10話
よろしくお願いします。
グレムを殺した後情報通りに森を抜けていくと森と草原の境目に出た。
森と平原と言っても結構わかりにくく別れてるのか。
どうでもいいことを考えつつ周りへの警戒を怠らない。すると丁度サキの向いている方向に大きな岩というか山肌が崩れた岩山があった。
あれがアジト?岩山の中に住んでるって言ってたし原住民みたいだなぁ。
グレムのアジトは大きな岩山を掘り進め、半要塞のような役割にもなっているようだった。
サキは要塞を注意深く観察する。
すると要塞の上の部分から気配を感じたため上を見た。すると小窓から外を偵察している人間を見つける。
サキは森に姿を隠しつつアジトの観察を続ける。
門番は2人……。高台に一人……。中はここからじゃ遠すぎるかな。
サキは小窓の男を無視したまま門の方へと近づいていく。
そして森から出る前に少し太めの木の枝を二つに割り先端をナイフで削る。
慣れた手つきで日本の投擲武器が完成した。
サキは木の枝を門番に向かって狙いを定めると重心を上手く使い木の槍に全身の力を入れると、そのまま門番に向かって投擲した。
投擲した直後もう一つの槍も同じように投擲する。男たちは全く警戒しておらず一人は気づくこともなく頭を貫かれ死んだ。
もう一人の門番は隣の男が倒れたことですぐさま森の方に振り向くが遅かった。
サキが素早く投擲していたもう一つの槍も男の頭に吸い込まれるように入っていく。
結構有名だって言ってた割にはすごく弱いじゃん……。
しかしサキは決して油断はしない。
子供の頃から”アリ1匹殺すのにも命をかけろ”そういうスタンスで育てられたサキにとってどんなに弱い人間でも動物でも全力で対峙するからである。
小窓にいる偵察の男は遠くを見るだけで眼下の状況には目もくれない。
サキは素早く門の前へ行くと扉越しに中がどうなっているか風の音や微々たる反響音などを聞き取る。
中は空洞?……。
そのまま扉を開け素早く周りを警戒する。
しかし何もない。何もない空間だがそれが逆に異質だった。
中は外から見たよりも結構広かった。左右には簡易に作られた弓や槍が立てかけられている。
周りの気配をもう一度よく探るとなんとなく不自然な気配が3つあった。
右奥の柱の影に一つ、この部屋の中に一つ、もう一つは………。下?
サキはふと思った。
一つの気配が妙に近いのだ。まるで地面の下に潜んでいるような――――――。
『ズドン』
サキがその場を飛び退くのとその音が鳴るのはほぼ同時だった。
先程までサキが居た足元から、先端に毒々しい液体が塗られた槍が突き出していたのだ。
「ほう?俺の不意打ちを避けるとはなかなかやるなぁ?」
その声は槍の下から聞こえてきた。
すると槍と共に一人の男が土の中から出てきた。身長は150cmほどと小柄で筋肉もそこまで付いていない禿げた男だった。
「お前、ここまでどうやって入ってきた?いや、聞くまでもないか」
男は続ける。
「俺様は槍使いのソージって言うんだ。この辺じゃ結構名が知れててなお前も聞いたことくらいはあるよな?」
しかしサキからは返事がないため男は舌打ちをする。
「チッ、まあいいとりあえずよろし―――」
そ〜じと名乗った男はニヤつきながら自己紹介をして気をそらしていたようだったがサキは背後の気配と右奥の柱の影の気配に気づいており、外で拾ってきた石を後ろの男の頭部へと投げつける。
見事投石は男の右目にクリーンヒットすると右奥の柱の影から何か飛んできた。
それを避けつつ槍の男ソージへ回し蹴りを加える。
「ブゲヘッ?」
しかしそれだけでは終わらない。
そのまま回転を利用しソージの持っていた槍を自分の方へ寄せ持ち変えるとそのまま槍をソージの心臓へ突き刺した。
「グハァッ!」
ソージは吐血しながら後ろへよろめきつつ拳を突き出してくるが、サキは突き刺した槍に足をかけそのままソージを蹴り飛ばす。
ソージはそのまま壁に激突し絶命した。
この間わずか5秒もなかった。
そのままソージを蹴り飛ばした反動を利用して柱の男へ投石しつつ地面へ着地する。
倒れる音が聞こえたが、すかさず移動する音も聞き取れた。
そのまま弓を持った男が隣の柱へ移動するのが見えたが頭部には何も被っていない。
頭狙ったけど……。何かで防いだ?
