第18話
「仕事のできる人特有の怖さがあります。」
アデルはそのささやきまで聞こえていたようだったが、聞こえなかったふりをした。
代わりに箱を見た瞬間、ごく短く表情をこわばらせた。
彼女は一歩近づこうとしたが、エリンが手を上げて止めると足を止めた。
「そこまで。」
エリンが低く言った。
「仮封印中よ。近づくと式が揺れるかもしれない。」
アデルはすぐに下がった。
判断が早かった。
「いいだろう。」
「なら言葉で聞こう。」
「誰が先に説明する?」
セラがリリアを見た。
リリアは緊張で耳がぴんと立っていた。
指先もまだ震えていたが、今回はさっきより少し固まっていた。
彼女は箱を抱いたまま、北部辺境伯家の姪という身分から、封印庫襲撃、灰色の手袋の男、そして広場での追撃戦まで、順を追って説明した。
途中で何度か息が詰まるように止まったが、今回は誰も代わりに話してやらなかった。
セラも、マヤも、エリンも、レオンも。
それは冷たいからではなく、これはリリア自身の依頼であり、自分の口で立てなければならない現実だったからだ。
アデルは一度も口を挟まなかった。
代わりに、すべて聞き終えた後だけ尋ねた。
「箱の別名。」
リリアが答えた。
「『夜を刻む棺』です。」
「封印庫内部クラス。」
「深層赤色。」
「接近許可は三名以上の同時承認。」
「単独閲覧禁止。」
「最後の定期点検日。」
「十日前。」
「当時は異常なし。」
質問は短く正確だった。
リリアも次第に呼吸を取り戻していった。
文書整理担当だったという言葉が虚勢ではないことが感じられた。
恐怖に震えながらも、必要な情報を正確な形で取り出す才。
それは明確な能力だった。
アデルは最後にエリンを見た。
「鑑定結果。」
エリンはすでに用意していた紙片を一枚、彼女の方へ押しやった。
そこには仮封印状態、反応原因の推定、危険半径、そして最悪の場合についての簡潔なメモが記されていた。
アデルはそれを読みながら、眉をわずかにひそめた。
「これは遺物扱いではなく、災害予備段階として見るべきだな。」
レオンが横になったまま手を挙げた。
「質問があります。」
アデルが彼を見た。
「言え。」
「それはいい意味ですか、悪い意味ですか?」
アデルは即答した。
「かなり悪い意味だ。代わりに対応が公式化されるという点では、いい意味でもある。」
レオンは納得した顔でうなずいた。
「やはり世の中はいつも半々ですね。」
「楽観的だな。」
「無理にでもそうしています。」
アデルはその言葉に返事をしなかったが、視線がごく一瞬レオンの包帯に留まった。
広場で身を投げたという話を、すでに聞いている顔だった。
次は受付だった。
冒険者ギルドの受付といっても、いつも輝くカウンターと笑顔の職員がいるわけではなかった。
時には血の匂いがする宿の一階の真ん中でも、受付は成立する。
重要なのは紙と証人と印章と、それらを動かせる人間がいるかどうかだった。
アデルは灰色の外套の内側から、分厚い書類綴りと鉄製の印章を取り出した。
宿のテーブルをきれいな側へ寄せて整えた後、蝋燭をもう一本灯した。
蝋燭の火が紙の上へ傾き、金色の縁を作った。
「今からこの件は、ギルド支部の臨時特別案件として記録する。」
彼女が言った。
声は高くなかったが、部屋の空気が静かに整列する力があった。
「依頼人。」
「リリア・ベルハルト。」
「身分は条件付き保留。ただし緊急保護対象に含める。」
「依頼目的は、危険封印物『夜を刻む棺』の安全運送、敵対勢力からの防衛、関連事件の上部報告および生存者への警告伝達。」
「受注候補はセラのパーティー。」
リナの両目が輝いた。
「おお。」
「なんか本当の仕事っぽくなった。」
レオンがつぶやいた。
「今までも本当の仕事ではありましたが、紙が付くとさらに逃げられなく見えますね。」
マヤが笑った。
「もともと紙が一番怖いんだよ。」
アデルは筆ペンを持ち、視線を上げた。
「反対はあるか?」
セラが先に言った。
「ない。」
マヤがうなずいた。
「同意。」
リナがぱっと手を挙げた。
「賛成!」
エリンは箱から視線を離さないまま答えた。
「前提条件付きで賛成。」
「封印支援と経路権限を付ける必要があるわ。」
アデルが短くメモした。
「付ける。」
彼女は最後にレオンを見た。
「お前は?」
レオンはベッドに横になったまま少し考えた。
「すでに半分刺されて入り込んでいる気がしますが。」
「賛成です。」
「傷のせいで除外される可能性もある。」
「急に現実的な検討が入りますね。」
アデルは無表情に言った。
「私はギルド支部長だからな。」
レオンは唇の内側でつぶやいた。
「怖い……」
リナが横で笑い出し、マヤも口元を上げた。
だがアデルの次の言葉は冗談ではなかった。
「除外はしない。」
「お前の行動が、この件の初期成立に寄与したからだ。」
「ただし移動中に無理をしてまた倒れたら、その時は荷物扱いだ。」
レオンは目を大きく見開いた。
「ギルドの公式文書にそんな表現が入るのですか?」
アデルは目立たないほど口元を動かした。
「入らない。」
「だが現場判断には入る。」
エリンが低く鼻で笑った。
「気に入ったわ。」
残ったのは報酬だった。
そしてこの瞬間、災害級封印物よりリナの目の方が輝いていた。
アデルは書類を一枚めくって言った。




