33話
今回は過激な表現が含まれています。苦手な方は申し訳ありません。
宿に戻ると三人の女神達が出迎える。
「「「おかえりなさい、ユキ様!」」」
街を出る時とは違って皆何やら生き生きとした顔立ちをしていた。何かいいことでもあったのだろうかと考えているとフレイアが嬉しそうにサキに何か言いたそうにしていた。
「なんだか嬉しそうだねフレイア。何かあったの?」
意図を汲んでサキのほうから質問をしてやるとそれを待っていましたと言わんばかりに笑顔を弾けさせてフレイアは答えた。
「はい!実はあのあと三人で色々情報交換をしていたのですが、これはユキ様に話しておかないとと思ったことが多々ありまして!」
「絶対ユキ様の力になれる情報だと思います」
セラも続けて嬉しそうに頷く。
サキは三人から勇者について、この世界について先ほど女神達が話していた内容を聞いた。
「なるほどね………」
とても興味深い話だ。もしこれが本当なら勇者は思っていたより面倒な存在かもしれない…………。
俺と同じ世界から来た確率は高いかな?かと言ってそのまま放置しておいて不利益になってもなぁ……。まずは情報を少しづつ集めて行こうか。それに能力がチート並っていうのは定番みたいだから戦略もかな?なんだか最近考えることが多くなった気がするよ。
サキは勇者用の戦闘プランも立てておくことにした。まだ勇者がどのようなスキルを持っているかもわからないため早く自分もスキルを入手しなければと思うのだった。
「それで、セラはこれからどうするの?」
セラは困ったような嬉しそうな顔をしてサキを見るとそのまましばらく考える。
サキはその間もセラから目を逸らさずゆっくり待つ。するとセラは意を決したのか覚悟を決めた顔で話し始めた。
「はい。私はあの時ユキ様が助けてくれなければあのまま人間達にいいように使われて………。自分の力で周りが傷ついていくという惨状を見ながら一生を過ごすことになっていたでしょう。しかしユキ様に助けていただいたことで仲間たちとも再開できました。私がこれ以上を望むことはいけないことだとは存じております。ですが、もしも………………。もしもユキ様がいいとおっしゃるのであれば……。私とも契約して欲しいのです!」
突然のことだった。三人で話していたのであれば当然どんなイレギュラーが起きてしまうかもわかっているはず。
「契約って………。俺と契約するとまた変なことが起きるかも知れないよ?確実に望んだ結果になる可能性は低いと思う。それなら原因を突き止めるかセラが直接魔法を使ってくれた方が………」
しかしサキの疑問はセラの一言で解決した。
「いいえ。これは三人の時よりもユキ様が居たときのホグあいいと思ったので話していなかったのですが、この世界の人間でないものが女神の契約を受けると契約の法則そのものがねじ曲がり自分たちは隷属状態になると聞いたことがあります。初めて聞いたときはそれこそおとぎ話かと思いましたが実際にこの二人をみて確信しました。であれば先ほど話したもう一人の女神も勇者様にいいように使われているのではないかと私は思ったのです。そしてもしそうだとしたら私も………。ユキ様のお力になれるかと愚行いたしました」
セラの話しが本当であればこの世界にとって勇者とは害悪以外の何者でもないのではないかとサキは思った。なにせ神々と同等の存在である女神を隷属状態にするような存在なのだから。
「なるほどね。でもそこまでわかっていてどうして契約をしたがるの?」
そう、サキにはどうしてもわからなかった。何故そこまでわかっていて自由の身ではなくわざわざ縛られる身を選ぶのか。そしてセラの感情がどこかサカキに似ていると思ったのも不思議でならなかった。
「あ、別にやましい事を考えているとかではりません。ただ、助けていただいたお礼がしたいのです!先程も話したとおり私はあのままでは何もできないまま………。人間達の戦争の道具のまま心が壊れるところでした。ですがユキ様はそんな私を助けてくださった。ユキ様にとっては些細なことかもしれませんが私にとってはとても大きなことなのです!それだけで十分命を懸けるに値することなのです!」
セラは途中から必死で頭が真っ白になっていた。しかしサキはどれだけ考えてもなぜその結論に至るのかが分からなかった。
「でもほら、俺たちまだ出会ったばかり出し。初めはアクエルとフレイアのことも本当に殺そうとしていたんだよ?いい人か悪い人かもわからないのにどうしてそこまで?」
逆にセラにも不思議に思っていた。
なぜ自分のために親身になるものの気持ちや自分に有利な状況になるはずがそれを承諾してくれないのか。二人の話から察するにサキは人の感情を読み取ることに長けていることはわかる。ならば自分の必死さは伝わっているはずだった。なのになぜ頑なに断るのか。
セラにはそれが分からなかった。
「それは………。話を聞いていればわかります。ユキ様が本当はいい人だってことも。それにまだ少ししか一緒にいませんがわかるんです!!!…………。私は女神ですから!」
「……………………………」
これ以上はらちがあかないと思ったサキは逡巡する。もし契約したとしてもしなかったとしても女神を三人も連れている時点で自分は問題の種だろう。しかしこのまま自分の招待を知っている存在を三人も野放しにするのも危険だった。
どのみち自分で魔法を仕えるようにするしかないか…………。かりそめじゃなく自分の力で。そうしたら女神達のスキルに頼ることもなく一人で動けるのに。
「ユキ様…………。セラの気持ちを受け取ってあげ―――――――――」
セラの気持ちに気付いているアクエルはセラのために助け舟を出そうとしたがその言葉を最後まで言い終わることはなかった。
「「「!?」」」
それはユキにしかわからない小さな殺気。
シロ?
