第169話
そこにごく微かに、たった今持ち込まれた灰色の羽から滲み出る冷たい匂いが混じっていた。
匂いに温度があるなど、誰が信じるだろうか。
だがその羽は、本当にそうだった。
指先に触れると、季節が一枚滑り落ちるような感覚。
アデリアは布に包んだ羽を、卓の中央に広げて置いた。
その向かいにはブラムが座っていた。
ブラムはもう、誰が見ても年老いた老人だった。
顔の皺は乾いた胡桃の殻のように深く、鼻先の眼鏡は今にも落ちそうでいて、最後まで落ちなかった。
今日は背中に箱を背負ってはいなかったが、指先には古いインクの匂いと修正粉の匂いが染みついていた。
外見だけなら、埃をかぶった書類棚の隣に一緒に置かれていてもおかしくない老人だった。
だが目つきだけはまだ古びていなかった。
腕を組んで座る姿勢には、老人特有の緩さより、一時は大きな働きを残した冒険者にだけ残る硬い習慣のほうが先に見えた。
「間違いなくあれか」
アデリアは即答しなかった。
代わりに、手袋をはめた手で羽の先をそっと裏返した。
灰色の光沢。
黒い下地。
そして中心の軸に沿って、ごくかすかに滲む濁った銀色。
「確信はまだない」
彼女が言った。
「ただ、以前の北西街道襲撃のときに回収された標識物と質感が似ている」
ブラムの顎がごくわずかに固まった。
「なら偵察標識だな」
「あるいは視線固定用の残滓」
会議室の中が少し静かになった。
ブラムは罵りを飲み込むように息を吐いた。
「遠征隊が出た途端、ギルド前に落ちた」
「そうだ」
「胸糞が悪いな」
「同感だ」
アデリアは羽をまたゆっくり回してみた。
「誰かがブリクセンの内側でギルドの動線を見ていたか、少なくとも遠征の出発時刻を知っていたということだ」
「外から流れ込んだ偶然の残滓と見るには、正確すぎる」
ブラムはテーブルを指の節でこつりと叩いた。
「内側の水漏れを、まだ塞げていないということか」
「あるいは、塞げたと信じた私たちが早すぎたか」
言葉は短かったが、蝋燭の影が無駄に一度揺れた。
ブラムは羽を睨みつけ、低く尋ねた。
「灰色眼球会の側か?」
アデリアは一拍遅れて答えた。
「その可能性が高い」
「ただし組織の本流なのか、切り落とされた枝が勝手に揺れているのかは、まだわからない」
「差は大きいな」
「大きい」
ブリクセンのような都市は、表向きには石と壁で立っている。
だが本当に都市を支えているのは目だった。
誰が入ってきて。
誰が去って。
誰が酒場で何を言い。
誰がどの路地で何を買ったのか。
その流れを、ギルドと商団と警備隊が互いに噛み合いながら、どうにか掴んでいた。
ところが灰色の羽は、その秩序の外側から、誰かがすでに見ていたと言わんばかりに置かれている。
言葉ではなく標識として。
アデリアはその点が一番気に入らなかった。
ブラムが尋ねた。
「レオンは?」
「私が羽を持ってきた」
「いや、羽じゃなく」
ブラムの目が少し細くなった。
「あの小僧の状態だ」
アデリアはふっと笑った。
「生きている」
「それは俺も知っている」
「退屈で死にそうになっていて、質問は多く、体はまだめちゃくちゃだ」
ブラムは低く鼻で笑った。
「なら普段と大きく違わんな」
「ちょうど半分だけ当たっている」
アデリアは蝋燭越しにブラムを見た。
「今は考えが多くなりすぎる時期だ」
「だからこそ、もっと静かに縛っておく必要がある」
ブラムはその言葉の意味をすぐ理解した。
「口を塞げということか」
「探りを入れるなということだ」
アデリアの声は平坦だった。
「今は質問より回復が先だ」
「特にレオン本人がまだ整理できていないものに、外から名前を付けて揺さぶるのは最悪だ」
ブラムは少しの間、何も言わなかった。
彼もまた、その線がどのあたりにあるのかを知っていた。
レオンはまだ知らない。
知らないからこそ、どうにか耐えている部分もある。
知らないままでもすでに十分複雑なのに、そこへ周囲が勝手に意味を付け足し始めれば、人は簡単に折れる。
ブラムは結局、短く言った。
「俺のほうの連中は口止めしておく」
「頼む」
「その代わり、警備は増やせ」
「すでに考えている」
アデリアは羽をまた布で包みながら続けた。
「ギルドの屋根上の監視を二人増員」
「夜間巡回の動線変更」
「裏口の出入り記録を再照合」
「そして遠征隊が戻るまで、ブリクセン内で灰色のマントや鳥型使役の痕跡が見えたら、即座に制圧して連れてこい」
ブラムの口元がごく少し歪んだ。
「久しぶりに気楽な指示だな」
「あまり喜ぶな」
「失敗すれば、お前が最初に罵られるからな」
「それはいつものことだ」
北西の柵の内側。
リナは息を潜めたまま立っていた。
彼女のように大柄な者が息を潜めると、かえって恐ろしい。
鈍器を肩に担いだまま膝をほんの少し曲げ、かかとを土に半分埋める姿勢。
見た目には今にも飛び出していきそうなのに、実際にはセラが止まれと言った線を正確に守っていた。
それが今日の違いだった。
以前のリナなら、すでに二度は飛び出していた距離。
今のリナは、その衝動を口の中でだけ噛み砕いていた。
柵の外の草むらが揺れた。
一つ。
二つ。
三つ。
そして横の斜面からさらに二つ。
黒背狼たちだ。
肩は低く、背は長い。
黒い毛は光より影をよく食っていた。




