第16話
「正常な感想で安心したわ。」
彼女はまた箱を見た。
「問題は、これがなぜ今反応しているかよ。」
「衝撃だけのせいじゃない。」
「血、恐怖、敵の術式、封印の緩み。」
「いくつもの条件が重なったんだろうけど……」
「やつらの狙いは、単なる奪取じゃないのかもしれない。」
「もしかすると、ここまで持って来させて、街の真ん中で封印を破ろうとしたのかも。」
レオンが体を少し起こそうとし、セラに一度押さえられてまた横になった。
「あ。」
「寝てろ。」
「はい。」
「ですが、それならさらに大変ではありませんか?」
マヤが目を細めた。
「そうだね。」
「この街は港も近いし、人も多い。」
「ここであれが弾けたら、完全に災害だよ。」
リリアは顔を真っ青にした。
「す、すみません……」
「私がここまで持って来たせいで……」
セラがすぐに遮った。
「お前だけのせいではない。」
エリンも続けて言った。
「むしろ広場で、もうこじ開けられていたかもしれない。」
「今、生きていて、まだ閉じていることが重要なの。」
レオンが一言添えた。
「はい。」
「それに今はもう、私たちも共犯みたいな位置ですから、一人で申し訳ながられると負担割合が不公平です。」
リリアが呆気に取られた顔でレオンを見た。
マヤがふっと笑った。
「その例えはすごく変だけど、妙に慰められるね。」
リナもうなずいた。
「うん。」
「一緒に巻き込まれたなら、一緒に悩まなきゃ。」
問題は次の手だった。
箱を持って逃げ続けるのは答えではなかった。
街の外へ抜ける?
追っ手たちがまた張りつくだろう。
警備隊に渡す?
こんな物は、普通の兵士たちには扱えない。
聖職者のところへ持って行く?
誰が信じるか、そしてその前に情報がどれだけ漏れるかわからない。
エリンはとても乾いた声で結論を出した。
「私たちだけで抱えて解決できる格じゃない。」
マヤが腕組みを解いた。
「同感。」
「今回は相手も組織的だし、品物も大きすぎる。」
リナが首をかしげた。
「じゃあ、どうするの?」
セラはしばらく考えた。
彼女はいつものように、長くは話さなかった。
その代わり、考えた後はすぐに核心だけを出した。
「ギルド。」
レオンが目を瞬かせた。
「冒険者ギルドですか?」
「そうだ。」
マヤはすぐに意味を理解した。
「公式依頼に回そうってこと?」
セラがうなずいた。
「個人間の揉め事のままにすれば、私たちはいつでも不法占有者や誘拐犯扱いされかねない。」
「だがギルドを通して依頼登録すれば変わる。」
「保護対象、運搬対象、追跡勢力、遺物の危険度。」
「すべて記録に残る。」
エリンが細い指で卓を叩いた。
「いい手ね。」
「公式文書ができれば、相手もむやみに襲いにくくなる。」
「少なくとも街の中では。」
「ギルドも遺物災害等級として、上にすぐ報告を上げるだろうし。」
レオンはうなずきかけ、少し笑った。
「なるほど。」
「今回は私たちが先に、盤面を法的に汚そうということですね。」
マヤが訂正した。
「汚すんじゃなくて、安全装置を掛けるんでしょ。」
レオンは少し考えた。
「公式に汚すのではありませんか?」
エリンは長く息を吐いた。
「文の感覚が本当にひどいわね。」
リリアはまだ状況についていくために、何度か目を瞬かせていた。
「あ、あの、ちょっと待ってください……」
「私の依頼を……」
「受けてくださるということですか?」
セラは答える代わりに問い返した。
「目的を言え。」
リリアは箱を抱く手に力を込めた。
震えはあったが、今回は声が前よりまっすぐだった。
「この箱……」
「『夜を刻む柩』を追っ手たちに奪われず、安全に封印できる場所まで運びたいです。」
「可能なら、叔父と北部辺境の生存者たちにも警告を伝えたいです。」
「それから……」
彼女は息を吸い込んだ。
「私を追った者たちが何を狙っているのか、突き止めたいです。」
マヤが腕を組んだまま、にやりと笑った。
「いいね。」
「目的がはっきりしてる。」
リナもすぐに割り込んだ。
「うん。」
「しかも危険で、怪しくて、報酬も大きそう。」
レオンがベッドの上で手を上げた。
「今の最後の項目はあまりにも正直でしたが、私もおおむね同意します。」
エリンは箱を見ながら低く言った。
「報酬より先に必要なのは、専門の封印師、安全な運搬経路、そして公開記録。」
「それでも仕事の大きさからして、高額依頼になるのは確かね。」
セラはリリアをまっすぐ見た。
「私たちは受ける。」
「ただし条件がある。」
リリアが緊張した。
「どんな……」
「嘘をつくな。」
「知っていることは全部話せ。」
「判断は私たちがする。」
リリアはすぐにうなずいた。
「はい。」
「それから勝手に消えるな。」
「……はい。」
「怖いなら怖いと言え。」
その最後の言葉に、リリアの目元が赤くなった。
ごく短い沈黙の末、彼女はようやく言った。
「怖いです。」
「ものすごく。」
「さっきから、ずっと。」
セラはうなずいた。
「よし。」
「それなら正常だ。」
その言葉が落ちた瞬間、リリアは本当に泣きそうな顔になった。
だが最後まで涙はこぼさなかった。
代わりに、耳の先がぷるぷると震えていた。
兎耳というものは、思ったより感情を隠しにくい構造らしかった。
リナがそれを見て、小さな声でつぶやいた。
「耳が正直すぎる……」
マヤが口元を押さえながら視線を逸らした。
エリンは露骨に見なかったふりをした。
レオンはベッドの上で苦しそうに笑った。
「いいですね。」
「では、依頼文の草案を書くだけです。」




