第57話
「名前を盗む者は、最後の瞬間を直接見ようとする」
その一文は乾いていたが、だからこそ、かえって正確だった。
レオンは心の中で思った。
なるほど。
これは単なる書類泥棒ではない。
誰が崩れ、誰が膝をつき、誰が本当の主のふりをして立つのかまで目で確認して、ようやく完成する仕事だ。
本当に趣味の悪い連中だな。
通路がもう一度曲がった。
前方の壁面に小さな鉄扉が現れた。
ほかの扉とは違い、手垢が多かった。
暖炉管理室へ続く扉だろう。
セラが扉の前で止まった。
辺境伯がごく低く言った。
「ここだ」
マヤが耳を澄ませた。
一瞬。
そして目を細めて囁いた。
「内側は広い空間」
「人が複数」
「鎧の音が二、三」
「それから……」
「靴音」
リリアの表情が一気に強張った。
「マルセラ」
その名前は確信のように落ちた。
エリンが指先の光を弱めた。
管理室の内側へ光が漏れたら終わりだ。
セラはゆっくりと扉の取っ手に手を置いた。
扉は施錠されていなかった。
むしろそれが余計に怪しかった。
彼女はほんの少しだけ扉を開けた。
内側は小さな暖炉管理室だった。
石炭と薪、長い火ばさみ、灰かき、煤のついた手袋、暖炉の煙道を掃除する長いブラシが壁に掛けられていた。
部屋の中に人はいなかった。
代わりに向かいの壁には大きな石造りの換気口がひとつあり、その向こうからかすかな光と音が流れ込んでいた。
応接室だ。
一行はひとりずつ部屋の中へ滑り込んだ。
リナは扉を閉め、息を殺した。
エリンは換気口の縁の隙間に、とても薄い青い線を重ね、音が内側へ漏れないよう塞いだ。
マヤは先に低く上がり、換気口の隙間から中をのぞいた。
そして舌打ちした。
「うわ」
ごく小さな感嘆。
とても悪いほうの。
セラが手で合図した。
マヤは横へどいた。
セラ、辺境伯、エリン、リリア、レオンの順に中を見た。
西の応接室は美しかった。
美しすぎて吐き気がするほどに。
天井は高く、金色の装飾がアーチのように曲がり、長い赤い絨毯は部屋の中央をまっすぐ割っていた。
暖炉の火はすでに消えていたが、灰色の灰の下にはまだ余熱が残っているように、赤い息を抱えていた。
大きな窓は厚い垂れ幕で半ば覆われており、昼の光が室内に柔らかく、嘘のような雰囲気を作っていた。
外の城内が血と噂と軍靴の足音できしむ間、ここだけはまるで舞踏会前の落ち着きを演じているようだった。
そしてその真ん中に、マルセラが立っていた。
侍女長だった。
黒い髪をきちんと結い上げ、真珠のピンが二本挿されていた。
灰色と紺色の混じった整った侍女長の服装は、染みひとつなく整えられていた。
手袋をはめた指は細く長く、顎の線は厳しく整えられた人のように鋭かった。
年は四十前後だろう。
美しいと言うべきか、冷たいと言うべきか、曖昧な顔。
ただ、その顔には非常にはっきりしたものがひとつあった。
自己統制。
自分の感情をいつ、どの程度、誰の前で見せるのか、非常に長く訓練された人間の顔。
彼女は今も落ち着いていた。
落ち着きすぎていて、かえって気味が悪かった。
その前には大きな机がひとつ置かれており、机の上には封印された印章箱、古い文書綴り、ベルハルト家の紋章が刻まれた小さな金属箱、そしてすでに広げられた系譜文書が数枚、整列していた。
会計官らしい痩せた男が、その横で手を震わせながら帳簿をめくっていた。
部屋の片隅には武装した警備が三人立っていた。
鎧だが、正式な家門の紋章は隠されていた。
恥ずかしいからなのか、それともまだ堂々とさらす段階ではないからなのか。
そして一番奥、壁に背を預けて立つ灰色のマントの男がいた。
灰色眼球会側の連絡役だろう。
