第156話
レオンも目を瞬かせた。
「あ」
しばしの静寂。
リリアの耳がぱっと立った。
「どうして立っていらっしゃるんですか?」
レオンはすぐに答えた。
「それはこちらが聞きたいのですが」
「なぜこんなに早くばれるのでしょうか?」
リリアは信じられないという顔で籠を見下ろし、それからまたレオンを見た。
「絶対安静だって聞きましたけど」
「はい」
「なのに、どうして立っていらっしゃるんですか」
「今まさに起きたところです」
「嘘ですよね?」
「ずいぶん鋭くなられましたね」
リリアは一歩近づき、レオンを上から下まで眺めた。
その視線は思ったよりきっぱりしていた。
北部で震えていたお嬢様とは少し違った。
もちろん今でも慎重で柔らかいのだが、その下に『今回はそのまま見過ごさない』という小さく固い軸が生まれたような感じ。
彼女は小さくため息をついた。
「ベッドへ行ってください」
レオンはその言葉に、思わず笑い出しそうになった。
「いや、少し待ってください」
「なぜ全員が私を同じ方法で扱うのですか?」
「全員が同じ方法で言うということは、理由があるという意味ではないですか?」
痛い。
言葉が。
リリア版もかなり効く。
レオンは結局、ベッドに戻って腰掛けた。
その姿を最後まで確認してから、リリアはようやく安堵の息を吐き、籠をテーブルの上に置いた。
「ここに……」
「パンとハーブ茶です」
「厨房のおばさまが、患者はおとなしく食べて横になっていなければならないっておっしゃっていたので」
レオンは籠を見てから言った。
「ギルド全体が私を一匹の問題児の幼い獣のように扱い始めましたね」
リリアがほんの小さく笑った。
「実は少し、そういう印象です」
「リリアさんまで」
「ごめんなさい」
「でも、あまり否定はできません」
彼女はパンを取り出しながら付け加えた。
「それに……ただ、来てみたかったんです」
それは静かだったが、はっきりしていた。
レオンは少しの間口をつぐんだ。
リリアはすぐに視線を落とした。
「あ、変な意味ではなくて」
「つまり、変な意味がまったくないというわけではないんですけど、いえ、それが……」
耳先が素早く赤くなった。
兎耳というものは、本当に隠せるものが少ない構造だ。
レオンはふっと笑った。
「いいでしょう」
「とてもよく伝わりました」
リリアは籠の中のカップを無意味にもう一度整えた。
「伝わりすぎた気がするんですが……」
「はい」
「忘れてください」
「それは少し難しいですね」
「どうしてですか?」
「今日初めて聞いた言葉の中で、一番嬉しい言葉だからです」
リリアの耳が、今度は完全にぷるぷる震えた。
その反応があまりにも素直で、レオンは少しの間笑いをこらえるために口元を押さえた。
部屋の空気がほんの少し変わった。
さっきまでの静けさが、重く不吉な沈黙だったとしたら。
今の静けさは、茶を淹れる直前の温かい空気のようだった。
言わずに残っているものが少しあり、それでいて居心地が悪いわけではない、不思議に丸い沈黙。
リリアは茶碗にハーブ茶を注いだ。
淡い金色の湯気が立ち上った。
香りは柔らかかった。
リンゴの皮と干した草葉、それにほんの少しの蜂蜜の匂い。
病室の匂いをそっと押しのける種類の香りだった。
レオンはカップを受け取って言った。
「ありがとうございます」
「これは本当に患者扱いですね」
リリアはそこでようやく少し笑った。
「実際に患者じゃないですか。その点は否定しづらいです。それから……私、今朝、北部からそのまま来たんです」
レオンは目を二度瞬かせてから、ようやく意味をつかんだ。
「たった今ですか?」
「はい」
「叔父の親書と、灰色眼球会関連の整理資料をギルドに届けるために」
「アデリアさんが人をつけて、急ぎで呼んだんです」
彼女は自分のマントの裾を少し見下ろした。
「本当は書類だけ預けてすぐ戻るつもりだったんですけど……」
「ギルドの方が、レオンさんが医務室にいるとおっしゃったので」
語尾がほんの少し濁った。
レオンはふっと笑った。
「では、北部の匂いをまとったまま、わざわざ寄ってくださったのですか?」
リリアの耳がまた一度揺れた。
「はい……」
「まあ、そんなところです」
彼女は茶碗を両手で包んだまま、少しの間窓の外を見た。
「実は北部にずっといても、心は落ち着きませんでした」
「叔父も生きていますし、城も少しずつ片づいていますし、人々もまた動き出しています」
「でも不思議なことに、整理が進むほど、かえって思い出す顔があったんです」
レオンの指が、茶碗の縁でほんの少し止まった。
誰の話なのか、わざわざ尋ねなくてもわかった。
リリアが慎重に言った。
「マルセラのことです」
部屋の空気が、もう一度静かになった。
今回の沈黙は、さっきのように澄んでもおらず、最初のように不吉でもなかった。
代わりに、長い間避けられなかった傷を、ついに指でなぞる瞬間のような沈黙だった。
レオンはカップの縁を見下ろした。
ハーブ茶の湯気が薄く立ち上っては消えた。
「そうですか」
その一言の後に、思ったより長い時間が流れた。
リリアは急がなかった。
むやみに慰めもしなかった。
代わりに自分の指でカップを包んだまま、とてもゆっくりと言葉を続けた。
「最初は怖かったです」
「正直、今でも少しは怖いです」
「あの人は最後まで私を連れていき、利用し、傷つけましたから」
「でも……」
「北部に戻って、もう一度回廊を歩いてみると、あの人が一人で残されていた顔も、何度も思い浮かんだんです」
レオンは目を上げた。
リリアの耳先が少し下がっていた。
「憎むだけでは、整理がつきませんでした」
「かわいそうだと言えば簡単すぎる言葉みたいですし、許したと言えばそれも違うんですけど……」




