第153話
それも正しい言葉だったので、レオンはまた一度沈黙した。
エリンが書類をめくりながら言った。
「それにこの遠征、あなたがいないからって弱くなるパーティでもない」
痛い。
こちらも言葉が。
だがエリンはすぐに付け加えた。
「逆よ」
「あなたがいないからといって穴が空くわけじゃない」
「でもあなたがいると、みんなあなたのほうをもう一度見る」
医務室の中がとても静かになった。
エリンは視線を上げた。
「今はそれが嫌なの」
「今回の昇級審査は、マヤとリナが自分の力で金等級の敷居を歩く場であって、あなたを守りながら通過する場じゃない」
マヤがふっと笑った。
「わあ」
「言い方は冷たいのに、中身はいちばん優しいね」
エリンは無表情で答えた。
「褒め言葉としては受け取らない」
だが彼女の言葉は正しかった。
正確だった。
今回の遠征は、彼女たちが自分の名をより高い場所に刻む場だ。
セラとエリンがすでに金等級の重みを証明しているなら、今回はマヤとリナがその敷居を自分の足で越える場面でなければならない。
そこにレオンが混ざれば、きっと場が乱れる。
レオンはゆっくり息を吐いた。
「いいでしょう」
「わかりました」
リナの目がきらりと輝いた。
「本当?」
「はい」
「こんなにあっさり?」
「人を何だと思っているのですか」
マヤがすぐに言った。
「こっそりついてくる人間」
アデリアが書類を掲げて見せた。
「だからこれがある」
彼女が取り出したのは、非常に不吉な紙だった。
そこには大きく書かれていた。
絶対安静誓約書
レオンはそれを見るなり顔をしかめた。
「少し待ってください」
「これはあまりに露骨ではありませんか?」
アデリアは平然としていた。
「必要な措置だ」
「署名までするのですか?」
「もちろん」
「拒否権は?」
「ない」
本当に恐ろしい人だ。
さっきも思ったが、今回は二度思った。
レオンは誓約書を受け取った。
内容はとても細かかった。
無断外出禁止。
ギルド馬の無断借用禁止。
医務室の窓からの脱出禁止。
屋根伝いの移動禁止。
裏門使用禁止。
マヤの尻尾をつかんでぶら下がること禁止。
リナの荷物の中に隠れること禁止。
セラにこっそり許可をもらおうとすること禁止。
エリンに睡眠薬の匂いを嗅いだふりをする芝居禁止。
レオンは最後まで読んで言った。
「……これはすでに私のことを知りすぎではありませんか?」
エリンが冷たく答えた。
「みんな一度ずつ想像してみたルートなのよ」
「恐ろしいですね」
「私ではなく、皆さんが」
マヤが吹き出した。
「早く署名して」
結局、レオンは署名した。
非常に不服そうな顔で。
その様子を見てリナがけらけら笑い、マヤも目尻を曲げた。
エリンはため息をつきながらも、口元がほんの少し緩み、アデリアは書類を回収して折り畳んだ。
セラだけは静かにレオンを見ていた。
その視線は妙だった。
勝たせてくれるつもりのない視線。
その代わり、生きていさせるつもりの視線。
レオンはそれに気づいた。
だからそれ以上駄々をこねなかった。
その代わりに尋ねた。
「出発はいつですか?」
アデリアが答えた。
「一時間後」
早い。
本当に早い。
だからか、その後から医務室は急に慌ただしくなった。
マヤは矢筒をもう一度点検し、リナは鈍器の重みを手首で何度か弾ませてみた。
エリンは遠征用の魔力薬と浄化粉、解毒剤を別にまとめた。
セラは短く必要な項目だけを確認した後、それ以上は言わなかった。
その間、レオンはベッドに座ってそれを全部見ていた。
妙な気分だった。
息苦しくて。
安心もして。
少し寂しくて。
少し誇らしくもあった。
自分がいなくても、このパーティは強い。
それはよいことだ。
けれどよいことほど、時には寂しい。
本当に人間らしい矛盾だった。
それに真っ先に気づいたのはセラだった。
出発直前、彼女は他の三人より先にレオンのほうへ歩み寄った。
医務室の窓辺には朝の光が満ちていた。
陽光は包帯の上に薄く降り、白い布をひときわ眩しく見せていた。
セラは少しの間何も言わずに立っていた。
レオンが先に笑った。
「どうなさいましたか」
「もしかして最後に窓の封印でもしに来られましたか?」
セラは短く首を横に振った。
そして懐から何かを取り出し、レオンのベッド脇にとんと置いた。
小さな鞘だった。
訓練用短剣より少しましな程度の、短い補助剣。
柄は黒く、鞘の先にはセラが使う装備に似た簡素な金属飾りがついていた。
レオンは答えるタイミングを逃した。
「これは……」
「貸しておく」
セラが言った。
「休んでいる間も、何も起きない保証はない」
それは街が完全に安全ではないという意味でもあり、同時に、休んでいるとしても完全に素手のままにはしておかないという意味でもあった。
レオンは短剣を慎重に持ち上げた。
思ったより重みがよかった。
軽すぎず、重すぎもしない。
手の中で何度も意識を向けさせる重み。
セラが付け加えた。
「ただし、遠征についてこいという意味ではない」
レオンは笑った。
「先に釘を刺されるのですね」
「ああ」
「お優しいですね」
「違う」
「私の基準では合っています」
セラは少しの間口をつぐんだ。
そしてとても小さく言った。
「行ってくる」
短い言葉だった。
なのにその短さが、妙に深かった。
レオンも笑って答えた。
「はい」
「行ってらっしゃい」
マヤはもう少し賑やかだった。
彼女はベッド柵に腰掛けるように寄りかかると、レオンの額を指でとんと突いた。
「こっそり出てこないで」




