキという人物を主人に選んで良かったと思った。そして心に決めた。
この主人の為ならば自分の命を捨てることも惜しくはないと。
「あ、綿が邪魔だったら言ってね、取り除くから。あとはごはん生肉でいいんだよね?一応血抜きもしておいたからこの肉で今日は我慢してね、それから水は――――」
至れり尽くせりだった。シロはどうしてここまで自分に尽くしてくれるのかわからなかった。それは野生の本能を持ってしても人間の意思を汲み取るということができないということ。
しかしそれはサキだからだとうと納得もした。これからシロは主人の為に驚異的な力を発揮することになるがそれはまだ先の話である。
サキはシロの考えていることが手に取るようにわかった。
まあこれくらいやっておかないと動物………。というか魔物は本能でやましいことを見抜こうとするからね。
その証拠に先程からシロはじっとサキを観察してきた。それはサキが他の人間の心を読んだり感情を読もうとするときの目と同じだった。そもそも感情が欠如しているサキにとってその行為は無意味ではあるが、意図的に読まれないように心を無にする訓練もしていたサキは心を読まれないようにしていたのだ。
これでシロに関してはしばらく問題ないかな。あとは…………。
そう、体を動かす宛はできた。しばらくはこういったことを繰り返せばシロも強くなることが出来自分も体を動かすことが出来ると考えた。
しかし魔法に関しては違った。
人前で魔法を使う機会がないとは言い切れない………。火起こし提訴なら皆ができることは本に書いてあったけど、他にも何かトラブルにあった場合のことを考えて杖の使い方も練習してこの世界の魔法についても調べておかないとね。
とりあえず街に戻って考えようか………。
「シロ」
『ワゥ?』
「もし何かあったら街の方向に……。俺を意識して全力で殺意を放って」
『ワゥン!』
微弱な殺意でもシロくらいの殺意があれば流石に気づけると思ったサキはシロにそう指示をだしておいた。
周りに気配は感じられないけどこの世界には魔法がある……。隠蔽とか隠密とかされていたら困るからね。
サキは決して自分の力に慢心はしなかった。そう育てられていることもそうだが一番はサカキの教えということが大きいだろう。シロに別れを告げるとサキは街へ戻ることにした。
その様子を途中からサキに気づかれずに見ていた者が居るとも気づかずに。




