第161話
「本当に審査みたいだ」
リナもつられて笑った。
「さっきまでは、ただ魔物をたくさん狩ればいいのかと思ってたのに」
エリンが冷たく切った。
「そんなに単純なら、とっくに金等級はごろごろいる」
馬車はまたガタンと大きく揺れた。
今度は道ではなく、リナが原因だった。
彼女が鈍器の構えを変えようとして、片端を床に強く打ちつけたせいだった。
馬車の床が一度鳴った。
マヤが目を半分ほど細めた。
「あなた、本当に緊張すると余計に落ち着きがなくなるのね」
「うるさい」
「耳まで赤いよ」
「マヤ!」
リナが飛びかかろうとすると、馬車がまた大きく揺れた。
二人は同時に横へ滑った。
エリンは書類板で自分の膝だけ先に守った。
「あ」
「本当に」
マヤは笑いを堪えられなかった。
「よし」
「この様子なら、少なくともいつもの調子ではあるね」
リナは唇を尖らせ、また座り直した。
「笑うだけにしてよ」
「あなたも緊張してたでしょ」
マヤは否定しなかった。
その代わり少し、本当に少しだけ窓の外を見て、静かに言った。
「うん」
「してた」
そして付け加えた。
「特に、レオンを置いて出てきたから余計に」
今度は誰も笑わなかった。
外の景色はだんだん荒々しくなっていた。
灰色が濃くなった。
草の色は消え、土の色はいっそう黒くなった。
低い丘が波のように重なって見え、その稜線ごとに、風がなぞっていった跡のような暗い筋が横たわっていた。
遠くでは鳥の群れが飛び立ち、一斉に方向を変えた。
その動きが、どこか不吉だった。
獣が先に何かを察したような方向転換。
セラはそれを見上げ、低く言った。
「もうすぐ着く」
御者も振り返らないまま短く応じた。
「はい」
「あの先の稜線を越えれば、最初の開拓村です」
エリンが地図を広げた。
「よし」
「到着直前に整理する」
「最初の村で真っ先に聞くことは三つ」
「最近の襲撃時刻、死体の損壊の様子、上位個体の目撃位置」
「マヤは高所を押さえて、リナは村の入口の防衛線を確認」
「セラは住民代表と会い、私は痕跡を見る」
リナが手を挙げた。
「質問」
「また何」
「ご飯は?」
マヤがすぐに吹き出した。
「本当にあなたらしいわ」
エリンは長く息を吐いた。
「状況を見て」
「お腹が空いたら判断が鈍るでしょ」
「それはそうだ」
セラが短く言った。
「村に着いたらすぐ食べる」
リナの顔がすぐに明るくなった。
「よし」
マヤが舌打ちした。
「さっきまでは金等級昇格が一番だって言ってたのに、今はご飯なんだ」
「どっちも大事」
「一貫してるね」
馬車の中にごく短い笑いが回った。
けれど、その笑いは長く続かなかった。
なぜならその直後、前席のセラが体をほんのわずかに強張らせたからだ。
彼女が最初に嗅ぎ取った。
血の匂いだった。
血が乾いたあと、土と混じって残る鉄の匂い。
そして濡れた毛の匂い。
そこへ遅れて漂ってくる、獣たちの生息地特有の濃い体臭。
セラは少し顔を上げた。
風向きが変わった。
その匂いが、今は馬車の中にまで薄く流れ込んできた。
マヤの笑いが先に止まった。
リナもすぐに鼻先をひくつかせた。
「来た」
エリンは地図を畳みながら低く呟いた。
「うん」
「ここからが本当の仕事だ」
御者が緊張した声で言った。
「あそこです」
馬車が低い稜線を越えると、視界が開けた。
灰黒の丘陵の縁にしがみつくような開拓村が一つ。
木の柵の一部は崩れ、見張り台の片側は黒く焼けていた。
屋根を剥がされた倉庫、急いで継ぎ当てた跡が生々しい家の壁、そして村の外の斜面に残る巨大な爪痕。
風はその上をかすめ、人より先に恐怖を舐めて通り過ぎたようだった。
セラは剣の柄に手を置いた。
マヤは弓ケースを開けた。
リナは鈍器を持ち上げ、重さをあらためて感じた。
エリンは窓の外を見ながら短く言った。
「金等級昇格だ何だと言う前に、まずは生きて終わらせなさい」
マヤがにやりと笑った。
「わかってる」
リナも歯を見せた。
「それでも取ってくる」
セラはとても低く、だがはっきりと言った。
「行くぞ」
馬車はゆっくりと開拓村の中へ転がり込んだ。
ついさっきまで内側で転がっていた笑いと冗談は、今はすべて武器の後ろへ折り畳まれていた。
けれど、完全に消えたわけではなかった。
むしろ、その短いやり取りがあったからこそ、四人はいま、より強く同じ方向を見ていた。
揺れる馬車の中で交わした言葉は、全部消えたように見えても、実際はそうではない。
肩に残り。
指先に残り。
一歩先へ踏み出すとき、背中を押す。
遠征の本当の始まりは、もしかするとこの開拓村の入口ではなく、少し前のあのガタガタ揺れる馬車の中だったのかもしれなかった。
人は退屈しすぎると、妙なことまで始める。
たとえば、自分の戦闘の癖を表に整理してみるとか。
レオンはベッドの上に半分うつ伏せになる姿勢で、紙を数枚見下ろしていた。
一番上の紙には、大きくこう書かれていた。
メインクラス:荷物持ち
その下には、それよりもびっしりと文字が並んでいた。
転倒。
転がる。
耐える。
荷物を持ち上げる。
バランス回復。
なぜか倒れきらない。
味方の保護。
見下されると腹が立つ。
殴られたあと、より集中する。
レオンは頬杖をつき、ため息をついた。
「いいでしょう」
「書き出してみると、全部がそんなにいい癖というわけではありませんね」
医務室は今日も静かだった。




