第13話
「あいにく、あなたにはいたのよ。」
その時だった。
広場の外から衛兵たちの笛の音が聞こえてきた。
遅い。
かなり遅い。
だが、いないよりはましだった。
男は舌先で一度、唇の内側に触れた。
計算が変わる顔だった。
彼はゆっくり後ろへ下がった。
「今日はここまでですね。」
マヤがすぐに矢を構えた。
「逃がすと思う?」
「逃げる、ですか。」
「表現が乱暴ですね。」
男はにっと笑い、手を広げた。
黒い霧が彼の足元から立ち上った。
エリンが叫んだ。
「止めて!」
「転移術よ!」
レオンは真っ先に近くの水桶を蹴り飛ばした。
水桶が倒れ、冷たい水が広場にこぼれた。
石畳を伝って流れた水が、男の足元の霧に触れた。
エリンの目が光った。
「いい!」
彼女がすぐに氷魔法をつなげた。
ざあっ。
水と霧が一緒に凍りついた。
転移術式が半分ほど固まってしまった。
男の顔が初めてはっきりと歪んだ。
セラが踏み込んだ。
剣が彼の胸元をかすめた。
外套が裂け、その内側の制服に赤い線が細く引かれた。
マヤの矢が肩を貫いた。
リナの鈍器が氷の床を砕きながら、すぐ横をかすめた。
男は結局転移には成功したが、今回はあまり優雅ではなかった。
黒い霧が弾けるように散り、彼の姿も一緒に消えた。
ただ、完全に消える直前の最後の言葉だけは、はっきりと残した。
「箱を開けないでください。」
「開けば、あなた方が真っ先に後悔するでしょう。」
静寂が残った。
その後に続いて、衛兵たちがどっと駆け込んできた。
しかし、すでに一番重要な相手は消えた後だった。
広場には、うめく追っ手たち、壊れた果物箱、倒れたベンチ、砕けた扉板、薄く氷の残った石畳、そして血を流しながら息を荒げる五人と、兎耳の少女がいた。
宿の主人は半分泣きそうな顔で、自分の扉板と広場を交互に見た。
「これはいったい何なんですか……」
レオンが肩を押さえながら言った。
「私もいつも似たような問いを抱えて生きています。」
彼はそう言って一歩踏み出そうとしたところでよろめいた。
【出血確認】
【過度な無理と判定】
【今倒れれば次の行動成功率は上がりますが、ひとまず治療を推奨します】
レオンは乾いた笑いを漏らした。
「とうとう親切にまでなりましたね。」
そして本当に倒れた。
前へ。
リリアが驚いて箱を落としそうになり、エリンが素早くレオンの後頭部をつかんで、床への頭突きだけは防いだ。
マヤが駆け寄って叫んだ。
「レオン!」
リナも顔を真っ青にした。
「ちょっと、起きて!」
「今は笑わせるタイミングじゃないよ!」
セラはすでに膝をついて傷を確認していた。
彼女の手は速く正確だった。
「深くはない。」
「出血を止めればいい。」
エリンが苛立たしげに付け加えた。
「それは『死なない』って意味であって、『軽い』って意味じゃないわ。この馬鹿がまた体から投げ出したのよ。」
リリアは凍りついた顔でレオンを見つめた。
彼女の指先が震えた。
「私のせいで……」
マヤが低く言った。
「今は自責より箱の安定が先。」
エリンがうなずいた。
「そう。」
「それにこいつは元からこうよ。」
セラが短く訂正した。
「元からだから余計に問題だ。」
気を失う直前、レオンはかすかに目を開けた。
視界がぼやけていた。
空は暗くなりかけ、広場の明かりは水に濡れた星のように滲んでいた。
その隙間に、四人の顔と、その向こうで涙ぐむリリアの顔が重なった。
レオンはとても苦しそうに笑った。
「大丈夫ですね……」
マヤが叫んだ。
「何が大丈夫なの!」
レオンは目を閉じながらつぶやいた。
「今回は……最初から……一人ではなかったんですね……」
そしてそのまま意識を手放した。
それはおかしいのに、不思議と胸に残った。
広場に訪れたわずかな沈黙の中で、セラはレオンを抱え上げた。
マヤは周囲の衛兵たちに道を空けろと叫んだ。
リナは壊れた道を片づけながら先頭に立った。
エリンは片手で傷の出血を押さえ、もう片方の手でリリアの抱く箱の封印をどうにか維持した。
兎耳の少女は、その後ろをよろめきながらついてきた。
新しい事件は、今まさに本当に始まったばかりだった。
宿の中は、戦場を無理やり室内へ折り畳んで押し込んだような状態になった。
さっきまで夕食客たちが酒と肉とカード遊びで騒がしくしていた一階ホールは、一瞬で応急室のようなものになっていた。
蝋燭は急いでさらに灯され、壁と卓上に黄色く不安定な光を落とし、空気には血の匂いと薬草の匂いと酢の匂いが幾重にも広がった。
床に残った泥の足跡は、広場の騒動がまだ完全には終わっていないことを物語っていた。
窓の外からは衛兵の怒号と見物人たちのざわめきが時折染み込んできたが、それは分厚い扉の向こうの別世界の出来事のようだった。
実際、別世界だった。
扉の内側では今、レオンが死ぬか死なないかの方がはるかに重要だったからだ。
「リナ、水。」
「熱いのと冷たいの、両方。」
「うん!」
「マヤ、窓を閉めて。」
「それから誰も入れないで。」
「もうやってる。」
「リリア。」
エリンが顔も上げずに言った。
「箱を下ろさないで。その代わり、あそこの椅子の端に座って。動かないで。泣くのも少しだけ我慢して。」
リリアは目を大きく見開いてから、慌ててうなずいた。
「は、はい……!」




