第38話
「辺境伯閣下は今……」
「城の中にはおられません。」
静寂。
リリアの唇が動いたが、すぐには声が出なかった。
「何ですって……?」
カルデンは血の混じった息を飲み込んだ。
「三日前、自ら封印庫下部を確認すると言って出られました。」
「伴も少なく連れて。」
「その後、連絡が……」
「ありません。」
部屋の空気が、もう一度冷えた。
レオンは心の中で、とても静かに思った。
叔父が裏切ったかもしれないという疑い。
ところが今は、その叔父が消えている。
これはどちらに転んでも気分が悪い。
セラが尋ねた。
「誰が哨所を襲った。」
カルデンは歯を食いしばった。
「黒いマントどもです。」
「数は多くありませんでしたが……」
「内部信号を知っていました。」
「我々が友好の合図を送る前に秘密のノックを合わせ、交代の合言葉まで……」
「知っていました。」
マヤがすぐ悪態をついた。
「は。」
「本当に最悪だね。」
エリンが低く言った。
「領内にも耳があるってことね。」
リリアは指先が冷たくなっていくのを感じた。
彼女が恐れていた想像が、今、一つずつ想像から現実へ移っていた。
哨所が一つ破られた。
水門が開いた。
叔父は消えた。
そして灰色眼球会は、すでにこの内側の信号まで知っている。
彼女は自分のスカートの裾を握りしめた。
そのとき、セラの声が聞こえた。
「今必要なものだけを見る。」
リリアが顔を上げた。
セラはいつものように長く説明しなかった。
「哨所は死んだ。」
「情報は得た。」
「生きている者も一人拾った。」
「次を決める。」
その単純さが、リリアの息を一度つなぎ止めた。
そうだ。
今すぐ崩れても、変わることはない。
次から決めなければならない。
カルデンが震える手で腰の内側を探った。
彼は内ポケットから、とても小さな青銅の鍵一つと、濡れてしわになった紙片を取り出した。
「これは……」
「内側の第二水門の鍵です。」
「それからこの紙は……」
「副哨所同士だけが知る迂回路のメモです。」
「ベルハルト城の正門側へは行かないでください。」
「今頃、目が張りついているはずです。」
マヤが紙を受け取って広げた。
落書きのように急いで描かれた線があったが、彼女の目はすぐ構造を読み取った。
「よし。」
「川沿いの崖道から入って、裏手の薪倉庫のほうへつく道だね。」
リリアが息を飲んだ。
「その道はもともと、城内の食材をこっそり運び込んでいた……」
レオンがつぶやいた。
「隠し道ですか?」
カルデンがひどく苦しそうに笑った。
「貴族領には……」
「もともとそういう道が一つくらいあります……」
レオンは心からうなずいた。
「むしろ安心しますね。」
「人の住む場所らしくて。」
エリンがその最中にも傷を縛りながら、苛立たしげに言った。
「感想は後で。」
カルデンの処置は簡単に終わった。
動けるほどではなかったが、死ぬほどでもなかった。
問題は彼を連れていくか、隠しておくかだった。
リナが真っ先に言った。
「背負っていこうか?」
マヤがすぐ反対した。
「速度が死ぬ。」
エリンも同意した。
「箱もあるし、レオンもあの状態よ。」
「二人までは無理。」
レオンが即座に抗議した。
「なぜ私も荷物一覧に入るんですか?」
セラがひどく淡々と言った。
「違うとは言えないだろ。」
レオンは一瞬、傷ついた顔をした。
そしてすぐ納得した。
「……そうですね。」
カルデンは自分の体を起こそうとして諦め、荒く息をした。
「私はここに残ります……」
「下に貯蔵庫があります。」
「三日分の食料はあります。」
「それより……」
彼はリリアを見た。
「お嬢様が行かねばなりません。」
「閣下がどこにおられるにせよ、今、城の中に答えがないことだけは確かです。」
リリアは目を閉じ、そして開いた。
怖さはまだあった。
だが今、道は少しだけ鮮明になった。
城の正門ではなく、裏手の迂回路。
叔父を探すより先に、水門と封印河川側の状態を確認すること。
そして灰色眼球会より一歩早く内側へ入ること。
彼女はゆっくりとうなずいた。
「分かりました。」
セラが尋ねた。
「次の目的地。」
リリアは地図とメモを交互に見た。
そして言った。
「今日中に城へは入れません。」
「代わりに日が沈む前、封印河川の上の監視丘までは行けます。」
「そこで水門の状態と内側の明かりを見ることができます。」
マヤが計算した。
「今出れば、ぎりぎり。」
エリンが箱を見た。
「封印は持つ。」
「でも夜を二度越える前に、きちんと手を入れなきゃ。」
リナが拳を握った。
「じゃあ、早く行こう!」
セラは短くうなずいた。
「行く。」
すべての判断が、再び一行にまとまる瞬間だった。
レオンはそれを見ながら、心の中で思った。
このパーティーの長所はこれだ。
人をうんざりさせるほど複雑な状況でも、結局は『それで次に何をするか』に絞る。
複雑さは消えない。
ただ、手に握れる大きさに切られる。
だから耐えられる。
出発前、リリアはカルデンの前にもう少しだけ座った。
「叔父様は本当に……」
「敵と手を組んだように思いますか?」
カルデンはしばらく答えられなかった。
青白い顔の上で、長く仕えた者だけが持つ忠誠心と現実感が争っていた。
やがて彼が言った。
「分かりません。」
「ですが、一つだけ分かります。」
「閣下は……」
「封印に関しては、誰よりも頑固なお方でした。」
「そのような方が何の説明もなく姿を消したのなら、自分の意思であれ他者の意思であれ、普通ではありません。」




