24話
よろしくお願いします。
朝になってもフレイア達は帰ってこなかったためサキは少し街を見て回ることにした。
というのも情報が少なすぎるのだ。
サキが入手した魔法は全て女神から譲渡されたもの。つまりいつ失ってもおかしくないスキルでもあると思った。更にレベルも譲渡されたものであるため実際この世界において自分は弱いのだ。
なら自分で強くなるしかないよね………。
サキが初めに目をつけたのは街の西側にある人気の少ない店。
ドアをくぐると埃っぽく独特な空気が流れ込んでくる。しかしそれは不快なものではなかった。
周りには沢山の本が無造作に重なっており、一部の棚にはきちんと本が整列していたりと様々だ。
「いらっしゃい」
野太い男の声が部屋に響く。
カウンターと思わしき場所も本でうもれており、その手前に無精ひげを生やした小柄な老人が座っていた。
「こんにちは。魔法を覚えたいんですがそれに関する本とかって売ってますか?」
すると男は舐めるようにサキを観察すると目を釣り上げる。
「お前さん魔法使いか?見た目は商人のように見えるが」
「はい、僕は駆け出しの商人でユキと申します。初級の魔法から付けるようになりたいのですが………。できれば火と水以外の魔法で」
「ふむ。何故商人なのに魔法を使いたいんじゃ?」
正直に言えばサキは頭のおかしい人間になってしまうだろう。
女神からスキルもらったなんてアホだよね。
「いえ、自分の身は最低限自分で守りたいですから………」
「そうか」
そう言うと男は椅子から降りるとギシギシと椅子が軋む音がした。
「長いあいだ客なんぞ来なかったからなあ。あんた魔法適正はあるのか?」
「はい」
「しばらく本を探すから適当に物色でもしとれ」
男はそう言うと店の奥へと入っていきガサゴソし始めたのでサキは近くの本を眺めていく。
ふと気になる背表紙があったので手に取ってみた。
『魔王と勇者』
御伽噺?
そう思いパラパラと本を開いていく。
その本の内容はこうだった。
昔、神々は人間達を作り出しその成長を見守っていた。しかし、突然世界に闇が訪れたのだ。
この話って………。女神達の話してた話?
本の最後にはこう書いてあった。神々は永遠の眠りにつくため、女神を作り出し世にはなった。
そしてこう願う。
『いつまでも人間と魔物が共存できる未来であるように』と。
サキは本を元の場所にしまいまた別の本を手に取る。
そこには『いざ!世界の冒険ロマンを目指せ!』と書いてあった。
主人公は商人を始めたが途中で冒険者に憧れ、勇者に弟子入りするという話だった。
師匠のスキルは海を割り大地を震わすと書いてある。
どれもこれも本当の話なのかわからないものばかりだったが、1つだけ確かなのは見つけた本の中の殆どに勇者が出てくるのだ。
それも全てチート能力持ち。
やっぱり勇者は特別なのかな?
店の奥ではまだ男が本を探っているようだったため他の本を探してみることにした。
『これであなたも家庭の主婦!生活魔法の基礎☆』
生活魔法………。聞いたことのない名前だ。
魔法と書いてあるため何か役に立つだろうとページをめくってみる。するとこう書かれていた。
生活魔法とは一般的に『火起こし』、『水』、『木こり』と様々だ。
その中でも火起こしはよく使われており、通常ならば10歳程度で習得可能である。
使い方はとっても簡単で、『火球』の呪文を唱え魔力を杖に集中させる。すると杖が魔力を吸収することで自然の力を顕界させることができるのだ。
やっぱり杖からか………。ん?
しかしページの一番したに小さな文字でこう書いてあった。
だが、勇者様は生まれ持っての才能か杖を使うことなく魔法を行使することができ、無詠唱で魔法を使うことができる。
才能って怖いぜちくしょー!
その言葉を最後にその本を読み終える。
「呪文書いてないじゃん」
そうつぶやくとその本もまた元の場所に戻した。
今は火の魔法と水の魔法はイメージだけで使えちゃうから他の魔法で練習しないといけないか……。
「いっててて。まったくどんだけ奥に突っ込んどったんだわしゃぁ」
すると店の奥から男が埃まみれになり戻ってきた。
あまりにもすごい埃だったのでサキは男の頭についた大きな埃をはたいてやる。
「おお、すまんのう」
「いえいえ」
「そういや本見つけたぞい。これは風魔法のなんかが覚えられる本だともらったんじゃがな、なんせもう老いぼれじゃし使わんのじゃよ。それに埃まみれで売ろうにも売れなかったんじゃ」
「それを僕に売ってくださるんですか?」
「ん~。価値がわからんからのう。言い値で売ってやろう」
言い値と言われても未だに商売をやったことがないサキには到底無茶なことだった。
「いえ、逆に言い値で買いますよ。こう見えても商人ですから」
頬笑みで焦りを隠すように男に笑いかけると男は唸り始める。
「ん~。わしも金に困ってるわけでもないしのう。金貨1枚でどうじゃ?」
安いのか高いのか正直判断に困るなぁ………。まあおじさんがそれでいいならいっか。
「ではそれで買わせていただきます。本当に金貨1枚で宜しいのですか?」
「ああ。男に二言はないぞい」
サキは男に金貨を渡そうとするがそれを男に止められた。
「そういやお前さん杖は持っとるのか?」
装備を見ればサキはフード付きのコート以外何も持っていなかった。もちろんアイテムボックスに入っていますなんて口が裂けても言えない。
「あ、これから街で買おうかと思ってます」
ふむ、とひと呼吸おいた男は何やら提案を持ちかけてきた。