その瞬間サキの雰囲気が変わった。
「ちょっと森に行ってくるね」
その瞬間『行商人ユキ』は三人の目の前で突然別人へと変わった。女神達には大きな違いを見分けることはできない。それはサキと同等かそれ以上のものでしかわからないだろう。
しかしさすが女神といったところか雰囲気の微妙な違いには気づいた。そして目の前に居た『ユキ』は『暗殺兵器』へと変わったのだった。
「なんだか今のユキ様様子がおかしくなかった?」
「いつもおかしいけど今のは尋常じゃないわね………。なんかこう雰囲気というか……」
「と、とりあえず私達も追いかけましょう!」
まだあれからそんなに時間は立っていないはず。ならばなぜ?
手負いとはいえシロはA級の魔物だ。ちょっと近くを通った人間がいれば気配を完全に隠して身を潜めることは容易なはず。にも関わらず指示した通りこの街の………。俺に向けて殺気を放った。ということは…………。
何者かに襲撃されている可能性があるということ。
サキは門番から認識されない早さで街を出ると森へ一直線に走った。すると森の入口手前あたりまで差し掛かった時凄まじい叫び声が聞こえた。それは考えられないほどの憎悪が篭った叫び声。
『ギュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
人間では到底出せない声。しかしサキにはわかった。
シロの鳴き声?いや………これは。
何度も感じた感情。憎悪・苦痛・怒り。そしてその声からも苦痛と憎悪が感じ取られた。それも尋常じゃないほどの。
急がないといけないかもしれない。
しかし慎重に行かなくてはいけない理由もあった。入口から少し進んだ場所に本当に微だが気配があったからだ。それは元の世界で何度も何度も訓練された感覚を思い出させた。
隠れている人間や微弱な反応すらも感じ取れるように集中力を高める訓練。それは組織によって体を弄りまわされたサキだからこそ感じ取れる感覚。それが周りを気にするような動きでじっととどまっていたのだ。
その感覚を頼りに気配を殺しつつ近づいていく。するとそこには何やら盗賊の様な、しかし少し身なりのいい見た目をした男が居た。
偵察………ってところかな?
そのまま男の背後へ回り込むとアイテムボックスからナイフを取り出し片方の手で男の右襟を掴みもう片方の手で左の頚動脈を一気に切り裂く。
「なっ!?ガファッ!」
男は満足に叫ぶことも出来ないまま絶命する。男のしたいはそのままにサキはシロのいる方向へと全力で走る。その間もシロの叫び声は続いた。
シロは待っていた。自分の主人であればあの程度の殺気でも気づいてくれるだろうと。
サキが街に戻ると言った後、シロはずっと考えていた。
なぜ狂化し字がを失った自分を面倒くさがらずに止めてくれたのか。そしてここまで手厚く介抱してくれるのか。
もし自分が考えているような人間なのだとしたら…………。
そこまで考えているとふと気配を感じた。
それはホワイトウルフという種族のみが使える固有スキル『警戒』の効果だった。警戒は自分のレベルにもよるが、周りの気配を探知出来るという効果があった。
するとシロはできるだけ気配を消すとそれらが通り過ぎるのを待とうとした。この森にはたまに人間がレベル上げにはいる込んだりすることがある。それを知っていたため身を隠しやり過ごそうとしたのだ。主人の言いつけ通りに。
しかしその気配はどんどんシロのほうへと向かってきていた。
おかしい。なぜ気配を消している自分の場所が分かるのか?
