第132話
痛む肋骨も、周囲の音も、指先の感覚も、すべて一枚遠のいた。
マヤが真っ先に気づいた。
「レオン?」
彼は答えられなかった。
答えなかったのではなく、何を言えばいいのか、少し浮かばなかった。
大丈夫だとか、違うだとか、そういう言葉が全部、今の自分にはあまりにも遠くにあるようだった。
セラもすぐ振り返った。
レオンは唇を少し開き、それから閉じた。
結局何も言えないまま、ぼんやりと手で顔の片側をぬぐった。
そこでようやく手の甲に濡れた感触が残った。
泣いているのだと気づいたのも、少し遅れてからだった。
声を出して泣いているわけでもなかった。
ただ涙が流れ、肩がほんの少し傾き、頭が下へ落ちた。
こらえるとか崩れるというより、中が空になった人間の体が、一瞬だけ自分の重さを忘れたのに近かった。
「……あ。」
レオンはとても小さく声を出した。
罵りでも、名前でもなく、何の意味もない声だった。
それが不思議なほど、さらに空っぽだった。
なぜ泣いているのかも正確には説明できなかった。
マルセラが哀れだからなのか。
リリアが泣いたからなのか。
エドモンドがあまりにも静かだったからなのか。
それとも、自分が結局誰ひとり完全には救えなかったという事実が、今になって空っぽの場所だけを残していったからなのか。
セラは無言で彼の前に立った。
そして何も言わず、レオンの肩をつかんだ。
強くも弱くもない力だった。
逃げるなという力でも、泣くのをこらえろという力でもなかった。
ただ、今ここに立っていろという力。
レオンはその手にかろうじて体重を預けるように立っていた。
アデリアは少しそちらを見たが、あえて何も言わなかった。
代わりにギルドの人員へ低く指示した。
「控室を空けろ。」
「ベルハルト側に時間をやれ。」
「捕虜の尋問は二時間後に再開する。」
「それと今日は誰も、屋敷の名前を軽々しく口にするな。」
その指示が下っている間にも、リリアはマルセラの傍らに膝をついて泣いていた。
エドモンドは彼女の後ろに立っていた。
崩れまいとする大人の背中は、いつも少し悲しい。
エリンはレオンにハンカチを差し出した。
「これ。」
レオンはすぐには受け取れなかった。
手を伸ばす動作が一拍遅れた。
エリンはため息をつくと、直接彼の手に握らせた。
「泣けるなら泣きなさい。」
「ただし倒れないで。」
「今の体で床に行かれたら、私がもっと苛つく。」
その言葉があまりにもエリンらしくて、レオンは笑うべきかどうかさえ一瞬浮かばなかった。
ただ、目だけをゆっくり瞬かせた。
リナはそっと彼の隣に寄った。
いつもなら背中をぱんぱん叩いただろうが、今回はそうしなかった。
ただ袖の端だけをそっとつかんだ。
マヤは一度唇を噛み、視線をそらした。
キツネ耳が少し下がっていた。
冗談の多い人間は、たいてい悲しい場面の前ではなおさら不器用だ。
セラは最後まで手を離さなかった。
レオンはずいぶん経ってからようやく息を整え、かすれた声でつぶやいた。
「……すみません。」
セラがすぐに言った。
「なぜ。」
レオンは答えられなかった。
謝る理由を説明しようと口を開いたが、内側があまりにも空で、言葉が続かなかった。
自分が誰に、何を、どれだけ謝らなければならないのかも、はっきりしなかった。
ただ今この場で、自分だけがひとり空っぽのようで、だから出た言葉だった。
唇が一度動いたが、結局音は出なかった。
セラは少し彼を見てから、手を離さないまま、とても短く言った。
「大丈夫だ。」
慰めというより、判定のようだった。
今すぐには壊れていない。
だから傍に置く。
その程度の言葉。
レオンは顔を上げられないまま、ぼんやり立っていた。
涙はいつの間にか止まっていたが、だからといって戻ってきたわけでもなかった。
空っぽの内側を、冷たい空気だけが少しずつ出入りしていた。
リリアの泣く声も、エドモンドが息を整える音も、遠くの廊下でギルドの人員が慌ただしく行き来する気配も、すべて現実のようではなかった。
彼はただその場に立っていた。
支えられて立っているほうに近かった。
アデリアはその姿をもう一度見た。
そして何も言わずに視線を戻した。
代わりに、ギルドの人員へさらに低い声で指示した。
「残った封印を整理して、警備隊には報告だけ上げろ。」
「尋問は私が組み直す。」
「今日はベルハルト側を先に休ませろ。」
マヤが小さく尋ねた。
「レオンは?」
アデリアは短く答えた。
「ひとりにするな。」
その一言で、リナの手がレオンの袖を少し強く握った。
エリンは不満げな顔で舌打ちしたが、結局レオンのほうへ半歩近づいた。
マヤは控室の扉とレオンを交互に見て、冗談気のない顔で一度だけうなずいた。
セラは相変わらず一番近い場所にいた。
リリアは泣きながらも一度、レオンのほうを振り返った。
自分の代わりにその言葉を伝えてくれた人、そして今は自分よりもっと空っぽに見える人を。
彼女は何か言おうとしたが、結局何も言えなかった。
今はどんな言葉も、あの空っぽの内側までは届かない気がしたからだ。
控室の窓の外では、朝が完全に昇っていた。
街は平然とした顔で屋根の上に陽光を載せ、路地は昨夜の血の匂いなど最初から知らなかったかのように、人々を迎える準備をしていた。
世界はいつだって、そうして図々しかった。