レオンはそれを見た瞬間、心の中で思った。
よくない。
とてもよくない。
だが一番よくないのは、マルセラの顔だった。
彼女は震えていなかった。
興奮もしていなかった。
むしろ今日すべき仕事を正確に終えに来た人のようだった。
リリアの手が震えた。
その震えが怒りなのか裏切られた痛みなのか、まだ名前をつけにくい種類だと感じられた。
辺境伯は非常にゆっくり息を吸い込んだ。
その横顔は石柱のようだった。
動かないが、内側にどれほど亀裂が広がっているのかは誰にもわからない。
そのとき、内側でマルセラが口を開いた。
声は低く整っていた。
「金庫はまだ開かないのですね」
会計官が震える声で答えた。
「印章と系譜文は二重鍵です。閣下の公印と……直系家族の確認が必要で……」
マルセラは頭をほんのかすかに傾けた。
「だからお嬢様を探せと言ったでしょう」
その言葉に、リリアの顔が真っ白になった。
レオンは心の中で、ごく短く悪態をついた。
ああ。
本当に最後まで汚いやり方だな。
灰色のマントの男が壁から離れた。
「時間がかかりすぎます、侍女長」
「外の整理は完璧ではありませんぞ」
マルセラは彼を見もしないで答えた。
「焦らないでください」
「名前は急いだからといって美しくはなりません」
その言葉が、レオンを怒らせた。
名前を盗もうとする人間が、名前の美しさなどと語るとは。
本当に、ろくでもない人間たちだった。
辺境伯がごく低く言った。
「聞いた」
セラが彼を見た。
その一言には、許可は必要ないという意味が入っていた。ルハルト家の紋章が刻まれた小さな金属箱、そしてすでに広げられた系譜文書が数枚、整列していた。
会計官らしい痩せた男が、その横で手を震わせながら帳簿をめくっていた。
部屋の片隅には武装した警備が三人立っていた。
鎧だが、正式な家門の紋章は隠されていた。
恥ずかしいからなのか、それともまだ堂々とさらす段階ではないからなのか。
そして一番奥、壁に背を預けて立つ灰色のマントの男がいた。
灰色眼球会側の連絡役だろう。
レオンはそれを見た瞬間、心の中で思った。
よくない。
とてもよくない。
だが一番よくないのは、マルセラの顔だった。
彼女は震えていなかった。
興奮もしていなかった。
むしろ今日すべき仕事を正確に終えに来た人のようだった。
リリアの手が震えた。
その震えが怒りなのか裏切られた痛みなのか、まだ名前をつけにくい種類だと感じられた。
辺境伯は非常にゆっくり息を吸い込んだ。
その横顔は石柱のようだった。
動かないが、内側にどれほど亀裂が広がっているのかは誰にもわからない。
そのとき、内側でマルセラが口を開いた。
声は低く整っていた。
「金庫はまだ開かないのですね」
会計官が震える声で答えた。
「印章と系譜文は二重鍵です。閣下の公印と……直系家族の確認が必要で……」
マルセラは頭をほんのかすかに傾けた。
「だからお嬢様を探せと言ったでしょう」
その言葉に、リリアの顔が真っ白になった。
レオンは心の中で、ごく短く悪態をついた。
ああ。
本当に最後まで汚いやり方だな。
灰色のマントの男が壁から離れた。
「時間がかかりすぎます、侍女長」
「外の整理は完璧ではありませんぞ」
マルセラは彼を見もしないで答えた。
「焦らないでください」
「名前は急いだからといって美しくはなりません」
その言葉が、レオンを怒らせた。
名前を盗もうとする人間が、名前の美しさなどと語るとは。
本当に、ろくでもない人間たちだった。
辺境伯がごく低く言った。
「聞いた」
セラが彼を見た。
その一言には、許可は必要ないという意味が入っていた。




