第159話
「一度でもやってみなさい」
「あなたの頭から凍らせる」
彼女は窓際の席に座っていた。
膝の上には巻いた地図と薄い書類板があり、足元には薬瓶と浄化粉の入った箱が固定されていた。
外では西部の道が速く流れていった。
街外れの塀はいつのまにか後ろへ押しやられ、その向こうには早春の野原が白っぽく広がっていた。
枯れ草と新しく芽吹く若緑が半分ずつ争っている野原。
まだ冬が完全に退いていないのに、春が無理やり肩で押し入ってきたような風景だった。
セラは一番前の席、御者の隣に座っていた。
座っているというより、半分ほどは前を守っていた。
鞘は膝の横に立てておき、視線はずっと道と野原の縁、低い森、遠い丘の線をなぞっていた。
馬車の中に乗っていながら、真っ先に飛び降りる準備を終えた人の姿勢だった。
風が彼女の黒い髪の先を何度も後ろへ散らし、青い目はその風よりさらに冷たく前方を読んでいた。
馬車の中で会話が続いている間も、セラだけはほとんど揺れなかった。
もちろん見た目にはそうだった。
マヤはそれをちらりと見て、口元を上げた。
「セラ」
「何」
「君、前ばっかり見てるじゃん」
「いつもそうだ」
「いや」
「今日はもっとそう」
セラは返事をしなかった。
リナがくすくす笑った。
「わかる」
「さっきレオンに『待っていろ』って言ったからでしょ」
その言葉が落ちた瞬間、セラの眉がほんの少し動いた。
マヤがすぐに受けた。
「うん」
「あたしも聞いた」
「短かったけど、妙に長く残る言葉だったね」
リナはにこにこ笑いながら頬杖をついた。
「うんうん」
「普段ならただ『休め』『寝てろ』『するな』なのに」
「今日はちょっと違った」
エリンが書類板の上から目だけを上げた。
「二人ともうるさい」
だがその言葉には、ごくわずかに笑いが混じっていた。
セラはしばらく何も言わなかった。
やがて馬車が小石を踏んで一度大きく揺れた時、短く言った。
「くだらないことを言うな」
マヤはすぐに笑った。
「くだらなくないって」
「すごく大事だけど」
「昇級より?」
「それはそれで大事だし、これはこれで大事でしょ」
リナもうなずいた。
「うん」
「どっちも大事」
エリンはこめかみを一度押さえた。
「いったいどういう理屈なの」
「女の子の理屈」
マヤが平然と答えた。
「エリンも女の子じゃん」
「その理屈には混ざりたくないの」
するとリナがマヤのほうへ身を傾けた。
「でも私、本当に気になる」
「マヤも聞いたよね?」
「レオンの顔」
「見たよ」
「少し寂しそうだった」
マヤの笑みがほんの少し薄くなった。
「うん」
その一言の後、少しの間静寂が流れた。
今度は誰もすぐに冗談を投げなかった。
馬車の車輪の音と蹄の音だけが、しばらく隙間を埋めた。
がたん、ごとごと、ひゅうっ。
道がへこむたびに馬車の車体は大きく揺れ、窓の隙間から入る風には草の匂いと土の匂いが混ざっていた。
リナが先に、少し低くなった声で言った。
「今回は本当に一緒に来たかっただろうね」
「当然でしょ」
マヤが窓の外を見ながら答えた。
「あの性格で、こういう遠征で、しかも金等級昇級がかかってるのに、じっとしてるわけない」
エリンが乾いた声で付け加えた。
「駄目だとわかっていても出ようとしたでしょうね」
リナは唇を尖らせた。
「だからわざわざ誓約書まで書かせたんだ」
「そうだ」
セラの短い答えが前席から返ってきた。
リナはうなずいた。
それから鈍器を一度抱きしめるようにして、つぶやいた。
「でも、残してくる側も気分がいいわけじゃないね」
それは意外なほど静かだった。
いつも先に笑い、先に壊し、先に叫ぶリナの口から出たので、なおさらはっきり聞こえた。
マヤも反論しなかった。
彼女は弓ケースの留め具を無意味にもう一度確認してから言った。
「あたしもわかる」
彼女は窓際に額を軽く寄せ、外の野原を見た。
「レオンがいなければ静かでいいと思ってたけど、いざ出発してみるとちょっと変な感じだね」
「いつも何か一つは転がってたじゃん」
「矢筒だろうが、本人だろうが」
リナがすぐに吹き出した。
「それはそう!」
エリンも低く鼻で笑った。
「うるさい部品が一つ抜けた感じね」
マヤが目を細めた。
「部品って言うと、ちょっとひどくない?」
「人って言うともっと騒がしく感じる」
「それもそうだね」
セラがごく短く言った。
「いないと目立つ」
今度は三人とも口をつぐんだ。
その言葉があまりにも簡単で。
あまりにも事実だったから。
馬車の中の空気が、少しの間沈んだ。
車輪の下で砂利が削れる音さえ、その瞬間はやけにはっきり聞こえた。
マヤが結局、先にふっと笑った。
「そうだね」
「だから早く終わらせて帰ろう」
リナがぱっと顔を上げた。
「よし」
「金等級も取って、魔物も倒して、早く戻ってレオンに自慢しよう」
エリンは長く息を吐いた。
「あなたたちの目標がどんどんおかしくなっているんだけど」
「大事なんだって」
リナが真剣に言った。
「すごく」
馬車はさらに西へ進んでいた。
街周辺の低い農地帯が終わると、景色が変わった。
畑はだんだんまばらになり、代わりに風の強い草丘が続いた。
緑というより灰色に近い草色。
陽を受けても温かいというより、乾いて見える色。




