第2話
その日の夕方、彼は藁の山に半分埋もれたまま天井を眺め、つぶやいた。
「異世界は思ったより顧客対応が荒いな」
けれど、空ではなく天井だけが見える暮らしにも、ときどき扉が開くことはあった。
まさにその日の夜がそうだった。
盗賊たちはかなり大きな獲物をつかんだのか、酒に浸っていた。
地下の穴蔵全体が、腐った葡萄と安っぽい勝利感の匂いでどっぷり濡れていた。
笑い声は高く、警戒は緩く、欲望は騒がしかった。
問題は、そういう夜にはいつも、もっと大きな捕食者がやって来るという点だった。
まず音がした。
どん。
それはノックではなかった。
扉という仕事に疑問を抱いた扉板の音だった。
次の瞬間、鉄の扉が内側へ吹き飛び、禿げ頭の顔と感動的な再会を果たした。
禿げ頭は壁にめり込んだ。
壁は沈黙した。
全員がその壁を見習えばよかったのだが、世の中はそこまで賢くなかった。
「襲撃だ!」
誰かが叫んだ。
だが遅すぎた。
闇の中から四つの影が入ってきた。
一人目は狼耳を持つ黒髪の女騎士だった。
彼女の目は、夜のいちばん冷たい部分だけをくり抜いてはめ込んだように青く光っていた。
背は高く、肩はまっすぐで、黒い革鎧は動くたびにわずかずつ光を飲み込んだ。
彼女が剣を抜くと、金属音ではなく、判決文が削り出されるような音がした。
二人目は赤い髪の獣人の女盗賊……。
いや、盗賊ではなく弓使いだった。
狐に似た長い尾が松明の光をかすめ、笑った口元はいたずらっぽかったが、目つきは狩りの直前の弓弦のように張り詰めていた。
彼女は入ってくるなり、いちばん遠くにあった松明を矢で消した。
闇がもう一塊、濃くなった。
三人目はエルフだった。
銀色の髪が地下の汚れた空気を一人だけ拒むように冷ややかに流れ、片手に持った杖の先では青い光が水中の月のように揺れていた。
彼女の表情はいつも疲れて見えたが、その疲れは世界そのものに一度くらい失望したことのある者だけが持てる類いのものだった。
最後は小柄な少女だった。
いや、少女のように見えたが、身のこなしはまったく小さくなかった。
猫耳と軽やかな足運び、そして鈍器を握った手が、ひどく不吉なほどよく似合っていた。
彼女はにっこり笑って言った。
「うわ」
「匂い、最悪だね」
「人の住む場所として合ってる?」
その言葉は驚くほど正確に、盗賊たちの巣窟全体を要約していた。
彼女たちは亜人種の美女パーティだった。
そして盗賊たちはその事実を理解した瞬間、すぐさま後悔した。
戦闘は短く、暴力的で、奇妙なほど手際がよかった。
狼耳の女騎士が最初の突進を受け止め、剣をひねった。
手首が回り、剣が飛び、持ち主が遅れて悲鳴を上げた。
狐尾の弓使いが近距離で矢を放った。
矢は鋭い物であると同時に、礼儀を教える道具のようでもあった。
突き出た膝、飛びかかる手首、卑怯に逃げる太ももへ正確に突き刺さった。
エルフの魔法使いは低い声で呪文をこぼした。
すると床の水気が氷となって広がり、走っていた盗賊二人が人間の傲慢さを保ったまま滑って天井と親しくなった。
猫耳の少女は笑いながら鈍器を振るった。
ごん、ごん、と響く音には、妙に拍子があった。
殴られた盗賊たちは一様に、自分がなぜ殴られたのか理解する前に眠った。
少年は縛られたままその光景を見ていた。
彼は感嘆した。
とても心から感嘆した。
「わあ」
その一言に、猫耳の少女がちらりと振り返った。
「何、あれ」
少年は床に半分寝転んだまま笑った。
「今夜いちばんの見ものです」
狐尾の弓使いが笑った。
「生きてるんだ?」
少年はうなずいた。
「その点は僕もいつも不思議に思っているんですよ」
結局、最後まで残ったのは刀傷の男だった。
彼は少年の首に刃を押し当て、わめいた。
「近づくな!」
「こいつを殺すぞ!」
狼耳の女騎士は眉一つ動かさず言った。
「それで?」
刀傷の男の表情が一瞬揺らいだ。
普通なら、ここで交渉が始まる。
だが彼女の顔は、交渉などという柔らかな言葉を生まれてこの方知らないかのように固かった。
少年がその隙に言った。
「あ、ちなみに僕には身代金がありません」
「黙れ!」
「現実的な情報をお伝えしているんです!」
そのとき、エルフの魔法使いがため息をつき、指を弾いた。
氷の欠片が一つ飛び、刀傷の男の手の甲に刺さった。
刃が落ちた。
猫耳の少女がその隙を逃すはずもなかった。
鈍器が飛んだ。
男は倒れた。
本人が気づけなかったほど、とても速い速度で。
静寂が降りた。
少年だけが、その静寂の中で少し遅れて言った。
「わあ、二度言いますけど本当に格好いいです」
狼耳の女騎士が少年を見下ろした。
「こいつも売られてきた奴隷か?」
少年は少し考えた。
「現在の職務上はそうです」
「名前は?」
少年はもっと長く考えた。
そして正直に答えた。
「わかりません」
四人の表情が同時に、ひどく微妙になった。
狐尾の弓使いが口を開けた。
「あら」
「本当に?」
少年は明るく笑った。
「はい」
「おかげで自己紹介がいつも新鮮です」
「獲れたての魚みたいに」
猫耳の少女がつぶやいた。
「この子、殴られすぎておかしくなったんじゃない?」
エルフの魔法使いが冷たく訂正した。
「最初からこうだった可能性が高い」
狼耳の女騎士はしばらく少年を見下ろし、それから縄を切った。
「ひとまず連れていく」