サキの疑問は的中していた。
弓を放った男は魔法で身体強化をしていたのだ。
しかし投石の威力を殺しきれずによろめいてしまいそのまま体制を崩したのだ。
直ぐに体制を立て直そうと隣の柱に隠れもう一度次の矢を射ろうと装填したとき背後からサキの声が聞こえた。
「魔法ってずるいよね~」
『トスッ』
その言葉とともに男の頭部に衝撃が走る。
「へ?」
そのまま男の意識は途絶えた。
サキは男の背後に回ると持参したサバイバルナイフで男の頭部と的確に捌いていた。
サキはその場の3人を無力化するとそのまま警戒を続ける。しかし近くには小窓の位置からの気配しかしなかった。
そのまま奥の通路を進み見張りの男も背後からナイフで一刺しで絶命させる。
小窓の下にはひとつの部屋があったがそれ以外は壁のみで気配も全くなくなった。
「盗賊団なのに6人しかいないんだ」
サキは殺した男たちの死体から装備品や武器を全て剥ぎ取りアイテムボックスへ放り込むと死体をバラバラにして外の森へ放り出した。
この方が早く腐敗し証拠も残りにくくなるからだ。
そしてアジトの中を探索し始めると入り口から部屋が三つ続いている構造になっており一番奥の部屋の上に先ほどの小窓があるだけでほぼ袋小路になっていた。
一番奥の部屋以外には部屋が存在しなかった。また、一番奥の部屋も”部屋”と表していいのかわからないものだった。
それを見たサキの印象はこうだ。
「銀行の金庫みたい」
サキは目の前の大きな扉を見てそうつぶやいた。
大きな銅の丸い扉がそのまま壁にくっついていたからだ。鍵は存在せず採ってしかついていないためサキはどうしたものかと考える。
銅ならば高熱でとかせそうではあるがサキの手元にはバーナーも何もない。
何を考えついたのかサキは森に入っていき木材を大量にとってくると火を焚き始めた。
そして元の世界から持ち込んだ拳大のハンマーのようなものを二つ取り出すとそれを火で熱する。
そのハンマーは元の世界で組織が開発した、磁石機能を取り込んだ折りたたみ式のハンマーだった。もちろん超合金のため熱に強い。
それを目視で大体1000度ほどまで熱するとそれを使いゆっくり触れさせると一瞬で溶けた。
「え」
普通であればもっとゆっくり時間をかけて溶けていくだろうと計算していたが思った以上に早かったため声に出してしまった。
まあ、この世界の金属と向こうの世界の金属は違うし計算も狂うわけだよね。
扉を融解させ適当な大きさの道が出来たところで道具をしまいそのまま中に入る。
するとそこには沢山のコインや変な形をした道具。更に数百種類の防具や武器が無造作に置かれていた。
「うわ、汚い」
常人ならば卒倒するような金銀財宝も価値を知らないモノの前ではゴミのように映る。しかしサキは部屋の端から全てアイテムボックスに回収することにした。
その作業だけでも1時間以上掛かった。
アイテムボックスへ送ったアイテムはパソコンのフォルダ分けのように様々なジャンルに分けられていた。
「異世界ってご都合主義って言うけど本当だったんだね」
そんなことを呟きつつ淡々とアイテム整理をしていくとまたしても文字化けのアイテムを発見した。
それはグレムを殺した時も見つけたクリスタルだったが、今回のクリスタルは赤色をしていた。
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呪術アイテム
■の女神■■
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こちらのクリスタルにも変な文字の書かれた紙が貼り付けてあり二つのクリスタルを並べてみる。
いくら考えてもただ綺麗なだけのアイテムに見えるだけだった。
そして考えた末サキは水色のクリスタルに貼ってある紙を剥がしてみた。
すると突然クリスタルが光だし一瞬目がくらむ。
「あぁ」
油断したなぁと思いつつ周りの警戒をするが手元にはクリスタルがあるだけでなんの変化もなかった。
しかしクリスタルをよく見ると中に入っていた彫刻がなくなっている。
そこまで気づくと突然目の前に気配が現れた。
すぐさまナイフを突きつけるとその気配は大きな声を上げた。
「きゃああああああああああああああああ」
甲高い声でなくそれはどうも人間ではなかった。
サイズは手のひらに乗るくらいの大きさで、長い水色の綺麗な髪を垂らし耳はエルフのような耳をして背中からは薄水色の羽が生えていた。
よくアニメの世界やファンタジーものに出てくる妖精のような見た目である。
「誰?」
サキはとりあえずナイフを突きつけながら問う。
「わ、私はアクエル。そのクリスタルに封印されていた水の女神だけど………。あなたは何者なの?まずその武器をしまって頂戴!」
アクエルと名乗った少女?からは動揺と疑惑……。そして恐怖心が伝わってきたが、何とか冷静さを保っているといった状況だった。
「女神って何?神様?」
サキはアクエルの質問は無視し自分の質問のみをぶつける。
もちろん微弱な催眠を使いつつだ。
「ちょ、それが人に物を聞く態度ですか?いやこの場合は神様かしら?」
サキはナイフを更に突きつけようとするとアクエルは表情を変える。
「じょ、冗談ですよ冗談!女神って言ってもわからないってことはあなた勇者様かしら?女神っていうのは神々の力を受け継いだ……。神様そのものです」
ここでも勇者か。勇者は結構有名なのかな?それともこの女神が詳しいだけ?
