第63話
切っ先はシャツだけを薄く裂いて通り過ぎた。
灰色マントの男の目がほんの一瞬揺れた。
見えた。
今、驚いた。
よし。
なら、今度は俺の番だ。
レオンは後ろへ下がる代わりに、前へ半歩ねじ込んだ。
格好悪かった。
まったく真っ当な戦いではなかった。
まるで重心を失った人間が、無理やり相手の懐にしがみつくような格好だった。
実際にも半分はそうだった。
だがレオンは、そういう格好に慣れていた。
丁寧な剣術より、見苦しい生存のほうにずっと。
彼は灰色マントの男の剣を握る手首ではなく、肘の下を両手で押し上げた。
正確な技ではなかった。
ただ、相手が一番苛立つ角度をぼんやり知っている身のこなし。
男の切っ先が上へ持ち上がった。
レオンはそのまま額をぶつけた。
ゴン。
「くっ!」
男が後ろへ揺れた。
レオンも当然痛かった。
ものすごく。
目の前が一瞬白くなった。
【正面衝突判定】
【非効率だが効果あり】
レオンはよろめきながら笑った。
「はい。」
「私もわかっています。」
「格好悪いでしょう。」
灰色マントの男の顔が完全に歪んだ。
「狂った野郎が……」
レオンはとても真剣にうなずいた。
「時々、そういう評価をいただきます。」
しかし男はやはり簡単な相手ではなかった。
彼はすぐに後ろへ下がらず、むしろレオンの頭突きで体が後ろへ反った反動をそのまま回し、膝蹴りへつなげた。
下腹部を狙った、短く悪辣な角度だった。
レオンはそれを見ても完全には避けられなかった。
「うっ。」
息が詰まった。
体が折れた。
そして折れた瞬間、灰色マントの男の左手がレオンの襟首をつかもうと伸びた。
押し倒し、そのままリリアのほうへ向き直るつもりだった。
だがレオンはすでに折れていた。
いっそさらに低く沈んだ。
ほとんど膝から床に落ちた。
べしゃっ。
【転倒判定】
【相手の掴み回避】
【次の行動成功率上昇】
よし。
今日も自分らしいな。
レオンは床に片手をついたまま、反対の手で壊れた燭台の台座をつかみ、相手の足首へ叩きつけた。
コン。
とても質素な音だった。
それでも男の足が一瞬折れた。
その刹那だった。
マヤの矢が飛んできた。
正確に灰色マントの男の袖口をかすめ、壁飾りに突き刺さった。
当てるための矢ではなかった。
どけ、あるいはそこに立っていろ。
そのどちらかだけを強いる矢。
男が本能的に体をひねった。
レオンはその隙を逃さなかった。
彼は床を滑るように入り、男の膝裏を肩で押し上げた。
ドン。
今度は奴が膝をついた。
「今!」
マヤが叫んだ。
リナは待っていたとばかりに鈍器を持って駆け込んだが、セラが低く遮った。
「違う。」
「それはレオンの分だ。」
リナが目を見開いた。
「おお。」
その短い感嘆が、応接室の空気を少し変えた。
そうだ。
これは今、レオンの分だった。
灰色マントの男もそれに気づいたのか、膝をついたまま歯を食いしばった。
「お前ごときが……」
【『取るに足らない』判定を感知】
【補正上昇】
【蓄積値使用効率上昇】
そうだ。
最後までそう言っていろ。
それがお前にできる最悪なら、こちらにはなかなかいい燃料だから。
レオンは息を荒げながら立ち上がった。
脚が震えた。
肋骨も痛かった。
本当に、見ただけでも状態が悪かった。
だからこそ、よかった。
ああいう奴はそういうものを見ると、必ず結論を急ぐから。
勝ったと思う。
折れると思う。
押せば倒れると信じる。
そしてその信じ込みがたいてい、一番痛いところをさらけ出す。
灰色マントの男が最後に剣をひねって持ち上げた。
膝をついたままでも突ける角度。
低く、短く、急所をかすめる側。
レオンは今度は退かなかった。
彼はむしろ正面から入った。
切っ先が肩を薄くかすめた。
痛かった。
だが止まらなかった。
レオンの手が男の手首をつかんだ。
もう片方の手は剣を握る手の甲の上をそのまま押さえた。
荒くて不格好だった。
技には見えなかった。
それでも力は乗っていた。
「なぜ……」
男が息を呑んだ。
レオンは笑った。
「たくさんやられてきましたから。」
彼はそのまま自分の額をまた叩きつけた。
一度。
ゴン。
男の鼻から血が噴き出した。
二度。
ゴン。
握る力が抜けた。
切っ先が下へ落ちた。
三度目は頭突きではなかった。
レオンは緩んだ手首をひねり、剣を完全に床のほうへ押さえ込んでから、膝で男の胸を押して倒した。
べちゃっ。
絨毯の上に、血と茶と一緒に奴が寝かされた。
剣はレオンの手に入った。
灰色マントの男は信じられないという顔で自分の空いた手を見た。
そしてすぐ上から、息を切らして自分を見下ろすレオンを見た。
レオンは切っ先を男の喉元のすぐ下へ向けた。
正確ではなかった。
腕も震えていた。
だがその震えさえ、妙に本物だった。
「いいです。」
レオンが息を荒げながら言った。
「今度は私が聞きます。」
男が唇を噛んだ。
「灰色眼球会の中で、誰の下で動いているんですか。」
男は答えの代わりに笑った。
血のついた笑みだった。
「その程度だと思っているのか?」
レオンも笑った。
「いいです。」
「では、その程度ではないということですね。」
男は最後まで口をつぐんだ。
しかし彼の瞳がほんの一瞬揺れた。
灰色眼球会。
そうだ。
こいつひとりで終わるわけがない。
少なくとも上にひとりくらいはいる。
その瞬間、応接室の扉が勢いよく開いた。
ヘレナが先に入ってきた。




