第123話
それどころか、遺体を覆う封印布の下から覗いた細い金属ピンまで。
光るもの、映るもの、擦れて艶の出たものはすべて門になった。
灰色手袋の声が、建物全体から響くように降りてきた。
「よく持ちこたえておいでですね」
マルセラへ向けた言葉だった。
「それでも結局は、ここまでです」
セラの剣が先に閃いた。
最初に出てきた手首の一つが空中で断たれた。
切断面から血は飛ばず、黒い水だけが細く流れた。
マヤが階段の手すりの上で身をひねり、受付室側の廊下天井にはめ込まれていた金属灯を矢で砕いた。
リナは下へ転がってきた小さな手鏡を鈍器で潰した。
だが、手は出続けた。
正門と上階の襲撃は囮だった。
本当の切っ先は下だった。
マルセラを狙った、あるいは彼女を囲む全員を揺さぶり、結局門を開かせる形の襲撃。
アデリアが歯を食いしばった。
「地下に人員をもっと下ろせ!」
上階のどこかから「向かっています!」
という返事が聞こえた。
その間に、黒い手の一つが拘留室の格子の隙間から潜り込んだ。
レオンは思ったより先に動いていた。
体をひねって肩で扉を押し、腕を差し込むようにぶつかった。
黒い爪のようなものが、彼の袖を深く裂いた。
ちりつく熱が続いた。
【被撃判定】
【致命傷ではありません】
【使用者状態:苛立ち増加】
レオンは歯を食いしばった。
「痛いですね」
「かなり」
マルセラは拘留室の中でそれを見た。
正確に、あまりに正確に。
この男は相変わらず見栄えがしない。
怪我した体で優雅に戦うわけでもなく、剣術が稲妻のように流れるわけでもない。
押し、ひねり、割り込み、喰らい、また耐える。
まるで誰かが投げる刃の前に、まず体から差し出す人間のようだ。
なのにその滑稽な足掻きの一つ一つが、本当に自分へ向かう刃を防いでいた。
彼女のために。
いや。
自分の目の前で誰かがあんなふうに死ぬことに耐えられないから。
その事実が、奇妙にさらに残酷だった。
灰色手袋の手が二つ同時に飛び出した。
一つはマルセラの首を、もう一つはレオンの膝を狙った。
セラが内側の手を斬った。
外側は、レオンが避けようとして半拍遅れた。
膝が折れた。
体が下へ傾いた。
よくない。
本当に。
その刹那を、灰色手袋が見逃すはずがなかった。
濡れた床の隙間一つが、突然長く裂けた。
黒い手が下からまっすぐ噴き上がった。
今度は手ではなかった。
ほとんど腕全体だった。
灰色の手袋の端まではっきりしていた。
それがレオンの首とマルセラを同時に引っ掛けて持ち上げるように掴もうとした。
レオンは体を投げ出した。
投げたというより、ほとんど倒れた。
しかし角度は合っていた。
彼はマルセラと黒い腕の間に、自分の肩を差し込んだ。
腕が彼の首筋をかすめた。
息が詰まった。
目の前が一瞬白くなった。
マルセラが息を飲んだ。
セラが今度は本当に低く悪態をついた。
剣が突き下ろされた。
リナの鈍器が側面から叩き込まれた。
エリンの封印線が腕の上を巻いた。
マヤの短剣の一本が、灰色手袋の手の甲を真正面から刺した。
ちん。
ガラスでも鉄でもない音。
黒い腕がねじれた。
それでも、最後まで完全には折れなかった。
灰色手袋の声が低く沈んだ。
「なぜそこまでなさるのですか」
レオンは荒い息の合間に、やっと笑った。
「おそらく、あなたが一番嫌う答えでしょうね」
「おっしゃってみてください」
レオンは割れた呼吸の間から言った。
「目の前であんなふうに死ぬ姿は……誰だって嫌ですから」
けれどその言葉は、マルセラのほうへは奇妙に長く届いた。
彼女は縛られた手首を強く握った。
手の甲の上で、古く固まった傷跡が白く浮き上がった。
嫌だ。
本当に嫌だ。
灰色手袋の手にまた掴まることも、あの男が自分を庇ってあんな目に遭うことも、結局自分が何もしないまま他人の血をまた見ていることも。
全部嫌だ。
死ぬのも嫌で、生きるのも嫌で、救われるのも嫌だ。
それでもあんなふうに、他人が足掻いてやっと繋ぎ止めた命のように残るのは、もっと嫌だった。
灰色手袋がまたささやいた。
今度は違った。
柔らかかった。
柔らかすぎて、なおさら吐き気がした。
「マルセラ」
「今からでもお戻りなさい」
「おとなしく戻れば、生かして差し上げます」
レオンはほとんど乾いた笑いを漏らした。
「その言葉を信じると思いますか」
直後、黒い線の一本が彼の頬を浅く裂いた。
血が細く流れた。
マルセラはその血を見た。
そして同時に、ついさっきの光景が頭の中でまた蘇った。
椅子に縛られたまま、内側から黒く崩れ落ちていった手先。
口もまともに開けず、悲鳴も上げられないまま、残ったのは黒い灰だけだった死。
あれが灰色眼球会の言う「生かしておく」の果てだ。
次に浮かんだのはレオンだった。
湿った息の合間に、少しも退かなかったあの声。
実際には、人を殺したことがないでしょう?
拷問には慣れているのでしょう。
脅すことも、痛めつけることも。
けれど最後の線は、いつも他人に任せていたように見えます。
そしてその後に続いた、さらに癪に障り、さらに正確な一言。
当たりましたね。
マルセラは目を閉じてから開けた。
そう。
それは痛かった。
刃先よりも。
自分が最後まで自分で越えられなかった線を、あの男は縛られたままでも見ていた。
次に浮かんだのはセラだった。
刃を合わせたままでも一寸も揺らがなかった、あの冷たく端正な声。
お前はいつも最後の瞬間に、他人の力を借りた。
それは不思議なほど深く刺さった。