サキは先躍からアクエルに催眠をかけるが一向に効く気配がないため質問を続ける。
しかし今度は先にアクエルが口を開いた。
「あなた何か魔法でも使ってるの?さっきからあなたに対して不思議な感情を覚えてしまうのだけれど……」
「効いてるの?」
「やっぱり何かしてるの!?」
アクエルの反応からして催眠に気づいてはいるが、あえて掛かっていないか何かしらの力でレジストしているようだった。
サキにとって自分の技が効かない相手はアクエルが始めてて少し焦っていたが、表面には出さず冷静に問いを続ける。
「質問に答えてくれるなら殺さないから」
「ふあっ」
ナイフをこれでもかというくらい近くに近づけてアクエルに言うとアクエルは無言で首をカクカクさせた。
「まず君はどんな存在?」
「私にはアクエルという名前が………」
今度は少し殺気を込めアクエルを見るとすぐさま答える。
「わ、私達女神は複数人おりまして……。神々の力を頂いた存在です。人間は魔法を使いますがその魔法にも属性があり、女神は一人一つの属性を司っています。この世界の魔法の根源みたいなものです」
怯えながらもアクエルはしっかり答える。
「君たちが死ぬとどうなるの?」
アクエルは一瞬表情を真っ青にするがナイフをに目線を動かすと慌てて答える。
「そ、そんなこと聞いたことないですけど………。多分私が死ねば私の司る属性がこの世界から消えます。つまりこの世界で水属性の魔法が使えなくなります」
なるほど。
「つまり女神全員を殺したらこの世界から魔法は消えるってこと?」
「なっ!?何を恐ろしいことを言っているんですか!?………。でも、確かに使えなくなりますけど私達女神に死は存在しません。死なないわけではありませんが、時間が経てば復活するので永久に魔法の使えない世界になることはないです」
女神に死は存在しないが復活に時間がかかるから現状死にたくないってことかな?
「復活に掛かる年数は?」
アクエルは何故そんなことを聞いてくるのか理解できなかった。
この世界の人間であれば女神を目の前にしたらその場に跪き敬意を示すはずなのだ。
しかし目の前の男は違った。男のようで女のような、何とも言えない雰囲気。
更に珍しい黒髪をしており勇者かと思ったが、そんな感じはしない。
それに神である自分をナイフで殺そうとしているのだ。
まったく理解できない……。なんで女神の私がこんな目に合わなきゃいけないのよぉ。
アクエルが別の思考をしていると気づいたサキは表情は変えずに殺気を込めて言う。
「君が死んで実際に数えたほうが早いかな?」
そのままナイフを握っている手に力を込めた。するとアクエルは慌てて止める。
「あ、ま!待って!ストップ!!!!その女神にもよりますけど標準は1000年くらいです!だから刺さないでください!」
サキはナイフに込めた力を緩める。
そのままアクエルへの質問は続き二時間ほどその状態でいたが必要な情報を聞き出し満足したのかサキは考え事を始めた。
女神は昔人間に魔法を使わせるために協力していたが、そもそも神と崇められていただけで人間からは姿が見れない存在。
しかしサキにはそれが見えたのでサキを勇者と勘違いしたようだった。
サキが情報の整理をしているとアクエルが申し訳なさそうに言う。
「あのぉ~。もういいですかね私………?」
サキは笑顔で答える。
「うん、もう死んでも大丈夫だよ色々教えてくれてありがとうね」
そう言ってアクエルにナイフを突き刺そうとしたときアクエルは咄嗟に叫ぶ。
「あああああああああああああアイスプリズン!」
するとサキの肘からサキが凍りつき動かなくなった。
「はぁ……はぁ……。め、女神を殺そうとするからですよ!普通の人間じゃその氷は溶けません!今からでも謝ってくれれば許してあげま―――」
アクエルの言葉を最後まで聞かずサキは立ち上がり先ほどの焚き火の方へ向かう。
そうか、魔法の源なら魔法使えてもおかしくないよね。流石に油断しちゃった。
サキは焚き火に自らの腕を向けるが氷はまったく溶ける気配がない。
すると背後のアクエルから再び宣言された。
「そんな焚き火ていどじゃ私の魔法が解けるわけないんです!溶けるのは私と同等の存在だけですね!だから早く謝ってください!」
拘束から解かれた女神は見えていたとしても人間では太刀打ちできないレベルの力を持っていると話に聞いた。
だからなのかアクエルは強気でいるようだ。
サキが何も言わないでいると流石に苛立ってきたのか顔を赤くして叫んだ。
「ほ、本当に謝ってくれないんだったらこのまま………。こ、殺しちゃいますよ!?」
その言葉に俯いて考えていたサキは目線をアクエルに戻した。
お盆ですね。皆様どうお過ごしでしょうか。
台風も近づいてきて大変かとは思いますがしっかり水分補給をしてください。
繁忙期になりますが投稿頻度は落としたくないので頑張ります。
これからもどうか応援よろしくお願いいたします。