第5話
そして言った。
「何ですかこれ、スキル名が少し悲しくないですか?」
だが説明はそこで終わらなかった。
【蓄積値確認中】 【奴隷生活、殴打、嘲笑、飢餓、過労、睡眠剥奪、人格軽視、名前喪失、理不尽な暴行】 【合算結果:非常に多い】
レオンの表情が妙になった。
「数値化されると急に腹が立ちますね」
その瞬間、黒い手が彼の足首をつかんだ。
レオンは転んだ。
べしゃり。
とても格好悪く。
魔法使いが嘲笑った。
「最後まで滑稽な雑種だな」
その言葉がスイッチだった。
レオンの体のどこかで熱いものが一気に噴き上がった。
まるで長く我慢していた水が蓋を吹き飛ばすように。
【条件達成】 【『取るに足りない』判定感知】 【補正最大上昇】
レオンは床に手をついて立ち上がった。
怖くないわけではなかった。
足は震え、手も震えていた。
それでも笑いも出た。
本当に、この世界は最後まで人を妙な扱い方をする。
よりによって、こんな形で得るのか?
よりによって、今?
彼はつぶやいた。
「いいでしょう」
「そう来るなら、僕も少しずるく行きます」
セラが叫んだ。
「レオン、下がれ!」
「嫌です!」
それはレオンが初めて、かなり大きく行った反抗だった。
彼は走った。
正確には二度よろめき、一度滑ったあと、とにかく前へ進んだ。
骸骨兵が立ちはだかった。
レオンは反射的に拳を振った。
どん。
骸骨の頭が飛んだ。
レオンが止まった。
骸骨も止まった。
頭のない形で。
「え?」
レオンが言った。
リナが叫んだ。
「ええっ!?」
マヤも叫んだ。
「ちょっと待って、何がどうなったの!?」
エリンの目が細くなった。
「それ、今さっき素手だったよね?」
レオンは自分でも信じられないという顔で拳を見下ろした。
「はい」
「僕も今、自分の手に驚きました」
魔法使いが表情を固くした。
「生意気な……!」
赤い波動が押し寄せた。
レオンは避けようとして足を引っかけ、また転んだ。
どん。
【転倒判定】 【次の行動成功率上昇】
「このスキル、僕の尊厳を燃料にしていますね!」
だが効果は確かだった。
彼が手当たり次第につかんで投げた壊れた盾の欠片が、空中で絶妙に跳ね、魔法使いの額を真正面から打った。
こつん。
思ったより軽快な音だった。
魔法使いの詠唱が途切れた。
セラがその隙を逃さなかった。
彼女が低く身を沈めて突進した。
剣先が赤い障壁の弱まった隙間を裂いて入った。
マヤの三本の矢が、続けざまに水晶へ突き立った。
エリンの呪文が風を圧縮し、破片を一点へ押し込んだ。
リナは足首をつかんでいた黒い手を引き裂き、祭壇へ跳び上がった。
レオンは息を切らしながら叫んだ。
「なんとなく今です!」
「詳しい原理はわかりませんが、今なのはわかります!」
「わかってる!」
四人の返事が同時に弾けた。
次の瞬間。
どごおおん。
赤い水晶が粉々に砕けた。
光があふれた。
黒と赤の破片が礼拝堂を埋めるように降り注ぎ、骸骨たちは糸の切れた人形のように崩れた。
壁を這っていた影たちは悲鳴を残して蒸発した。
魔法使いは膝をつき、信じられないという顔でレオンを睨んだ。
「貴様のようなものが……」
「どうして……」
レオンはにっと笑った。
唇は切れ、服はぼろぼろで、膝は震えていた。
それでも笑った。
「よくわかりません」
「ただ、ひどい目に遭ってきた人をあまり甘く見ないほうがいいみたいです」
魔法使いは最後に手を伸ばした。
エリンの氷槍が彼の杖を貫いた。
セラの剣の柄が彼の顎を跳ね上げた。
リナの鈍器が彼の肩を殴りつけた。
そしてマヤの矢がローブの裾を壁に縫い止めた。
魔法使いは壁にぶらんとぶら下がったまま気絶した。
とても品なく。
静寂。
レオンが息を切らしながら言った。
「終わりましたか?」
エリンが答えた。
「ひとまずは」
マヤが弓を下ろしながらにやにや笑った。
「あんた、本当に何なの」
リナは目を輝かせた。
「拾ってきたらチートだったね?」
セラはレオンの前に来て、しばらく彼を見下ろした。
そして短く言った。
「よくやった」
その二文字は、不思議なことにどんな長い褒め言葉よりも重かった。
レオンはぼんやりしていたが、結局照れくさそうに笑った。
「ありがとうございます」
「実は僕も今初めて使いました」
「取扱説明書は相変わらずありません」
マヤが吹き出した。
エリンは長く息を吐いた。
リナは背中をぱんぱん叩いた。
強すぎて、レオンが前につんのめった。
【転倒判定】 【次の行動成功率上昇】
レオンが床に突っ伏したまま叫んだ。
「日常生活でも出るんですか!?」
その言葉に、全員が笑った。
廃城の冷たく腐った空気の中で、その笑いだけは不思議なほど温かかった。
城から戻ったあと、失踪者たちは救出され、盗賊と魔法使いの残党は片づけられた。
依頼は成功として処理され、報酬もたっぷりだった。
都市の外れは相変わらず汚く、市場の匂いは相変わらず荒々しく、世の中は相変わらず親切より理不尽のほうが多い顔をしていた。
けれどレオンには、もう帰る場所ができていた。
小さな宿の一室。
一緒に飯を食べる人たち。
明日出発する依頼。
そして自分の名前。
レオン。
誰かが適当に付けてくれた名前だったが、彼はその名前が好きだった。
発音しやすいからよかったし、呼ばれやすいからもっとよかった。
何より、その名前を呼ぶ声たちが、もう自分を物のように扱わないことがよかった。




