第74話
生きている都市は、夕方に見るといっそう正直だ。
昼の虚勢が少し抜け、夜の本音がまだ出きっていないからだ。
レオンはパン屋の前で足を止めた。
朝リナが食べていたものとは違う、薄くてぱりっとした皮のパンが焼きたてで出ていた。
彼は少し迷ってから一つ買った。
そして一口目をかじった瞬間に思った。
あ。
これはいい。
本当にいい。
北部ではパンもどこかもっと重かった。
生き延びるための食べ物という感じ。
こちらのパンは、ただ夕方だから食べるパンだ。
その違いが不思議と大きく感じられた。
街角の広場のベンチには、セラが先に座っていた。
レオンは一瞬足を止めた。
セラは彼を見ても驚かなかった。
ただ隣の席を一度見て、また視線を戻した。
レオンはそろそろと近づいて座った。
「偶然ですね。」
「そうだ。」
だが追い払う言葉ではなかった。
広場には夕方の光が薄く敷かれていた。
噴水の縁に腰かけた子ども二人がまだ家に帰らないと粘っていて、遠くでは楽師がゆるい曲を弾いていた。
市場のほうの騒音は昼より沈んでいたが、完全に消えてはいなかった。
都市というものは、眠る直前までずっとつぶやいている。
レオンはパンをもう一口かじって言った。
「セラさんは休日でも外に出るんですね。」
「部屋にばかりいると息苦しい。」
「私もそうです。」
「知っている。」
その答えが少しおかしかった。
セラはしばらく噴水のほうを見てから、低く言った。
「北部から戻ると、いつも数日は騒がしい場所のほうがいい。」
レオンはその言葉を噛みしめた。
ああ。
そうだな。
静かだと、むしろいっそう鮮明になる。
割れた茶碗の音。
マルセラの声。
灰色のマントの裾。
リリアが踏み上がっていった自分の背中。
そういうものが。
だから騒がしい都市のほうがいい。
パンの匂い、人々の声、楽器の音、子どもの笑い声、商人たちの喧嘩。
そういうものが、意識の隙間を先に埋めてくれる。
レオンは笑った。
「セラさんがそう言うと、少し安心します。」
「なぜだ。」
「こういうのが私だけの変な癖ではないんだなと思いまして。」
セラは少し沈黙してから言った。
「お前は他の部分も変なところが多いから大丈夫だ。」
正確で、少し痛かった。
「はい。」
「反論は難しいですね。」
セラはごく少し口元を動かした。
それを見てレオンも笑った。
夕暮れはゆっくりと降りてきた。
広場の灯りが一つまた一つとともり、噴水の水の色は暗くなり、人々の足取りもだんだん少なくなった。
今日は休みの日だ。
本当に。
剣も抜いていないし、誰も追ってきていないし、誰の名前も奪われていないし、おまけにパンもおいしい。
これならかなり悪くない一日だ。
レオンの目の前に文言が浮かんだ。
【休息一日目終了直前】
【全般的評価:思ったより良好】
【個人的感想:はい、明日もこうだといいですね】
レオンはふっと笑った。
「その通りです。」
セラが隣で言った。
「また浮いているのか。」
「はい。」
「消せ。」
「努力します。」
広場の上を夕風が一度かすめていった。
夕焼けの匂いとパンの匂いと都市の埃の匂いが一緒に運ばれてきた。
レオンはそれをゆっくり吸い込んだ。
いい。
こういう日もなければ。
そうでなければ、次にまた転がる力が出ない。
もちろん次に転がらないほうがもっといいが。
それはまあ、後で考えよう。
今日は休みの日だから。
都市の朝は、人一人くらいもう少し寝かせておきたくても、結局扉を叩いてしまう種類のものだった。
屋根は一晩かけて冷えた日差しの残りを薄くかぶったまま静かに伏せており、石畳の上を早朝の商人たちの荷車ががたがたと通り過ぎていった。
市場のほうでは焼きたてのパンの匂いと濡れた藁の匂い、乾ききっていない魚の匂いが路地ごとに絡みつき、遠くの鍛冶場では鉄を叩く音が眠たげな心臓のようにゆっくり響いていた。
この都市はいつもそうだった。
誰が北部から死にかけた姿で帰ってこようと、誰が辺境伯を救ってこようと、誰が秘密結社の奴らの胸ぐらをかろうじてつかんでこようと、朝になればまた次の一日を開く準備をする。
とても薄情で、とても誠実な顔だった。
だからレオンは、その都市が少し気に入っていた。
生きて帰ってきた人間に過剰に感動しない都市。
おかげで自分もあまり気まずくならずに済んだからだ。
北部から戻った後の一日目は、本当に瞬きをする間に過ぎた。
いろいろなことがあった。
ギルドへの報告。
応急処置。
リリアと辺境伯側の事情説明。
マルセラと灰色眼球会の実行犯の処理問題。
そしてギルドの内外へ広がる噂を適度に抑えておくことまで。
気づいてみると日が沈んでいて、レオンはベッドに背中をつけたまま「今日は本当に何も起こってはいけない」と本気で祈っていた。
もちろん世界はそういう祈りをあまり聞いてくれない。
それでも昨日は昨日だった。
今日は休息二日目だった。
少なくとも帳簿上は。
実際には、体は相変わらず重かった。
肋骨のあたりは大きく息をすると痛み、肩にはまだ薬草の匂いが染みた包帯が巻かれていた。
回復室の薬師が「動くな」と何度も言ったが、そういう言葉はセラのパーティーの周辺では生活上の助言ではなく、希望事項に近かった。
レオンはギルド宿舎二階の窓辺に肘をついて座り、下を見下ろしていたが、脇腹を押さえて小さくうめいた。
「いいですね。」
「まだ痛いですね。」
ベッドの向かいでブーツを履いていたマヤが、ふっと笑った。
「それを朝の挨拶みたいにしないで。」
「状態報告です。」
「誰が受け取るの?」




