11話
よろしくお願いします。
「ほ、本当に謝ってくれないんだったらこのまま………。こ、殺しちゃいますよ!?」
その言葉にサキはアクエルの目をみた。
殺す………。
この世界に来て始めてその言葉を聞いた気がする。
向こうの世界ではそれこそ日常茶飯事だった殺しの生活。しかしサキにその言葉を向けてきたものは容赦なく殺した。
しかしアクエルからは殺気が毛ほども感じられない。
理解できなかった。殺す気もないのにそのような挑発をして何になるのか。サキは考える。しかし答えは出ない。アクエルはこちらを怯えながらも見つめている。
先ほどアクエルは自分と同等の力のあるものにしかこの氷はとけないといった。
同じ存在………。もしかして。
サキはもう一つのクリスタルのことを思い出す。
アクエルのクリスタルは水色。そしてもう一つのクリスタルは赤色。
素直に考えるなら水が水色で火は赤色だよね。
どのみち自分にはこの氷はどうしようもないと判断したサキはもう一つのクリスタルをアイテムボックスから取り出しそのまま紙をはがした。
その時アクエルは見えていなかったのかサキを見つめたままだった。
その時眩い光があたりに立ち込める。
「な!?きゃあああ目があああ!私の目がああああ!」
何やら聞き覚えのあるフレーズを叫ぶアクエルだが気にせずサキはアクエルを空いている方の手で掴む。
「しまっ!」
いくらもがいてもサキの手はびくともしない。
やがてクリスタルの光が収まるとまたしても甲高い女性の声が響く。
「あああああ私を封印するんじゃなあああああああああい!裏切り者おおおお!」
そしてそこにもアクエルと同じようにエルフ耳の赤く長い紙を垂らし背中からは薄赤い羽を生やした女神が浮かんでいた。
すかさずサキはアクエルを捉えている方の手に無理矢理もう一人の女神を一緒に掴む。
「え!????」
しかし赤い女神は何が起こったのか理解できておらず突然の出来事に驚いてばかりだった。
しかし状況を察したアクエルの顔は先程以上に真っ青である。
「まさか………」
しかしまだパニックの最中だった赤い女神は叫び続ける。
「何これええ!私何で!?あれ?」
そうして叫びながら身動きができないことにようやく気がついた頃には見慣れた女神のいることに気づきようやく落ち着きを取り戻した。
「え?アクエル!?うっそー!久しぶりじゃん!どうしたの?ってかなんで私―――」
サキはすかさず催眠を交え微笑みながら語りかける。
「初めまして火の女神さん」
そして自らの凍った腕を見せながら更に続ける。
「僕の腕がとっても冷たいんだけど、女神さんならどうにかできますか?」
そう言いながら悲しい表情を浮かべじぶんの腕を見ると、突然の状況にも関わらずやはり女神なのか赤の女神驚いた顔をしつつもすぐに魔法を唱える。
「な、なんか状況はわかんないけど困ってるのね!まっかせなさーい!”フレア~~!”」
「あっ!馬鹿ああああ!!」
アクエルが叫んだが遅かった。
サキの腕はたちまち元に戻り、関節や筋肉に問題が無いことを確認する。
「ありがとう女神さん」
サキはこれでもかという笑顔で、アクエルは世界に絶望したような顔で、フレイアは能天気な顔でにへらと笑う。
「えっへーん!もっとお礼を言ってもいいのよー?そういえばなんでアクエルが私の横で握り締められてるの?それに私まで……?お礼をするならもっとこう――――」
しかし火の女神のセリフが続くことはなかった。
突然目の前の優しそうな青年がナイフを構え、アクエルと自分を切り殺せる位置へ突き出してきたのだ。
だが、アクエルは直ぐに殺されることはないだろうと踏み、取引を持ちかけてみることにした。
「あ、あの!私達仲良くできませんか?どうしたらそれを下げてくれますか?」
これ以上にないほど丁寧な口調で離す。
まだ落ち着いていないのかところどころ話し方が変だが仕方ないだろう。
