第146話
「でも裂けた肉片を一瞬でつなぎ合わせ、ひびの入った骨を光で即座に治し、傷そのものを消す本当の意味での治癒は、ほとんど消えた」
「どうして?」
今度はマヤが尋ねた。
エリンが少し帳簿を見てから答えた。
「大陸北東部にあった昔の戦争のせいだという説が一番有力よ」
「その時、人々は傷を治す力を神聖と呼び、あまりに多く引き出して使ったそうよ」
「兵士、貴族、呪術実験体、封印維持用の媒介まで」
「結局、その力自体が枯れてしまったと言われている」
アデリアが言葉を継いだ。
「簡単に言えば、世界が治癒を拒むようになったということだ」
「生き残るのは、それぞれが耐えなければならない方向へ」
リナが顔をしかめた。
「世界、意地悪すぎる」
マヤが低く笑った。
「今日初めて知ったことでもないでしょ」
エリンは一度肩をすくめた。
「だから生還者みたいなものは、余計に異様に見えるの」
「本当の治癒は消えたのに、ああいう者たちは治癒なしでも生き残るから」
「身体が治るというより、壊れた状態を無理やりつなげている感じに近い」
セラがごく小さく言った。
「だからさらに無理をする」
部屋の中が一瞬静かになった。
それは誰もが知っている事実だった。
レオンはいつも笑い、いつも喋り、いつも身を投げ出す。
だがその笑いの後ろにあるのは、無事であることではない。
壊れていないのではなく、壊れたまま歩き続けている方だ。
それを誰よりも近くで見たのは、結局この部屋の人々だけだった。
「整理する」
彼女は一行ずつ指した。
「レオンにはクラス測定をやり直させる」
「再測定の結果、メインクラスは『荷物持ち』として整理する」
「既存の『生還者』はサブクラスとして残す」
「ただし『生還者』の真の正体とその意味、事例記録は灰色封印として別に束ねる」
「当分、冒険者等級の昇級は意図的に遅らせる」
「実績は残すが、公式審査は保留する」
「灰色手袋およびその背後組織が、レオンを再び狙う可能性は非常に高い」
「リリアと北部ベルハルト側にも、この情報を全部ではなくとも一部共有する」
「そしてレオン本人には……」
アデリアが言葉を選ぶように一瞬止まった、その時だった。
セラが先に口を開いた。
「今は言うな」
アデリアの視線が上がった。
マヤも窓際から身を離した。
セラは同じ姿勢のまま、ごく低く硬い声で言葉を続けた。
「表向きにはようやく回復したように見えても、今のレオンは崩れている」
「少し前に私は、しっかりしろ、金等級の冒険者もいつかは危うくなることがあると言ったことがある」
「強い者も最後には崩れ得る、と」
「あの時はその言葉が必要だった」
「止めなければならなかったから」
マヤの目の色がごくわずかに動いた。
セラは視線を下げなかった。
「だが今はわかる」
「あいつはそういう言葉を妙な形で受け取る」
「誰かが『守ってほしい』と頼めば、その一言だけでまた立ち上がる奴で、そこに私が投げた言葉まで掴めば、『どれほど強い者でも危うくなるなら、自分が先に壊れてでも守らなければならない』と結論づけるだろう」
その部屋にいる誰も、その言葉を軽く聞くことはできなかった。
セラの指の一節が、鞘の上でごくゆっくり動いた。
「問題はその後だ」
「あいつは名分ができると、自分の身体をどこまで使ってもいいと思うだろう」
「すでにそうしている」
部屋の中が静かになった。
セラの声は相変わらず高くなかった。
「そこに私が投げた言葉まで掴めば、もっと悪くなる」
「『いつか誰でも危うくなるなら、自分が先に擦り減ってなくなってでも耐えなければならない』」
「そういう形で自分を追い詰める奴だ」
ごく短い沈黙。
セラは低く付け加えた。
「だから隠すべきなのは、クラス表記そのものではない」
「『生還者』が本当は何を意味するのか、その正体と果てがどこへつながるのか」
「それを今聞けば、あいつは必ず使い方を間違える」
部屋の中が静かになった。
セラの声は相変わらず高くなかった。
「『自分はもともとこういう側だから大丈夫だ』」
「そう結論づけたら終わりだ」
エリンが低く受けた。
「そうね」
「制御より先に、正当化に使うわ」
マヤもゆっくりうなずいた。
「うん」
「それは私にも見える」
「あの子、理由さえできれば自分の命から一番安く扱うもの」
リナは唇を尖らせた。
「嫌だ」
「それもすごくレオンっぽくて、余計に嫌」
ブラムは帳簿を指先で叩きながら鼻で笑った。
「わしが言おうとしていたのもそれだ」
「生還者は自分の限界を超える理由を得れば、さらに危険になる」
「もともと身体から投げ出す奴なのに、クラスの真の正体まで知れば、自分で枷を外してしまう」
アデリアが静かに結論を下した。
「いい」
「ではそれで決める」
「レオン本人にも再測定結果は知らせる」
「メインクラスが『荷物持ち』として整理され、『生還者』はサブとして残る事実までは説明する」
「ただし『生還者』の真の正体とその意味、記録は当分隠す」
「永遠にではなく、今は」
セラが短く尋ねた。
「いつまで」
ブラムが答えた。
「少なくとも身体がいくらかつながり、自分のクラスの本当の意味を言い訳にしてさらに投げ出さない程度になるまでだ」
セラは少し沈黙した。
そしてごく低く言った。
「そうだな」
「その時までは隠せ」




