第60話
「血を流しすぎれば損が大きいでしょう」
リナがすぐに顔をしかめた。
「うわ」
「言い方、本当に汚いね」
マヤも短く受けた。
「うん」
「聞けば聞くほど撃ちたくなる」
マルセラが冷たく笑った。
「では、どうぞお試しください」
彼女が指を軽く持ち上げると、応接室の両側の扉が同時に開いた。
黒いマントが四人。
使用人の服を脱ぎ捨てた警備が二人。
そして奥の秘密金庫の扉の前に隠れていた短剣兵が二人。
新たに加わっただけで八人。
すでに中に張りついていた灰色のマントの男まで数えれば、さらに多かった。
狭い室内でもつれるには、ちょうどよく多すぎる数だった。
レオンは心の中でつぶやいた。
うわ、本当に優雅に戦わせない配置だ。
彼の目の前に文言が浮かんだ。
【応接室交戦、第2段階継続】
【狭い空間、多数の敵、複数の保護対象】
【使用者状態:正直よくありません】
【個人感想:はい、また私の好みではない戦場です】
レオンは小さく笑った。
「そのとおりです」
灰色のマントの男が眉をひそめた。
「狂っているのか?」
【『取るに足りない』判定を感知】
【補正上昇】
いい。
やはりこういう奴らは実に勤勉だ。
先に弾けたのは灰色のマントの男だった。
彼はレオンがまだ完全に姿勢を立て直す前に、刃をひねって突いてきた。
正直な直線ではなかった。
肉を斬るより、重心を崩し、避けられればすぐにリリアのほうへ回れる角度。
やはり、ろくでもない奴らしく計算が早い。
レオンは反射的に横へ体をひねった。
肋骨が疼き、足はまだ完全には言うことを聞かなかった。
だから避けようとした動きが、途中で中途半端に折れた。
ところが、その中途半端さがかえって生きた。
刃先は本来なら脇腹を掠める角度だったが、レオンが半拍遅れて崩れたせいで虚空を掠めた。
【姿勢崩壊判定】
【結果的に回避成功】
レオンはふらつきながら笑った。
「いいですね」
「最初からこちらも調子が悪いわけではありません」
灰色のマントの男が歯をむいた。
「最後までうるさいな」
【『取るに足りない』判定を感知】
【補正上昇】
そうしてまた踏み込んできた。
その刹那、両側の扉が開き、増援が一気に雪崩れ込んだ。
先に弾けたのはリナだった。
「どいてええ!」
彼女は返事も待たず、応接室中央の卓を足で蹴り飛ばした。
重い樫の卓が絨毯の上を滑り、敵二人の脛にぶつかった。
ひとりがよろめく間に、リナの鈍器がそのまま飛んできた。
どん。
盾が先に曲がった。
その次に手首が崩れた。
最後に人が飛んだ。
応接室の壁に掛かった狩猟画が揺れた。
どうやら絵の中の鹿も気分が悪かったはずだ。
マヤは右へ流れた。
彼女は室内で弓を使うとき、いつもそうするように、長くは引かなかった。
短く、速く、区切って撃った。
一本目の矢が奥の短剣兵の肩に刺さり、二本目はカーテンの裏から飛び出してきた警備の太腿を留めた。
「隠れて襲うのって、普通すぎて感動がないんだよね」
相手が罵声を吐くより先に、三本目の矢が飛んだ。
燭台が砕けた。
ガラス片と蝋が同時に降り注いだ。
視界がにじんだ。
エリンがすぐにその隙をつかんだ。
「いい」
「そこ、そのまま」
薄い氷膜が床を掠めた。
絨毯の上に広がった茶と血が凍り、滑りやすい層を作った。
短剣兵のひとりが足を滑らせ、そのままソファの肘掛けに顎をぶつけた。
レオンはそれを見て、本気で思った。
やはりこのパーティー、人を殴る方法が多彩だ。
その間に灰色のマントの男はレオンの横をかすめ、再び内側へ入り込もうとした。
レオンは床に転がり落ちていた割れた茶托を拾い、そのまま奴の足首へ投げた。
かつ。
とても素朴で卑怯な音だった。
男の歩みが半拍もつれた。
ごく短い妨害だった。
だが今は、その短さが命の値段だった。
セラはそのすべての騒ぎの中で、ただひとつだけを見ていた。
マルセラ。
彼女は最短の道を行った。
卓を越えなかった。
椅子を蹴り飛ばさなかった。
敵をわざと斬りもしなかった。
ただ最小限だけを切った。
黒いマントのひとりが前を塞いだ。
手首。
斬った。
二人目が横から突いた。
セラは体を半寸回して刃を流し、肘でみぞおちを打った。
三人目は背後へ潜り込んだ。
剣の柄が顎を跳ね上げた。
短い。
硬い。
そして恐ろしいほど無駄がなかった。
エドモンド辺境伯が低く言った。
「やはり強いな」
レオンは心の中でだけ答えた。
はい。
怒ったセラさんは特に。
だがマルセラもただ立ってはいなかった。
彼女はセラを正面から相手にしなかった。
代わりにリリアのほうへ視線を投げ、レオンと辺境伯の呼吸を乱そうとした。
非常に悪い方向に賢い女らしく、一番揺れやすい場所を先に突いた。
「リリアお嬢様」
彼女が冷たく笑って言った。
「まだ遅くありません」
「叔父上が生きている今が最後です」
「名前は整理すれば終わりますが、命は作り直せませんから」
リリアが揺れた。
ほんの少し。
本当に、ほんの少し。
その隙をレオンが見た。
そしてマルセラが右手を上げるのも同時に見た。
マルセラはリリアのほうへ言葉を投げながら、同時に横の警備へ短く手振りした。
邪魔者が誰なのか、誰を先に崩すべきなのか、正確に計算した動きだった。




