第95話
「古い上に、一部は意図的に消された痕跡もある」
「けれど残っている断片がいくつか…」
「少し引っかかる」
セラが短く尋ねた。
「どう」
アデリアは答える前に、もう一度ためらった。
それは本当に珍しい光景だった。
支部長アデリアは、分からないなら分からないと切って言う人間であって、曖昧な不安を口に含んで迷う人間ではなかった。
だが今はそうだった。
「生還者は窮地で生き残るクラスだ」
「それは合っている」
彼女がゆっくりと言った。
「問題は…その生き残り方が、思ったよりずっと執拗だということだ」
マヤの眼差しが変わった。
リナももう割り込まなかった。
アデリアは続けて言った。
「いくつかの記録には、使用者が自分でも意識しないまま、帰還のために状況と人と自分の体まで、すべて手段に変える様子が見られたと書かれている」
「罠の中で道を作り、捕獲状態で誘導線を逆にねじり、ひどい時にはほとんど死ぬ直前まで耐えながらも『帰れる確率が高い方』を選ぶという具合に」
エリンが低くつぶやいた。
「…それはただ根性のあるクラスじゃないわね」
「そうだ」
アデリアが短く受けた。
「だからさらに調査していた。これが単なる生存補正なのか、それとも使用者の思考様式そのものを帰還側へ過剰に傾けるのか、まだ確信が持てない」
リナが目を大きくした。
「じゃあレオンが危ないってこと?」
「今すぐそういう意味ではない」
アデリアはすぐに断ち切った。
「今すぐについては、むしろその性質のおかげで印を残し、連れていかれながらも道を作ったのだろう」
「だが…」
彼女はその続きをすぐにはつなげられなかった。
セラが静かに尋ねた。
「だが」
アデリアはレオンのプレートを見た。
青銅色の縁に残った微細な傷。
血痕。
爪痕。
生きて帰ろうとする執念が金属の上に残した、とても小さな傷跡たち。
「窮地であまりに長く耐え続けると、」
彼女の言葉は低く短かった。
「本人がどこまでを『生きて帰った状態』と認めるのか、その線が曖昧になる可能性もあるという意味だ」
リナが息を呑んだ。
マヤの口元から笑い気が完全に消えた。
エリンは目を閉じてから開いた。
アデリアはすぐに付け加えた。
「だから誤解するな」
「今すぐレオンが崩れるとか、狂うとか、そういう話をしているわけじゃない」
「まだ資料が足りない」
「推測を事実のように言いたくはない」
彼女は書類綴りを閉じた。
「ただ一つは確かだ」
「生還者は、私たちが考えていたよりはるかに極端なクラスである可能性が高い」
「単に死ににくい程度ではなく…」
「最後まで帰るために、人一人を異様なほどしぶとくする方向で」
エリンがごく小さく吐き出した。
「危険ね」
「そうだ」
アデリアが言った。
「敵にとっても危険で、状況によっては使用者自身にとっても」
マヤはしばらく何も言わなかった。
やがて弓の握りをさらに強く握り、つぶやいた。
「よし」
「じゃあもっと早く連れて帰る」
「あのバカを一人で長く耐えさせちゃ駄目だね」
リナもすぐにうなずいた。
「うん」
「捕まっているのも嫌だし、一人で変なところまで行くのはもっと嫌」
セラは相変わらず無言だった。
だが腰の青銅プレートの上に置いた手に、もう少し力が入った。
彼女の眼差しはむしろさらに沈んだ。
冷たく。
深く。
もはやこれは、単に拉致された仲間を取り戻す問題ではなかった。
レオンが生きて帰ろうとすればするほど、より危険な側へ自分自身まで追い込みかねない。
ならばなおさら遅れるわけにはいかない。
リナが歯を食いしばった。
「本当にバカ…」
マヤは弓を再び握り直した。
「それでも、うちのバカでしょ」
エリンは冷たく整理した。
「だから迎えに行く」
アデリアはもう一度セラを見た。
「本当に?」
セラは短くうなずいた。
「見つけるまでは殺さない」
アデリアがため息を飲み込んだ。
「よし」
「それなら十分だ」
マヤが鼻で笑った。
「それって十分じゃなくて、ぎりぎり合格でしょ」
エリンがプレートとナイフを交互に見て言った。
「追跡は私が続ける」
「レオンの体にかかった呪術の残滓がまだ生きている」
「完全に消える前なら掴める」
「待って」
エリンは膝をつき、プレートの裏面を指先で撫でた。
そこには埃の下に、ごく微かに削られた跡がもう一つあった。
ただの傷ではなかった。
レオンがわざと刻んだ印だった。
短い線が二本。
そして斜線が一本。
マヤが目を細めた。
「…方向?」
エリンがうなずいた。
「うん」
「東へ抜いたのは合っているけれど、最終方向はその次の北東」
「染色倉庫は途中経由地にすぎない」
アデリアの目つきが細くなった。
「北東なら古い倉庫が、いや…」
セラが先に答えを出した。
「下水水門区画」
マヤもすぐに受け入れた。
「人があまり行かなくて、臭いがひどくて、術式を隠しやすい場所」
エリンが低くつぶやいた。
「そして人を少し隠しておくにもいい」
リナは鈍器を肩に担いだ。
「よし」
「行く」
彼女は本当にそのまま飛び降りようとした。
だがセラが手首を掴んで止めた。
「隊列を合わせろ」
リナが振り返った。
「なんで?」
「お前は前で壊す」
リナの目が大きくなった。
「うん」
「マヤは上から断つ」
マヤが笑みもなく口元だけを歪めた。
「うん」




