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第1話

街の夕暮れは、いつだって他人の事情に知らん顔をするのがうまかった。


城壁の上に滲む夕焼けは、長く煮詰めたザクロのシロップみたいに赤く、屋根たちはその光を薄く舐め取った猫のようにぬらりと光っていた。


煙突からは一日分の疲れが煙になってのぼり、路地には誰かがポケットの中身をぶちまけていったみたいな影が溜まっていた。


市場は閉まりかけていたが、匂いだけはとうとう店じまいをしなかった。


焦げた肉、酸えた麦酒、湿った藁、乾いた血、安物の香水、履き古した革靴の匂いが互いの胸ぐらをつかみ合うように入り混じっていた。


この世界がどれほど荒っぽく、どれほど生活臭に満ち、どれほど厚かましく人を酷使する場所なのかを知るには、それだけで十分だった。


そしてその日、そんな街に一人の人間が落ちてきた。


正確には、落ちたというより、ぶちまけられた。


誰かが倉庫の裏手にゴミ袋を投げ捨てるみたいな音と一緒に、一人の少年が藁山の上へ転がりこんできたのだ。


手足は無事だった。


精神は無事ではなかった。


魂に至っては、なおさら無事ではなかった。


少年は空を見上げた。


空は青かった。


彼は言った。


「いや、これはまたどういう状況だよ」


それが、この世界に落ちてきてから彼が最初に口にした言葉だった。


彼には名前がなかった。


正確には、あったのかもしれないが思い出せなかった。


昨日までどんな人生を送っていたのか、なぜここに来たのか、どうやってここまで来たのか、何ひとつ鮮明ではなかった。


頭の中には、雨に滲んだインクみたいな感覚だけがまだらに残っていた。


たしかにどこかで生きていて、たしかに突然死んだか、あるいは死にかけたか、そのへんの何かがあった気はするのに、その先が全部ぷつりと途切れている。


だから彼は、きわめて合理的な結論を出した。


異世界転生だな。


健全極まりない判断だった。


まともな人間は、たいていゴミの山のそばで目を覚ましたりしない。


彼が頭を起こすと、盗賊が三人、彼を見下ろしていた。


一人は歯が二本ばかり足りなさそうな禿頭で、一人は鼻筋に長い刀傷の走る男、最後の一人はやせすぎていて、人間というより干物に近かった。


三人とも、顔つきはよくなかった。


いや、正確には三人とも、顔つきがやけに良かった。


人を困らせる直前の人間特有の、明るすぎる笑顔だった。


「おい」


禿頭が言った。


「こいつ、売れそうだな」


刀傷の男が言った。


「売る前にこき使うくらいはできるだろ」


干物みたいな奴が言った。


「この目つき、見ろよ」


「まだ世間を知らねえ」


「こういうのが長持ちするんだ」


少年は少し考えた。


それから、ひどく明るく笑った。


「こんにちは」


「もしかして、この世界って説明書つきですか?」


三人はしばし沈黙した。


禿頭が言う。


「何言ってやがる、こいつ」


少年が言った。


「それ、僕も気になってるんです」


その日から、彼の奴隷生活が始まった。


盗賊どものねぐらは、街外れの下水路の下、昔崩れた倉庫の地下を無理やりつなぎ合わせた穴蔵だった。


天井は低く、壁は湿り、空気はいつも誰かの罵声を含んだまま重かった。


松明は人を照らすより、不安ばかりを照らしていた。


床に敷かれた藁は寝床を提供するより、蚤の国籍統一に熱心だった。


少年は初日からこき使われた。


朝は水桶を運んだ。


昼は見張られながら芋の皮を剥いた。


午後は縛られたまま、盗賊たちのおもちゃにされた。


おもちゃといっても、可愛げのある意味ではない。


蹴り飛ばされる方向を予測しながら転ぶこと、頭の上にリンゴを乗せて投石を避けること、ずるずる引きずられながらも桶をひっくり返さないこと。人間の尊厳と見世物小屋を不幸にも混ぜ合わせたような遊びだった。


少年は毎日、転がされ、壊され、飢え、殴られた。


けれど、不思議なことが一つあった。


彼はなかなか折れなかった。


禿頭に蹴飛ばされると、壁にぶつかったあとで「お、今日は右にきれいに飛びましたね」と言った。


刀傷の男が硬いパンを投げてよこすと、少年は床に落ちたかけらまで拾って食べながら「食感が石と競ってますね」と評した。


干物みたいな奴が、一晩中縄を解いてみろとせせら笑うと、少年は手首の皮が剥けるまで格闘し、結局失敗しても「いいですね、今日も社会は甘くないって学べました」とうなずいた。


その明るさは、強さというより、壊れた方角感覚に近かった。


絶望すべきタイミングになるたび、彼は妙に笑った。


まるで人生に金槌で殴られるたび、その金槌が何でできているのか気になる人間みたいに。


盗賊たちは最初、その少年をいじめるのを面白がった。


次に苛立った。


その次には、少しばかり気味悪くなった。


普通の人間なら、あれだけ殴られれば泣くか、憎むか、卑屈になるものだからだ。


だがこの少年は違った。


痛ければ痛いと言った。


怖ければ怖いと言った。


腹が減れば腹が減ったと言った。


それなのに、次の瞬間には笑った。


打ちのめされるたび、妙に顔を上げた。


まるで、もうどん底を打った人間ではなく、底を調査しに来た見学者みたいに。


「おい」


ある日、刀傷の男が聞いた。


「お前、なんでずっとヘラヘラしてるんだ?」


少年は口元の血を拭い、答えた。

改めてよろしくお願いいたします。

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