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第93話

「準備は徹底していたが、レオンが二度抵抗したし、マヤの矢も一度刺さっている」


「奴らも最後まで速度を出せなかった」


マヤが歯を食いしばった。


「ならすぐ追って」


アデリアは彼女を見た。


「追う」


「だが怒りで目を塞いだまま走るな」


マヤの眉がぴくりと動いた。


「今それを言う?」


「言う」


アデリアの声は固かった。


「相手が狙ったのがそれだからだ」


それは正しかった。


だから余計に苛立った。


マルセラはレオン一人だけを欲しがっているわけではない。


レオンを餌にセラたちをおびき出し、散らし、感情的に動かそうとしている。


そうなれば逆にこちらが罠の中へ入る。


アデリアは続けた。


「今から一番危険なのは怒りじゃなく焦りだ」


「怒りは持っていけ」


「その代わり目は冷やせ」


セラはとても短く答えた。


「分かっている」


その声は相変わらず冷たかった。


だが今回はそこで終わらなかった。


セラはレオンの青銅プレートを腰に差したまま、屋根の上に立つ全員を一度見回した。


マヤの血のついた肩、リナの荒くなった息、エリンの指先の青い追跡光、そしてアデリアの固い顔。


その短い視線が一巡し終えた時、彼女の眼差しは先ほどと少し変わっていた。


相変わらず冷たい。


相変わらず怒っている。


だがそれに加えて、鞘に収まった剣のような整理が生まれていた。


「アデリア」


「言って」


「これはもう個人的な追跡ではない」


マヤが視線を上げた。


リナも荒い息を止めた。


エリンはすでに何を言うのか分かっている顔で、目だけを細めた。


セラは一語ずつ区切って言った。


「ギルド所属の青銅冒険者レオンが敵対勢力に拉致された」


「相手は既存の北部辺境伯領事件の関係者であり、ギルド登録事件の残党だ」


「救出、背後関係の洗い出し、加担者の逮捕」


「すべてギルドの正式な後続依頼に切り替える」




都市の夜風が屋根の端を一度かすめた。


セラは止まらなかった。


「そしてその依頼は、私たちのパーティーが受ける」


「ここで印を押して終わらせるつもりはない」


アデリアがすぐに断ち切った。


「これは書類一枚で終わる規模じゃない」


「降りる」


「ギルドへ」


真夜中のギルドは、昼とはまったく違う顔をしていた。


昼のギルドが鉄の匂いと酒の匂いと罵声が絡み合った市場の床だとすれば、夜のギルドは裏返した兜の中のようだった。


広いホールには人より影のほうが多く、受付カウンターの上のガラスランプは、遅くまで眠れない目のように黄色く震えていた。


掲示板に幾重にも差し込まれた依頼書は風一つなくても微かに揺れ、インクと革と金属と古びた紙の匂いが天井近くに沈んでいた。


片側の壁には夜勤の警備が槍を立てかけたまま立ち、反対側の小さな階段の上には支部長執務室と記録保管室が暗く続いていた。


その静寂を破って扉が開いた。


セラが先に入ってきた。


その後ろにマヤ、リナ、エリン、そしてアデリア。


全員が血の匂いと夜風と怒りをそのまままとっていた。


夜間受付を見ていた若い書記官がばっと立ち上がった。


「し、支部長?」


そしてすぐにさらに目を見開いた。


セラに気づいたのだ。


腰の剣、まっすぐ立った狼耳、目に宿った殺気。


「金等級冒険者…」


「『青眼の剣狼』セラ」


その言葉が飛び出すと、他の当直二人も同時に身を固くした。


マヤが入ってきた時、誰かがほとんど反射的につぶやいた。


「銀等級射手『紅尾の狐』…」


リナが鈍器を肩に掛けて通り過ぎると、警備兵の一人が唾を飲んだ。


「銀等級武闘家『破砕猫』リナまで」


最後にエリンが視線もくれずカウンター前をかすめると、書記官の声はほとんど囁きのように低くなった。


「金等級の魔法使い…」


「『氷藍の賢者』エリン」


その後でようやく、彼らは四人が一つのパーティーだという事実を思い出した。


アンブレイカブル・ローズ。


美しく、なかなか折れず、触れれば血を見るパーティー。




ギルドの中でも名前が妙に長く残る種類のパーティー名だ。


リナはそんな視線を一通り浴びてから、ようやく眉をひそめた。


「今、見世物でも始まったの?」


その一言に書記官たちははっと正気に返った。


アデリアがカウンターを指で二度叩いた。


「夜間緊急手続き開放」


「特別追跡および救出依頼を登録する」


「記録室も開ける」


「は、はい!」


書記官二人がほとんど滑るように動いた。


眠っていたランプがさらに灯り、閉じていた小さな鉄扉が開き、記録保管室から古びた帳簿が外へ引き出された。


静寂が崩れ、代わりに慌ただしさがホールの中を細く鋭く満たした。


セラはカウンターの前で足を止めた。


レオンの青銅プレートを、たん、と木の天板に置いた。


音は大きくなかった。


だがホール全体がその音を聞いたようだった。


「ギルド所属の青銅冒険者レオン」


セラが言った。


短く正確な声だった。


「拉致された」


その二文字に、室内の空気が一度冷たくなった。


セラはそのまま続けた。


「相手は北部辺境伯領事件の残党」


「マルセラと灰色の外套勢力」


「要求名分なし」


「意図は誘引と捕獲」

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