第122話
だが、その死は一人では死ななかった。
廊下にいた全員の頭の中に、少しずつ貼り付いた。
リナはその夜、初めてパンを追加で求めなかった。
マヤは笑わず、エリンは指先の震えを隠すように手をさらに強く握り込み、アデリアは紙を畳む手に力が入った。
セラはさらに静かになった。
レオンもすぐには言葉が出なかった。
鼻先に、呪いが焼けた匂いが残っていた。
人一人が口の中から崩れていく光景は、どう見ても慣れられる種類のものではなかった。
そこでようやく、彼の目の前に文言が浮かんだ。
【状況更新】
【敵捕虜一名死亡】
【死因:内部沈黙呪い発動】
【個人的感想:凄惨ですね。本当に】
レオンはその文言を見て、とても小さくつぶやいた。
「はい」
「それは私にも分かります」
上階のどこかで、紙をめくる音がした。
都市はまだ眠っていなかった。
ギルドはなおさらだ。
そしてこの夜は、口を開き始めた人間と、口も開けずに死んだ人間を同時に残したまま、まだ終わっていない顔で流れ続けていた。
ギルドは本来、夜に静かな建物ではない。
昼は依頼人と受付員と冒険者たちの声が天井まで満ち、夜になればその騒音が酒気と疲労といびきへ形を変えるだけだ。
誰かは遅く戻って装備を下ろし、誰かは早朝出発を前に縄を巻き直し、誰かは怪我した腕を押さえて悪態をつく。
ギルドは静かな聖堂ではなく、常に誰かが生きて動いている共同の炉端に近かった。
だが、今は違った。
地下の拘留室前の廊下まで、建物全体が息を潜めていた。
静かだからではなく、もうすぐ大きく揺れると分かっているから。
その予感はいつも、外れない。
最初に鳴ったのは鐘だった。
かん。
ギルド正門の上に掛かった小さな警戒鐘。
誰かが引いて鳴らしたのではなく、紐を刃で切って弾いたような音だった。
続いて上階で、扉がぶつかる轟音が弾けた。
誰かが叫んだ。
窓が割れる音が重なった。
階段上の埃が一気にばらばらと落ちてきた。
リナが先に反応した。
「来た!」
マヤはもう動いていた。
彼女は廊下の壁を蹴って跳び上がるように、階段数段を一気に駆け上がった。
尻尾が空気を切って、ひゅっと揺れた。
アデリアは一拍も遅れなかった。
「玄関、受付室、装備庫の三つに割った」
彼女の声は冷たく沈んでいた。
「信徒が前」
「後ろには手先どもが付いているはずだ」
「セラ、下は維持」
「マヤ、上階の目」
「リナ、階段死守」
「エリン、反射面から減らせ」
短く、正確で、一度に絵が見える命令だった。
セラはうなずくだけだった。
「レオン」
彼女が呼んだ。
レオンはすでに立ち上がっていた。
痛い。
よくない。
本当に。
だがこういう夜に、体調が意見を出す余地はない。
「はい」
「扉の前」
「予想していました」
その返事が終わる前に、受付室のほうで誰かが悲鳴を上げた。
それは戸惑った声というより、突然火が肌の近くに触れた時に出る短く荒い声だった。
煙の匂いがごく薄く混ざって降りてきた。
エリンが悪態を飲み込んだ。
「火まで使うの?」
アデリアが切るように言った。
「大きくは燃え広がらない」
「煙幕が目的だ」
その通りだった。
煙の匂いはあるが、まだ熱は深く下りてきていない。
上を制圧するより、視線と足を縛るやり方。
灰色眼球会らしい。
いつも殺すだけではなく、その死と恐怖をどう使うかまで一緒に計算する連中。
拘留室の中で、マルセラがごく低く言った。
「大がかりに来たわね」
レオンは扉の外から彼女をちらりと見た。
「嬉しそうには見えませんね」
マルセラはあざ笑わなかった。
代わりに、薄くこわばった顔で、拘留室の扉の隙間越しの闇だけを見ていた。
「この規模なら、助けに来たわけじゃない」
「それは私にも分かります」
「建物ごと揺さぶって、口を開く前に殺すつもりでしょうね」
レオンは一瞬沈黙した。
その通りだ。
今のこの襲撃は、マルセラ一人をこっそり消して終わるほどおとなしくない。
正門を叩き、窓を割り、煙幕を入れ、信徒たちを消耗品のように投げ込む。
それはつまり、死んでも構わない盤面だという意味だ。
この建物の中で誰が何人倒れても、向こうは得るものが大きいと考えているという意味だ。
よくない。
かなり。
廊下の上のほうで、リナの叫びがまた響いた。
「階段一つ空いた!」
「いや、空いたっていうより一人飛んだ!」
すぐにマヤの声が続いた。
「リナ、笑わない!」
「まだ二人いる!」
「笑ってないって!」
「今の声、完全に笑ってるって!」
こんな状況でも二人はそんなことを言う。
いい。
妙な安心感がある。
だが、その安心が落ち着く前に、拘留室の壁に掛かった鉄輪の一つが細く鳴った。
ちゃりん。
とても小さな音。
レオンの背筋が先に冷たくなった。
彼の目の前に文言が浮かんだ。
【異常感知】
【反射面ではありません。金属共鳴反応】
【個人的感想:はい。また来ましたね】
エリンも同時に、はっと顔を向けた。
「セラ!」
遅かった。
鉄輪の表面が、濡れた眼球のように黒く広がった。
その中から指四本が先に飛び出した。
長く痩せた、灰色の手袋をはめた手。
今回は一つではなかった。
鉄輪。
床に落ちた壊れたバックル。
レオンの椅子の脚先にはめ込まれた真鍮飾り。
アデリアの腰の鉄製印章。




