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第81話

書類綴りは高さまでそろえて積まれていて、地図は角ひとつ浮かないように広げられ、窓の下に置かれた茶碗でさえ取っ手の向きがそろっていた。


部屋の中にはインクの匂いと乾いた革の匂い、そして一晩中人を眠らせず計算させた事務仕事の匂いが薄く染みついていた。


アデリアはレオンが入ってくるなり、挨拶も長く受けなかった。


「来たか。」


「呼ばれて来ました。」


「知っている。」


「はい。」


「座るな。」


レオンは椅子のほうへ突き出しかけた尻を止めた。


「……あ。」


「今日は長くはかからない。」


「その言い方のほうが怖いのですが。」


アデリアは書類を一枚取り上げた。


「昨日、お前は正式なクラスを得た。」


「はい。」


「だが名前ひとつだけで昇級を与えるわけではない。」


レオンは返事をするタイミングを逃した。


あ。


やっぱりそれか。


いいことは半分までしかよくなくて、残り半分は必ず汗臭い。


アデリアはレオンがそれを飲み込むより先に言葉を続けた。


「ちなみにギルド等級は鉄、青銅、銀、金、白金の順に上がる。」


レオンは目を瞬かせた。


「急に私の人生に金属の匂いが濃くなりましたね。」


「ふざけるな。」


「鉄は登録したばかりの入り口、青銅は一人で送っても基本任務を終えられる者、銀は中危険度の現場で単独判断ができる者、金は支部ひとつの中核戦力、白金は都市いくつかの勢力図まで揺らせる者だ。」


彼女は地図の角を指先で押さえた。


「お前はこれまで帳簿上では鉄だった。」


レオンは少し傷ついた顔をした。


「セラさんのパーティーの中では、それなりに転がっていたつもりなのですが。」


「パーティー内と帳簿上は違う。」


「お前は戦場では鉄ではなかったが、一人で送ったとき戻ってきた記録が空だった。」


「だから枠も、昇級も止まっていた。」


レオンは小さく舌打ちした。


「分かりました。」


「つまり今日は、私が鉄から青銅へ這い上がれるか試される日ということですね。」


「そうだ。」


アデリアは窓のほうへ視線を投げて言った。


「今のギルド内でのお前の評価は微妙だ。戦場では確かに戦力だが、帳簿ではまだ単独完遂記録が弱い。『パーティー内の特殊軸』としては強いが、『一人で送っても戻ってくる奴』かどうかの公式確認が足りない。」


レオンは小さく手を上げた。


「質問があります。」


「言え。」


「生還者という名前をもらった次の日に、もうそれを検証するのですか。」


「そうだ。」


「早いですね。」


「生きている間に確認しなければならないからな。」


「……それはそうです。」


アデリアは机の上の地図を回した。


都市の西の外郭、城壁の外へかなり離れた丘が一つ示されていた。


地図には短くこうだけ書かれていた。


灰岩中継所。


「昨夜からここの烽火信号が途絶えた。」


アデリアが言った。


「本来は小型中継所だ。西の巡礼路と採石場道の間を行き来する伝令と商団の短い報告をつなぐ場所だな。規模も小さく、普段の危険度も低い。だから普通は二人で行くか、新人二人をつけて送ることもある。」


レオンは地図を見ながらつぶやいた。


「普通は、ですね。」


「そうだ。」


「今日は普通ではない。」


アデリアが彼の目をまっすぐ見た。


「お前が一人で行く。」


レオンはとてもゆっくり息を吸い込んだ。


「単独依頼。」


「単独確認だ。」


「一人で確認に行って、一人で処理して、一人で帰ってこいと?」


「正確だ。」


「私が嫌だと言ったら?」


アデリアは一拍も置かなかった。


「次の昇級が遅れる。」


よし。


交渉のように見えるが、実質交渉ではなかった。


レオンはもう一度地図を見下ろした。


西の外郭は北部に比べれば平和だ。


少なくとも地図の上ではそうだ。


だが地図はいつも匂いを隠す。


腐った血の匂いも、濡れた石段も、そこで誰が歯噛みしながら待っているかも。


彼は尋ねた。


「目標は何ですか。」


アデリアは指で地図を指した。


「三つだ。」


「一つ目、中継所の状態確認。」


「二つ目、烽火の再点火可否の判断。」


「三つ目、そこに配置された人員や伝達物の回収。」


「人が生きていれば連れてこい。」


「死んでいれば死因だけでも確認してこい。」


レオンは少し表情を硬くした。


「思ったより重いですね。」


「だからお前を送る。」


「私は今、褒められたのですか、それとも突き出されたのですか。」


「両方だな。」


実にアデリアらしい答えだった。


彼女は引き出しから小さな袋を一つ取り出して投げた。


レオンが受け取ってみると、中には赤い封蝋の欠片がはめ込まれた金属の呼び笛一つと、とても小さな水晶玉が二つ入っていた。


「呼び笛は非常呼集だ。」


「本当に死にそうなときだけ使え。」


「水晶玉は一度ずつ割れば光を出す。」


「夜になったら道に迷うな。」


レオンは袋を転がしてみた。


「慰めになりそうで、あまりならない品々ですね。」


「一人で行く奴には十分だ。」


「なぜそこまで一人でなければならないのですか。」


今度はアデリアがすぐには答えなかった。


彼女は地図の外、窓の外、都市の外のどこかを少しだけ見る顔をした。


そして低く言った。


「生還者は誰かの代わりに生き残ってやることはできない。」


短い言葉だった。


けれどその言葉は長く残った。


アデリアはすぐにまたいつもの顔に戻った。


「正午前に出発しろ。」


「日が沈む前に戻れればいい。」


「遅くても夜のうちには戻れ。」


「戻れなければ……」


レオンが笑って受けた。


「そのときは、私がまだ生還者ではなかったと判定されるわけですね。」

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