そのままじっとしていると男の話し声が聞こえた。
「本当に見たのか?」
「ああ、間違いねえよ」
「まさか俺たちが目をつけていたホワイトウルフが怪我しててそれを直す行商人が居たなんてなぁ?未だに信じられねえぜ」
男達は全部で4人居た。その男達の会話に出てくるホワイトウルフと行商人。
それだけで状況を理解した。この辺にいるホワイトウルフは自分を除いては存在しない。皆各々の縄張りのために世界へ散ったからだ。
そして手負いのホワイトウルフを介抱する行商人。主人しかいなかった。
「そんで?この辺にホワイトウルフがいるんだってな?」
「ああ、俺の隠密スキルに気づかないまま商人は街の方へ帰って行ったけどな」
「ハッハッハ!大方人間に話を広めるか自分の魔物奴隷にでもしようとしたんだろうなぁ?」
「そいつは運がわりいなぁ。俺らが先に狙ってダンらからよお!」
男たちは湖のほとりまで来ると荷物を降ろし周りの警戒を始めた。
どうするか………。男達とシロではそこまで距離は離れていない。そして自分は手当を受けたからと言ってもまだ完治はしていない。
ならば出来る事は一つしかなかった………。
すると男の一人がシロの居る大きな木を指さした。
「あの辺とか怪しくねえか?」
「確かに、なら俺が見てこよう」
「頼んだぜ」
大柄な男がこちらへ向かって歩いてくる。しかし先ほど下ろした装備はそのままな為男は丸腰だった。
せめて主人に知らせるくらいは………。
覚悟を決めたシロはそのまま男の前に飛び出した。
『グルルルルルルルルルルルルルゥ!』
咆哮を上げ威嚇するとシロから貰った武器を口に咥え男の両目を切りつける。
不意をつかれた男はシロの攻撃をまともに食らってしまい両目を負傷した。流石に気がついた男の仲間もこちらに向かってこようとしていたためシロは目を負傷している男めがけて跳躍するとそのままナイフを男の心臓部へ突き刺した。
「ぎゃああああああああああああああああああああ!」
器用にナイフを咥えなおすと今度は三人の方向へ殺気を向ける。
男達に緊張が走った。A級の魔物が武器を扱うなどと聞いたことがなかったからだ。そして男達は知らない。
その殺気が誰に向けられて発せられていたのかを。
「おい、こいつ魔物のくせに武器を使いやがる!……」
「ああ!気をつけろ!」
「「おう!」」
男達の一人、戦士と思われる大男が自分の背丈と同じくらいある180cmほどの大剣を上段に構え振り下ろしてきた。
シロはそれを軽く避けるが、避けた先に何か違和感を感じる。いや、足元に何か締め付けるような感覚があり素早く確認する。
やってしまった。
男の攻撃は囮で本命は盗賊の男が仕掛けた罠への誘導だったのだ。この短時間で一体どうやったのかは知らないがおそらく盗賊のスキルかなにかだろう。罠には魔法文字が刻まれており、じわじわと下半身から麻痺していく感覚がした。このままではまずいと思ったシロは最後の力を振り絞り『狂化』のスキルを発動させた。
するとサキと戦っていたときと同じように視界の端から徐々に赤く染まっていきまた自我もなくなっていった。
主人に罪悪感を抱きながらシロの意識はそこで途絶えた。
「なんだこいつ!麻痺で体が動かないはずじゃねーのか!」
シロが突然なりふり構わず暴れ始めたことで男達は慌て始める。
「いや、まさかこいつ!?『狂化』のスキルを使ってやがる!」
「ああん!?なら全員作戦変更だ!ありったけの麻痺を食らわせてやれ!」
「「おう!」」
狂化のスキルは一時的に火事場の底力で暴れまわる事が出来るがデメリットの方が大きい。
まずは自我がなくなってしまうことだ。自我がなくなってしまうことで痛みも感じず何も考えることができない。魔物の本能のまま戦うため攻撃が単調になってしまうのだ。
いかにA級クラスの力があってもそれに知能が合わさってこそのA級。何も考えないただの魔物、更には手負いであれば尚更恐れるに足りなかった。
剣士がシロの攻撃を惹きつけ囮になっている間に二人の男達は麻痺の魔法や魔道具により、徹底的に動きを鈍らせていく。
それでもシロは何度も抵抗するがしばらくして全身に麻痺が回ったのか動かなくなってしまった。
「はぁはぁ………。さすがA級だ。狂化してても化物じみた耐久力だぜ」
「まったくだ…………。とりあえずコレで全身を固定しておこう」
そう言って盗賊らしき男は銀色の特殊な素材で作られた鎖を取り出すとそれをシロの手足の首に巻きつける。それを地面に固定し更に魔法使いの男が何やら魔法を唱えると鎖が一瞬光り目に見えて強度が増した。