「この街もそれなりにでかい。どこでいい杖が手に入るかなんてまだわからんじゃろ?そこで提案なんじゃがどうかね」
「提案ですか?」
男がニヤリとサキの小耳を貸せとジェスチャーするので耳を傾ける。すると小声でこういった。
「実は最近城で何かあったのかしらんが兵士の動きが変でな?商人の観察眼とやらでそれを調べて欲しいんじゃ。そしたらお礼にとっておきの杖をお前さんに渡そう。どうじゃ?」
城での動きがおかしい?…………。
まあその程度ならいいか。
「はい、その提案乗りました」
「よっし!ならば決まりじゃな。杖は探しておくからお主は先に情報収集でもしてきてくれ!適当に時間が経ったら来てくれれば良い」
「分かりました」
男は何やら嬉しそうに店の奥へと入ってまたガサゴソし始めたのでサキは店を後にした。
なんか変な人だったなぁ……。
外へ出ると街の中心付近が騒がしかったのでそちらへ行ってみると人だかりが出来ていた。
「何かあるんですか?」
道端の男に何かあったのかと聞くと男は嬉しそうに答える。
「賭けさ!」
「賭け?」
「なんだよあんちゃん!賭けって言ったらアレしかないだろう?」
そんなことを言われてもこの街にきたばかりのサキにはわかるはずもなかった。
「まだこの街にきたばかりで………」
すると納得したように男は説明をしてくれた。
なんでも月に数回街に賭け大会を開く一団が来るという。力比べをして勝てば賞金がもらえるというものだ。他にも景品はあるようだが目玉はやはり賞金で皆それを狙っているのだとか。
「しかしな?これまた相手がすごい力持ちらしくてよ………。B級の冒険者っていう話だぜ」
B級ってことは最近倒した蛇みたいなアレを三人で倒すレベルの人だっけ?
でも行商人がそんなのに勝ったら悪目立ちするに決まってるしねえ。
「そっかそっか。僕には無理そうだから遠慮しておくよ~。教えてくれてありがとう~」
「おう!俺はもちろん参加してやるぜ!もしよかったら応援よろしくな!」
二カッと笑った中年の男は勝てるという気力に満ち溢れた顔のまま列に並び始めた。
それと丁度良くして女神達も街の散歩から帰ってきたのかサキの元へ帰ってくると目を輝かせながら景品らしきものを見ていた。
「ユキ様、ただいま戻りました」
「ユキ様の岡江で街のことも色々分かりました!…………。そしてあれはなんでしょうか?」
フレイアが目を輝かせながら聞いてくるため先程男から聞いた話をすると更に目を輝かせる。
「ユキ様なら優勝なんて余裕じゃないでしょうか!私二番目の大きなお人形さんが欲しいです!」
するとアクエルがフレイアの頬をつねる。
「あひひはいひはひいいいい。らりするろー!」
「あのねフレイア…………。あまり目立たないようにしましょうって街に入る前に話したばかりじゃない。さっきもはしゃぎすぎて帰りが遅くなったんだから少しは自重して頂戴」
すいませんとアクエルは誤ってくるがサキは考えていた。
これから目立ちそうな行動をとりかねないのは確か。ならばそれよりも目立つ人物を作ってしまえばいいのではないかと。
幸いサキの変装能力はこの世界でも通じている。
まだB級の男とやらに勝てる確証はないがこの世界の中でもそこそこ力のある人間と力比べもいいかもしれない。
「いいよ」
「そうですよね…………わがまま言ってごめんなさ――――――え?」
「ユ、ユキ様?」
「ちょっと調べたいこともあったから丁度いいしね」
「ですがそれでは悪目立ちしてしまうのでわ?」
「大丈夫、そこも何とかするから」
女神達を待たせたままサキは部屋に戻ると変装に必要な道具を作り始めた。
今回の変装は目立つためのものなので自毛はまずいと思った。
サキはスリーピーの綿から作った糸を使い簡易なウィッグを作ることにした。
材料は手持ちのものでも十分だ。数時間ほどでウィッグは完成し服もグレムから奪ったものを手直ししておく。
「名前は………ガイアとかなんかの本に書いてあったかな。強そうだしね」
服装は少し大きめに作り中には固めた綿を入れることで肉厚を付ける。これで筋肉のある屈強な体に見えるはずだ。
後は関節を動かし骨格を変えることでサキの面影を見せない筋肉質な男ガイアへと変装を完了する。
「あー、あああ、あーあー」
声の調子を整え、先ほどとは別人のガイアが誕生した。
宿屋から出てくると女神達は気づきもしないが後ろからつんつんとつつくとフレイアは驚きすぎて声が出ないといった様子だった。
「ユキ様って本当に何者なんですか………!?」
「ここここここここ声が別人ですよおおお!」
フレイアはブツブツ言いながらサキを見送った。
サキがエントリーの列に並ぶとアクエルはフレイアに小声で問う。
「ねえフレイア、さっきユキ様からスキルを使った感じした?」
「え?そういえば全然しなかったね~。なのにあんな変装を完璧にこなすってやばいよね!」
そういう問題じゃないんだけど………。
上の空だったフレイアが突然鼻を高くしてアクエルの前に立つと指をさして叫ぶ。
「ユキ様なんだから当然じゃない!」
「…………そうね」
サキの謎めいた招待に悩む。しかしその反面優しさの部分が脳裏をすぎる。
ユキ様、あなたは本当にただの転移者なのでしょうか?
私には普通の人間には見えません……。
フレイアは完全に信用仕切ってるみたいだけど………。本当に信用できるか、失礼を承知で見極めさせていただきます。
「フレイア!早く行かないとユキ様の華やかなシーンを見逃すわよ!」
「え、ええ」
二人はサキのいる広場へと向かうのだった。