第179話
レオンの瞼がごくわずかに揺れた。
ノアの文言が、今度は普段より速く浮かんだ。
【起床推奨】
【即時】
レオンは目を開けた。
灯りはついていた。
窓も閉まっていた。
すべてが無事に見えた。
表面上は。
だがまさにその瞬間、ベッドの下の影がごく微かに揺れた。
レオンは考えるより先に動いた。
体より本能のほうが速かった。
彼は横へ転がった。
ぷすり。
ついさっきまで頭があった場所へ、細い黒い釘が一本、ベッドの板に刺さった。
毒針だ。
レオンは床に手をつき、歯を食いしばった。
肋骨が疼いた。
痛い。
よくない。
だが今は、それがかえってよかった。
痛みは人をはっきりさせる。
彼はベッド脇にセラが置いていった短剣をひったくった。
それと同時に、窓側の暗闇がするりと裂けた。
灰色手袋だった。
いや。
灰色の手袋をはめた手が先に見えた。
窓の隙間と壁の影の間に溶け込んでいて、刃先より先に指が飛び出す。
黒い服。
息を殺した体。
だが完全な影ではなかった。
右袖は肘の下が空っぽのまま折られており、残った左腕一本だけですべてを処理するよう、姿勢が奇形的に整えられていた。
顔の半分は布で覆われていたが、露出した側は傷痕という程度ではなかった。
頬と口元、顎の線の一部が、まるでえぐり取られたように欠けた場所を、黒く固まった皮膚と継ぎ足した包帯がかろうじて覆っていた。
以前受けた重傷が傷として残った程度ではなく、顔と腕の一部を丸ごと失ったまま、かろうじて動いている有様。
そしてその残った体さえ、長く持ちそうになかった。
動くたびに命が少しずつ漏れている、余命わずかのような体。
それでも露出した目は、一度も興奮していなかった。
その目つきが、レオンの心臓をほんの一瞬冷たくした。
これは以前見た、あの狂信者のような目ではない。
学んだ目だ。
一度逃した獲物の前で、二度と油断しないと決めた目。
灰色手袋が先に言った。
「今度は言葉で揺さぶろうと思うな。」
低く押し殺した声。
レオンは床に片膝を立てたまま笑った。
「まだ挨拶もしていないのに、ずいぶん手厳しいじゃありませんか。」
「口調も変わりましたね。」
灰色手袋は答えなかった。
代わりに手を一度弾いた。
窓の上、天井の梁、そして扉の隙間の影から、同時に黒い線が三本落ちてきた。
細い鉄線だった。
首を掛けるためなのか、腕を縛るためなのか、それとも両方なのかを悩む必要もなかった。
レオンはすぐ後ろへ体を倒すように反らした。
鉄線の一本が顎の前をかすめ、別の一本は肩をかすめた。
三本目は薬瓶掛けに引っかかり、ガラス瓶を二つ砕いた。
がしゃん。
けたたましい音。
いい。
これはいい音だ。
誰かは聞く。
だが灰色手袋は、それをすでに計算していた顔だった。
いや、計算を越えて準備を終えた顔だった。
彼が再び手を伸ばした。
今度は毒針ではなかった。
小さな灰色の水晶片。
床に落ちた瞬間、煙ではない煙が薄く広がった。
エリンが残した薬草の匂いを覆い隠す、妙な無臭。
レオンは直感した。
麻痺性の霧だ。
それほど強くはない。
代わりに狭い部屋で人の反応を鈍らせるには十分だ。
「本当に準備がいいですね。」
レオンは歯を食いしばり、非常信号石のほうへ手を伸ばした。
灰色手袋の体が、その瞬間初めて大きく動いた。
速い。
本当に速い。
以前のように感情に浮かされて踏み込む動きではない。
距離を測り。
先に手を斬り。
信号石から断とうとする動き。
レオンは手を引かなかった。
代わりにわざとさらにさらした。
灰色手袋の短い刃先が手の甲を狙って落ちる刹那、レオンはその手を餌に差し出すようにひねり、反対の手の短剣を下から打ち上げた。
かん。
金属音が部屋の中を打った。
短い。
重い。
セラの短剣らしい。
灰色手袋の目つきがごく少し細くなった。
レオンはふっと笑った。
「今回は私も素手ではありません。」
灰色手袋は相変わらず返さなかった。
その点がいっそう不吉だった。
こいつは今、話しに来たのではない。
最初から殺しに来た。
レオンは短く息を荒げた。
霧が肺に少し入った。
指先が鈍る。
よくない。
灰色手袋が再び踏み込んだ。
鉄線。
短い刃。
毒針。
三つが一度に来るように見えたが、実際には順序があった。
首を縛り。
腕を断ち。
動きを止めてから確認する。
あまりにもよく組まれた順序だ。
レオンは二本目の鉄線を短剣に絡めてねじった。
手のひらが切れた。
痛い。
いい。
頭がさらに冴える。
ノアの文言が一行浮かんだ。
【推奨:信号優先】
「分かっています。」
レオンはほとんど歯ぎしりしながらつぶやいた。
そして割れたガラス瓶の欠片を素手で払い、信号石のほうへ投げた。
直接手は届かなかった。
代わりにガラスがベッドの枕元を打ち、青い水晶片を押した。
灰色手袋が初めて体をひねった。
止めようとしている。
遅い。
レオンは最後の力で足を伸ばし、ベッドの脚を蹴りつけた。
どん。
ベッドが傾き、枕元の小さな卓が倒れた。
青い信号石が床へ跳ねた。
そして砕けた。
しゃん。
冷たく澄んだ音が部屋の中を裂き、青い光が一瞬ぱっと広がった。
灰色手袋の目つきが初めて揺れた。
本当に微かに。
レオンはそれを見た。
そうだ。
こいつも完全に無感情なわけではない。