ここへ来てようやく火の女神も状況をなんとなく掴み、自分のせいで状況が悪い方へ傾いたことを知ると黙っていられなかった。
「あのさ!仮にも助けて上げたんだからせめて―――――――――」
「しっ!今はこの人に逆らっちゃダメ!私もさっき封印から解いてもらったけど、どうやらこの人は女神の存在を知らなかったらしいの。つまり私たちの命はこの人次第ってこと!」
アクエルが火の女神に小声で状況の説明をすると火の女神は納得はできないが、せざるおえなかった。
しかしこの状況で、はいそうですかと死ぬことはできない。
サキはそんな二人の慌てぶりを静かに観察する。
確かに女神なら何か使い道はあるだろう。
でもうるさいのが増えても困るし……。何より面倒くさい。
どうしよかと少々悩んだが、ふいに口を開く。
「ねえ?突然すぎて状況が読み込めないんですけど、色々説明してくれませんか~?そしたらいい方法が思いつくかもしれ………ないです」
サキは火の女神を見るが嘘は付いていないようだった。
先程の登場のしかたからして封印されてからの記憶は曖昧なのだろうと感じた。
とりあえずうるさいので火の女神に今がどういう状況なのかをアクエルに説明させる。
この時サキは気づいていなかったが、普通女神の魔法を喰らえば腕が凍死して火の女神の魔法で戻ったとしても完全に復活せず何かしら後遺症が残るのだ。
つまり女神の魔法をくらってケロっとしているサキが普通ではなく、本気で自分たちを殺すのではないかと思った二人はサキの逆鱗に触れないように最善の注意を払う。
「なるほど………。私がいない間にそんなことが!とりあえず私の名前はフレイアって言います。文字通り火を司る女神です!あなたは何を目的として私たちの封印を説いたんでしょうか?」
まずはそこからだと言わんばかりに質問をしてくるフレイアと名乗る女神。
そう、女神は元々封印されていたのではないが、女神の封印そのものを持っているか、女神を契約することで強力な魔法を扱うことができると言われている。
わざわざ封印を解いて女神に見放されたり、逃げられるリスクを負わなくても魔法が使えるというのにサキはわざあざ封印を解除した。女神たちはそれが気になっていたのだ。
「この方はきっとこの世界の人間じゃないのよ」
アクエルは推測を話すがサキは何も語らない。
「え?ええ???ますます意味がわからないわ!」
状況が進まないのでサキから情報を提示する。もちろん必要最低だ。
「ん~、とりあえず俺はこの世界の人間じゃないね~」
この世界の人間ではないことは薄々勘付かれているようなので話しておくことにした。
すると二人たりはなるほどと頷く。
それと同時に恐怖もしていた。普通の人間であれば突然目の前にあらわれた神のような存在を警戒こそすれ、平気で殺そうとはしないからだ。
二人の女神はこれからどうすれば生き残れるかを必死で考えていた。
死なないと言っても復活までの時間が長すぎるからだ。
しかしサキのほうから思わぬ質問があった。
「ねえ、この世界の人間じゃなくても魔法って使えるの?」
女神たちはお互いに思った。この質問をうまく利用すれば逃げられるのではないかと。
咄嗟に口を開いたのはフレイアだ。
「普通なら使えないです…………。で、でも私達が近くにいるだけで魔法を使うことができます!」
サキはじっとフレイアを観察する。
身振り手振り慌てながらも慎重に話すフレイアの目線や動作に微かな違和感を感じたのだ。
しかし笑顔を絶やさずに問う。
「そうなんだね。じゃあ君たちを殺すのは後回しかな?」
とりあえず命が助かりそうだと思った二人は目に見えて安堵する。
しかしその安堵も長く続かなかった。
「でも、フレイアさん嘘ついてるよね?」
その言葉に二人の女神は再び絶望した。
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