「よし、これでこいつは身動きができねえ。こっちは一人死んじまったがまあ仕方ねえだろ」
「ああ、胸糞が悪いぜ」
すると盗賊の男がふと閃いたのか提案をした。
「なあ、ホワイトウルフの毛皮って今相当物価が上がってたよな?」
「あ~~。そういえば群れじゃなくなってからは貴重だって……………それいいかもしれねえなあ?」
男達は下卑た笑いを浮かべながらシロに近寄る。
しかしシロは麻痺で体の自由は愚か狂化の副作用で意識も朦朧としていた。
「なあ、お前回復魔法のレベルいくつよ?」
「ハハハ!よくぞ聞いてくれました!この間大輝様に貰った魔法具のおかげで4レベルだが8レベル相当の回復が可能だぜ。剥した皮も一瞬で生え変わるってことよ」
男達は更に下卑た顔になるがそこはいくつも修羅場をくぐってきたベテランというべきか、すぐに切り替えると剣士の男が周囲を警戒する。
「もしかしたら昨日のアホ商人が戻ってくるかもしれねえ。お前は森の入り口付近で見張りを頼む」
「おう」
もしそいつが来ちまったら………。運が悪くてホワイトウルフに食われちまったってのはどうだ?」
「アッハハハ!それは確かに運が悪いな」
すると盗賊の男は森の入り口へと向かっていった。盗賊の男は仕事終わりのことを考える。
ホワイトウルフの毛皮は軽く金貨数百枚分はする。近くの街に住んでいる馬鹿貴族共からたんまり巻き上げたらそれで何をしようか。ニヤつきが止まらなかった。
そんな下卑た思考をしていてもしっかり周りを警戒する盗賊の男。このあと自分が死ぬとも知らずに軽い足取りで走っていった。
「よし、高級な皮を刈るんだ。刃研ぎくらいはしておかないと値打ちまで下がっちまう。お前は一応魔力を回復させておいてくれ」
「おうとも」
剣士の男は魔法使いの男に指示をすると荷物から研ぎ石と短刀のような刃物を取り出し刃研ぎを始めた。
魔法使いの男は持ち物から青紫色の液体を取り出すとそれを一気に飲み干すとその場に座り込む。
「いや~~~。にしてもホワイトウルフも結構楽に捕まえられるもんだなぁ?」
あまり苦労もせず捕まえられたことに気をよくしたのか魔法使いの男は軽口を叩く。しかし剣士の男は短刀研ぎながら難しい顔をする。
「確かに俺たちは大輝様に目をつけてもらい強くなった…………」
だが以前にもホワイトウルフと戦ったことがあったがあんなに動きが遅いことはなかった。
つまりそれは………。
「俺は以前にもホワイトウルフと戦ったことがあるんだがあんなに遅くはなかった。そしてこいつは手負い…………。こいつに怪我を負わせ体力を消耗させたヤツこそが本用の化物ってことだよ。的確に相手の急所を突いている。まあ最後まで仕留めなかったってことはそいつも死んだか逃げたかのどちらかだろうがな」
「全くおめーは細かいことまで気にするんだからよお………」
「お前が気楽すぎるんだよ」
刃研ぎが終わったのか剣士の男は「はじめるか」と言いながらシロの毛皮を皮膚ごと削り始めた。
シロは突然の激痛に叫ぶ。
「おお~。さすがにA級。皮膚も結構硬いな?刃研ぎして正解だったぜ」
「にしてもうるせえなあ!?」
すると魔法使いの男が荷物から太めの縄を取り出すとシロの口と首を結び噛み締めさせた。猿轡のように加えさせたれてしまったが激痛のためかすぐにそれを引きちぎり叫び続けるシロ。
魔法で強化された鎖のせいで身動きも出来ず、ただひたすら肉ごと毛皮を刈られる地獄のような時間が始まった。
シロは耐える。
助けが来ることを願い主人を信じて激痛をこらえ続けた。
「我のマナを糧としかの者の傷を癒せ!『ヒール』!」
あらかた毛皮を刈り終わり肉だるまになったシロに男の回復魔法がかけられる。すると血まみれだったシロの体は癒しの光によって瞬時に再生していく。
そしてまた男に毛を刈られるのを繰り返していた。
「はははは!こりゃあいいなぁ?その魔法道具大輝様から頂いたんだって?」
「いや、これはお借りしているだけだ………。あとで返さなきゃならねえ…………。くっそ~~!もっと金を貯めたら俺もこの国の国宝級の魔道具を買って楽したいぜ~~~!」
「なんだ借り物だったのかよ……。そりゃ残念だな」
皮を剥ぎながら男はニヤニヤと魔法使いの男に残念そうな顔を向ける。するとそこにはいないはずの声がした。
「本当に残念だね」
その声は酷く冷たく。そして殺意を無理矢理ねじ込まれたような――――。恐怖を抱かせるには十分すぎる一言だった。




