表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/42

第13話

男はその光景を見て、初めて表情を変えた。


少し、本当に少し驚いた顔。


「現場封印までできる魔導師がいたとは。」


エリンは振り向きもせず答えた。


「あんたには不幸なことに、いたのよ。」


その時だった。


広場の外から警備兵たちの笛の音が聞こえてきた。


遅い。


とても遅い。


だが、いないよりはましだった。


男は舌先で一度、唇の内側に触れた。


計算が変わった顔だった。


彼はゆっくりと後ろへ下がった。


「今日はここまでですね。」


マヤが即座に矢を向けた。


「逃がすと思う?」


「逃げる、ですか。」


「表現が荒いですね。」


男はにやりと笑い、手を開いた。


黒い霧が彼の足元から立ち上った。


エリンが叫んだ。


「止めて!」


「転移術よ!」


レオンはいちばん先に近くの水桶を蹴り飛ばした。


水桶が倒れ、冷たい水が広場にこぼれた。


石畳を伝って流れた水が、男の足元の霧をかすめた。


エリンの目が光った。


「よし!」


彼女がすぐに氷の魔法をつなげた。


ざあっ。


水と霧が一緒に凍りついた。


転移術式が半ば固まってしまった。


男の顔が初めて、はっきりと歪んだ。


セラが踏み込んだ。


剣が彼の胸元をかすめた。


マントが裂け、内側の制服に細い赤い線が引かれた。


マヤの矢が肩を貫いた。


リナの鈍器が氷の床を砕きながら、すぐ横をかすめた。


男は最後には転移に成功したが、今回はあまり優雅ではなかった。


黒い霧が弾けるように散り、彼の姿もともに消えた。


ただ、完全に消える直前、最後の言葉だけははっきりと残した。


「箱を開けないでください。」


「開けば、あなた方が最初に後悔することになります。」


沈黙が残った。


その後に続いて、警備兵たちがどっとなだれ込んできた。


しかし、すでに一番重要な相手は消えた後だった。


広場には、呻く追っ手たち、割れた果物箱、倒れたベンチ、壊れた扉板、薄く氷の残る石畳、そして血を流して息を荒げる五人と兎耳の少女がいた。


宿屋の主人は半泣きの顔で、自分の扉板と広場を交互に見た。


「これはいったい何なんですか……」


レオンが肩を押さえながら言った。


「私もいつも似たような質問をしながら生きています。」


彼はそう言って一歩踏み出そうとし、よろめいた。


【出血確認】 【過度な無理と判定】 【今倒れれば次行動の成功率は上がりますが、ひとまず治療を推奨します】


レオンは乾いた笑いを漏らした。


「ついに親切にまでなりましたか。」


そして本当に倒れた。


前へ。


リリアが驚いて箱を落としかけ、エリンが素早くレオンの後頭部をつかんで、床への頭突きだけは防いだ。


マヤが駆け寄って叫んだ。


「レオン!」


リナも顔を青くした。


「ちょっと、起きて!」


「今は笑わせるタイミングじゃないよ!」


セラはすでに膝をつき、傷を確認していた。


彼女の手は速く、正確だった。


「深くはない。」


「出血さえ止めればいい。」


エリンが苛立たしげに付け加えた。


「それは『死にはしない』って意味で、『軽い』って意味じゃないからね。」


「この馬鹿が、また体から投げ出した。」


リリアは凍りついた顔でレオンを見つめた。


彼女の指先が震えていた。


「私のせいで……」


マヤが低く言った。


「今は自責より、箱の安定が先。」


エリンがうなずいた。


「そう。」


「それに、こいつは元々こうなの。」


セラが短く訂正した。


「元々だから、余計に問題だ。」


気絶する直前、レオンはかすかに目を開けた。


視界がぼやけていた。


空は薄暗くなっていて、広場の灯りは水に濡れた星のように滲んでいた。


その隙間に四人の顔と、その向こうで泣きそうなリリアの顔が重なった。


レオンはひどく苦しそうに笑った。


「大丈夫ですね……」


マヤが叫んだ。


「何が大丈夫なの!」


レオンは目を閉じながらつぶやいた。


「今回は……」


「最初から……」


「一人じゃなかったんですね……」


そして、そのまま意識を手放した。


その言葉は、可笑しいのに不思議と胸に残った。


広場に訪れたしばしの沈黙の中で、セラはレオンを抱き上げた。


マヤは周囲の警備兵たちに道を開けろと叫んだ。


リナは壊れた道を片づけながら先頭に立った。


エリンは片手で傷の出血を押さえ、もう片方の手でリリアが抱えた箱の封印をどうにか保っていた。


兎耳の少女はその後ろを、よろめきながらついてきた。


新しい事件は、今まさに本当に始まったばかりだった。


宿屋の中は、戦場を無理やり室内に折り畳んだような状態になった。


さっきまで夕食客たちが酒と肉とカード遊びで騒がしくしていた一階のホールは、一瞬で応急室のようなものになっていた。


ろうそくは急いでさらに灯され、壁と卓上に黄色く不安な光を注ぎ、空気には血の匂いと薬草の匂いと酢の匂いが幾重にも広がった。


床に残った泥の足跡は、広場の騒ぎがまだ完全には終わっていないことを物語っていた。


窓の外からは警備兵の怒鳴り声と見物人たちのざわめきが時おり染み込んできたが、それは分厚い扉の向こうの別世界のことのようだった。


実際、別世界だった。


扉の内側では今、レオンが死ぬか死なないかの方がずっと重要だったからだ。


「リナ、水。」


「熱いのと冷たいの、両方。」


「うん!」


「マヤ、窓を閉めて。」


「それから誰も入れないで。」


「もうやってる。」


「リリア。」


エリンは顔も上げずに言った。


「箱を下ろさないで。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