第138話
その影は鞘のようにまっすぐで、セラ自身はその刃の中にどうにか掛かっている沈黙のようだった。
彼女が言った。
「君は今、休むべきだ。」
レオンは視線を少し下げた。
「わかっています。」
「なのに休まない。」
「…はい。」
「なぜ。」
その問いは単純だった。
だからこそ、よけいに逃げにくかった。
レオンは少し笑おうとした。
失敗した。
だから、ただ一度窓の外を見た。
屋根。
煙突。
灰色の空。
ゆっくり流れる雲。
すべてがあまりにも普通だった。
彼はとても小さく言った。
「横になると、何か細かい考えがよく浮かぶので。」
部屋の中が静かになった。
リナも、マヤも、エリンもすぐには何も言えなかった。
それはあまりにも単純で、だからこそまっすぐ入ってきた。
横になると思い出す。
目を閉じると浮かぶ。
じっとしていると、もう動かない顔を思い出す。
マルセラ。
ギルド地下。
黒い灰。
最後の言葉。
そして、それを聞いた自分の表情まで。
セラはしばらく何も言わずにレオンを見た。
彼女はもともと他人の心を長く問いただす人ではなかった。
説明も長くはしない。
手から先に動かし、結論から下す。
そんな人が、今回は答えまで少し遅れた。
「それでも休む。」
レオンがふっと笑った。
「論理的には隙がありますが。」
「構わない。」
「強いですね。」
「うん。」
短い返事。
だが今回は、その終わりがほんの少し柔らかかった。
セラは手を伸ばした。
レオンは一瞬身構えた。
まさか本当にこのまま持ち上げられるのかと思って。
だが彼女がしたのは、それではなかった。
指先がレオンの髪を一度、軽くかき流した。
以前ギルド地下で、彼が濡れた床にもたれて座っていた時のように。
短く、ためらいはほとんどなく、けれど確かに温かい手つき。
セラが低く言った。
「今回は私が見ている。」
レオンは目を瞬かせた。
「はい?」
「君が目を閉じても。」
部屋の空気がほんの少し揺れた。
リナが口を開け、閉じた。
マヤは意味もなく視線をそらした。
エリンは何も言わなかったが、本の角を握る指が一度かすかに動いた。
レオンはしばらく答えられなかった。
それは不思議だった。
短く、無愛想で、セラらしく説明が足りなかった。
それでも意味だけは、あまりにもはっきりしていて。
つまり。
横になってもいい。
目を閉じてもいい。
今回はひとりで抱えていなくてもいい。
そういう意味だった。
レオンは口元を少し押さえた。
笑うのかどうか、曖昧な顔だった。
結局、彼は負けた。
負けてもいいような気がした。
「わかりました。」
彼が言った。
「では今日は少し、負けておきます。」
リナが即座にぱっと笑った。
「よし!」
「勝った!」
マヤが突っ込んだ。
「君が勝ったわけじゃないでしょ。」
「雰囲気的には合ってるじゃん。」
エリンは薬瓶の栓を開けながら冷たく言った。
「うるさい。」
「眠る雰囲気を壊さないで。」
そして結局、レオンはベッドに寝かされた。
本当に『寝かされた』という表現が合っていた。
リナが毛布を掛け、マヤが枕の高さを合わせ、エリンが無理やり薬を飲ませ、セラは最後までベッドのそばに立っていた。
レオンは途中途中で抗議もしてみたが、半分ほどはすでに諦めた人間の出す声だった。
「私、息はできますよね?」
「うん。」
「腕はどこに置けばいいのですか。」
「じっとしてて。」
「考え事はしてもいいですか。」
エリンが瓶を片づけながら、ぶっきらぼうに言った。
「それは仕方ないでしょ。」
レオンは天井を見た。
客室の天井は地下室の天井と違う。
湿った石でもなく、灰が降り積もりもしない。
木目が見え、光が柔らかく広がり、どこからか薬草の匂いがする。
普通だ。
安全だ。
だからこそ、さらに見慣れない。
彼は薬の効き目がゆっくり広がるのを感じた。
まぶたが重くなった。
肋骨の痛みも少し遠ざかった。
部屋の中では、まだ小さな音が行き来していた。
リナがアヒルをどこに置くか尋ねる声。
マヤが、それは本当に必要ないと言う声。
エリンが、うるさいともう一度刺す声。
そして。
セラの息遣い。
近い。
一定だ。
動かない。
レオンは目を閉じる直前、とても小さく言った。
「セラさん。」
「何だ。」
「本当に見ていらっしゃいますか。」
短い沈黙。
そして、とても低く硬い答え。
「そうだ。」
その一言が妙におかしくて、レオンは目を閉じたまま少し笑った。
「いいですね。」
「何が。」
「今回は…」
「休むことまで監視されるんですね。」
リナがついに笑い出し、マヤも小さくぷっと笑った。
エリンは長く息を吐いた。
セラだけがほんの一瞬、本当にほんの一瞬だけ口元を上げた。
それをレオンは見なかった。
すでに眠りに半分ほど沈んでいたからだ。
そして今回の眠りは、以前のものとは少し違っていた。
蹴りもなく、縄もなく、誰かが扉の外で笑うこともない。
代わりに誰かがそばにいて、誰かが騒がしくて、誰かが薬の匂いを漂わせ、誰かがアヒルをベッド脇に立てている。
めちゃくちゃだ。
本当に。
けれどそれは、とても安全なめちゃくちゃだった。
窓の外では、午後がゆっくり夕方へ傾いていた。
街の屋根は赤い光を少しずつ食べながら、一日を使い切った獣のように背を低くした。
路地の下の影は長くなり、煙突の煙は夕焼けをかすめて、灰色から紫色へ染まった。
世界はまた、何事もなかったふりをするのだろう。
それでも構わなかった。




