表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/133

第126話

「終わりというのは」


エリンは今度は答えなかった。


一瞬の沈黙。


それが答えだった。


レオンは歯を食いしばった。


なら結局、マルセラはほぼ確実に死ぬ側へ身を乗せるということだ。


よくないな。


本当に。


セラがとても短く言った。


「選択は」


彼女の視線はマルセラへ向いていた。


マルセラは床に半ば倒れた姿勢のまま、息を整えていた。


乱れた髪の間から覗く顔は、さっきよりさらに白かった。


それでも目だけは、妙に澄んでいた。


恐怖があまりに長く煮えた末、ある瞬間に底まで焼け切ると、人はかえってこうして澄むこともある。


マルセラが唇の端をひねった。


「今さら聞くのね」


灰色手袋の声が薄く笑った。


「お戻りなさい、マルセラ」


「まだ遅くはありません」


丁寧だった。


だからこそ、なおさら吐き気がした。


「あなたがここで死ぬ理由はありません」


「ただ手を差し出し、頭を下げて、こちらへ来ればいいのです」


「私は約束を守るほうですからね」


その言葉にリナがすぐ悪態を吐こうとしたが、マルセラが先に笑った。


乾いていて、嘲笑というより、自分の中から最後の唾を吐き出す音に近い笑い。


「あなたの約束の果てがどんなものかは、さっき見た」


彼女の視線が、死んだ手先のほうを一度かすめた。


封印布の下から、黒い灰がまだ薄く流れ出していた。


灰色手袋が答えた。


「あの者は任務を果たしました」


「あなたは違いますよ」


「そう」


「それがもっと嫌」


マルセラの声は低かった。


「捨てられるより、長く縛っておかれるほうが気持ち悪い」


レオンはその言葉を聞いて、掴んだ手首にさらに力が入るのを感じた。


この女は本当にやるつもりだ。


自分の命で。


自分の体の中に埋まった道を、釣り糸のように使って。


本当に、執拗なほどに。


彼は低く言った。


「やめてください」


マルセラが彼を見た。


「なぜ」


「死ぬからです」


「うん」


あまりに淡々としていて、レオンは一瞬言葉に詰まった。


マルセラは低く付け加えた。


「だからやるの」


それは格好つけでも、偽悪でもなかった。


ただの本心だった。


「他人の手で死ぬくらいなら、自分の手で終わりを掴む」


灰色手袋がすぐに言葉を重ねた。


「もっともらしく聞こえはします。ですが終わらせるのも、掴むのも、結局は私の手の中でしょうに」


言い終わるのと同時に、黒い線の一本が床から立ち上がり、マルセラの解けた手首を貫くように突いてきた。


レオンが反射的に手の甲で弾き、黒い線が彼の手のひらを浅く裂いた。


血が広がった。


灰色手袋はその血にすら笑い気配を混ぜた。


レオンは歯を食いしばった。


「それが何かの達成になるのですか」


マルセラはほんの一瞬目を伏せてから、また上げた。


そして言った。


「私にとってはなる」


その一言は、奇妙に重かった。


セラが剣を逆手に持った。


アデリアは指先で素早く計算していた。


マヤは息を殺したまま、金属片の位置を見渡した。


リナは唇を噛み、鈍器の柄を握る手に力を込めた。


エリンだけはなおも、マルセラの首の後ろの青い線を見ていた。


彼女が言った。


「片手だけ解く」


「全部解いたら、すぐ引きずられる」


アデリアが即座に顔を上げた。


「可能か」


「縛られた姿勢を維持したまま、右手一つだけ」


「それから私が線を掛けておく」


「奴が噛んだら、その手で一緒に噛み返して」


セラが短く言った。


「私が斬る」


マルセラはセラを見た。


その目に、奇妙なものがよぎった。


恐れ。


苛立ち。


そしてごく薄い安堵。


「迷わないで」


セラは答えなかった。


代わりに剣先をほんの少し下げた。


それが答えだった。


レオンはまだ手を放していなかった。


よくない。


本当に。


だが皆はもう、あまりにも早く次の一枠へ進んでしまっていた。


自分だけが、その一枠手前で踏ん張っているようだった。


マルセラが低く言った。


「レオン」


「嫌です」


「私はまだ何も言ってない」


「聞いても嫌でしょう」


彼女の口元がほんの少し動いた。


「それでも聞いて」


レオンはついに口をつぐんだ。


マルセラは一度大きく息を吸った。


「あなたは当たっていた」


静かだった。


けれどその静けさが、かえって鋭かった。


「私はいつも、最後の一歩を他人に渡していた」


彼女が言った。


「だからここまで来た」


レオンの目がほんの少し揺れた。


マルセラはあざ笑わなかった。


ただ、とても澄んだ顔で、自分の傷を自分の指で押してみる人のように言っただけだ。


「今回は私がやる」


その言葉の後に、もう言い訳はなかった。


アデリアが短く手を上げた。


「やる」


その一言で、廊下の空気がまた動いた。


セラが一歩近づいた。


剣先が閃き、縄の一つを切った。


マルセラの右手だけが解けた。


代わりに左手と腰、足はそのまま縛られていた。


エリンはすぐに、その解けた手首の上へ青い線を一本巻いた。


線は手の甲を伝って手首の内側へ入り、また首の後ろの呪術まで繋がった。


マルセラが短く息を飲んだ。


「熱いわね」


「当然よ」


エリンが歯を食いしばった。


「あなたの肉の中に埋まったものを逆立てているの」


「楽なわけがない」


マヤが床の金属片の一つを蹴り出すようにして、レオンのほうへ送った。


「これ」


壊れた封印ピンだった。


死んだ手先の椅子を固定する時に使った金属ピン。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