第155話
レオンはその後ろ姿を最後まで見た。
視界から完全に消えるまで。
そして、すっかり静かになったギルド前に一人残された。
本当に妙な気分だった。
一方ではぽっかりして。
一方では安心して。
さらに一方では、もう何かが間違って起きそうな気がしていた。
なぜなら彼の人生は、だいたいそういうものだったからだ。
レオンは空を見上げた。
晴れていた。
晴れすぎて、むしろ怪しいほどだった。
その時だった。
医務室のほうへ戻ろうとしたレオンの目の前に、黒い羽根が一枚、風に乗ってゆっくり落ちてきた。
とても小さな羽根だった。
カラスのもののようでもあり、魔物のもののようでもあった。
だがその表面には、かすかな灰色の光沢があった。
レオンの表情がほんの少し固まった。
彼は腰をかがめて羽根を拾い上げた。
冷たい。
不自然なほどに。
そして指先に触れた瞬間、意識のどこかがごく小さく軋んだ。
【中間感知】
【遠征出発直後、未確認の残響を捕捉】
【参考:静かに済む可能性は高くありません】
レオンは空を見上げたまま、とても小さく笑った。
「はい」
そして独り言のようにつぶやいた。
「私もそうだと思っていました」
陽光は相変わらず温かかった。
街は見た目には平和だった。
だがその平和は、いつも薄かった。
薄いガラスのようで、指一本を置き違えただけでもひびが入りそうな種類の朝。
そして今、レオンの掌の上には、そのひびの始まりのような羽根が一枚載っていた。
人には休まなければならない時がある。
それは誰でも知っている。
問題は、頭でわかっていることと、体が納得することはまったく別の問題だという点だった。
特にレオンのような人間には、なおさらそうだった。
医務室はあまりにも平和だった。
窓は大きく開いており、風は清らかだった。
干した薬草の匂いと、陽に温められた木の匂いが薄く混じっていた。
廊下は静かで、遠く下の階からだけ、ときおり紙をめくる音と誰かの咳が聞こえた。
ギルドの建物全体が、大きな獣のようにゆったりと息をしているようだった。
戦場の匂いも、血の匂いも、金属同士が削れ合う音もなかった。
平和すぎて、むしろ怪しいほどだった。
レオンはベッドにまっすぐ横になって天井を見た。
そして三十秒後に起き上がった。
また横になった。
一分後にまた起き上がった。
窓まで三歩行った。
エリンが残した薬瓶を見た。
セラが置いていった短剣を見た。
またベッドに戻って座った。
そしてため息をついた。
「いいでしょう」
「私は今、非常に立派に絶対安静を遂行しています」
誰も答えなかった。
当然だった。
一人だったからだ。
レオンは口をもぐもぐさせるようにして付け加えた。
「話し相手がいないので、評価点が曖昧ですね」
彼はまたベッドに仰向けになった。
今度は耐えてみようと心に決めた。
一、二、三。
十。
二十。
四十。
「いや、少し待ってください」
彼は結局、がばっと起き上がった。
「これは体ではなく、魂がむずむずするレベルではありませんか?」
実際、痛いものは痛かった。
肋骨のあたりは大きく息を吸うたび、中で誰かが木の棒をねじっているように軋み、肩は腕を高く上げるたびに熱を持った。
脇腹の傷は、歩いていて布地がこすれるだけでもちくりとした。
だがじっとしていると、余計に気になった。
動いて痛むほうが、むしろ単純だった。
ここが痛い、あそこが引きつる、息をすると刺す。
とても明確だ。
しかし休んでいると話が変わる。
意識が忙しくなった。
今ごろセラたちはどのあたりまで行っただろうか。
灰黒丘陵まではどれくらいかかるだろう。
黒背狼は何匹くらい群れているだろう。
リナはもう一度くらい先走って駆け出しただろうか。
マヤはまたどこか高いところに登って笑っているだろうか。
エリンはきっと文句を言いながらも準備は全部済ませているだろう。
セラは……
セラはたぶん、いちばん前で、いちばん静かな顔で、いちばん先に血の匂いを嗅ぎ取っているはずだ。
レオンは窓の外を見た。
昼が近づいていた。
街の屋根は朝よりもさらに明るく輝き、煙突の煙は昼の陽光の中で薄くほどけていた。
路地では荷車が通り、広場のほうでは子どもたちの笑い声が二度ほど跳ね上がった。
生きている街の音だった。
だからこそ、いっそう不安だった。
こういう日は、必ずどこかで何かが起こる。
だが今日は、少なくとも医務室の中では何も起こらなかった。
廊下は静かで、窓の外の陽光は怠けているほど平和だった。
扉がこんこんと二度鳴ったのも、だからむしろ人間らしい音に聞こえた。
レオンはベッドの端から身を起こした。
「はい」
「どうぞお入りください」
扉が開いた。
入ってきたのはリリアだった。
今日のリリアは、ギルドに滞在する人の格好ではなかった。
薄い茶色の髪を後ろでゆるく結んでいるのは同じだったが、その上から薄い旅用のマントを羽織っていた。
マントの裾とスカートの裾には、まだ北部の道の白っぽい埃が残っており、靴先には乾いた土が薄くこびりついていた。
長距離移動を急いで終えた人特有の乱れが少しあったが、耳先につけた小さな白いリボンだけは、不思議なほどきちんとしていた。
両手には小さな籠が提げられていた。
パンの匂いとハーブ茶の匂いが、その中からほのかに漏れていた。
そして兎耳には、朝の陽光よりも先に北部の冷たい風の匂いがまとわりついていた。
そして彼女は扉を閉めるなり、レオンがあまりにも普通に立っているのを見て目を大きく見開いた。
「あ」




