第121話
短い問い。
だが、拘留室の空気が一気に沈んだ。
マルセラは最初、答えなかった。
遺体のほうを一度見た。
黒い灰が残っている床。
首が折れたまま椅子に縛られた手先。
まだ鼻先に残る呪いの匂い。
そしてまたレオンを見た。
レオンは扉の前に立っていた。
まだ痛くて死にそうな顔をしているのに、逃げてはいなかった。
言葉も発している。
そして、あの手先があんなふうに死ぬのを見ても目を逸らさなかった。
マルセラはその顔を少し見つめてから、唇を噛んだ。
「……少しは」
とても小さかった。
だが、全員に聞こえた。
リナがすぐに目を見開き、マヤは顔をほんの少し上げた。
アデリアは紙を構える準備をした。
セラだけは何も言わず、そのまま立っていた。
エリンだけが違った。
彼女はマルセラの首の後ろに指先をかなり近づけたまま、青い光の一本を細く掛けていた。
マルセラが口を開くたびに、その光は糸くずのように震えた。
呼吸が整っている時は静かだったが、ある言葉に近づくたびに、青い線の下で暗い脈が不意に息づいた。
エリンが低く言った。
「ゆっくり話して」
「私が止めたら、すぐ止まりなさい」
マルセラが眉をひそめた。
「あなたが何を――」
「黙って」
「今は私の言うことを聞きなさい」
エリンの声は短く、冷たかった。
「あなたの首の後ろの呪術が動く筋を見ているの」
「あなたが感じられなくても、こちらには見える」
マルセラの顔がごくわずかにこわばった。
今度は反論しなかった。
レオンは内心思った。
いい。
これで本当に始まりだな。
マルセラが低く言葉を続けた。
「私が知っているのは全部じゃない」
「灰色手袋も全部ではなかった」
「上にもう一ついる……」
「いや、一つで終わらないかも……」
マルセラの首の後ろ、青い線の下で、黒い脈が一度ごぼりと浮かんだ。
エリンが即座に断ち切った。
「黙って」
「そこから先へ深く入らないで」
マルセラは歯を食いしばり、息を吐いた。
今の自分の言葉が喉の奥のどこかをかすめたのだと、ようやく体で悟ったような顔だった。
アデリアがすぐに尋ねた。
「名前」
「知らない」
「呼び名」
マルセラは一度息を飲んだ。
「聞いたことはある」
「本当の名前は……」
マルセラがその言葉に触れた瞬間、青い線の下の黒い脈がさらに濃くなった。
エリンが反射的に手を上げて止めた。
「黙って」
「名前のほうには触れないで」
彼女は目も離さないまま付け加えた。
「呼び名だけに回して」
「その下は、今すぐ食い破ってくる」
マルセラは呼吸を整えながら歯を食いしばった。
「……皆は『目を開かせる方々』とだけ呼んでいた」
リナが顔をしかめた。
「気色悪い」
「それから……」
マルセラの声が少しさらに割れた。
エリンの指先の青い光がまた一度震えた。
「彼らが望んでいるのは国一つじゃない」
「灰色手袋はそう言っていた」
「王が替わって、旗が替わる程度では足りないと」
「世界が明るすぎて、境界が固すぎると」
「夜がもう一度、上へ昇らなければならないと」
今度はエリンが止めなかった。
代わりに、彼女の目つきがさらに細くなった。
まだ線は越えていないという意味だった。
つい先ほどの死とはまた違う冷たさが降りた。
レオンは背中に冷や汗が流れるのを感じた。
アデリアは紙に何かをとても短く書きつけた。
セラは初めてマルセラから視線を外し、レオンとアデリアを交互に見た。
マヤが低くつぶやいた。
「は」
「やっぱり小さく遊ぶつもりじゃなかったね」
エリンは苦々しく口元を下げた。
「だから人も封印も都市も、全部材料ってわけね」
マルセラは目を閉じてから開けた。
彼女の声は、ほとんど床を這っていた。
「あの手先……」
「あれも見せるつもりだった」
「私に」
「口を開けばああなると」
レオンがとても静かに言った。
「それでも話しますか」
マルセラが彼を見た。
今度はあざ笑わなかった。
代わりに、とても奇妙な表情をした。
笑いたいのに笑う力もなく、泣きたいのに泣くのはもっと嫌な人間の顔。
「嫌よ」
彼女の言葉は低く、短かった。
「死ぬのも嫌だし、話すのも嫌」
「でも、ああやって死ぬのはもっと嫌」
レオンはそれを聞いて、とても短くうなずいた。
いい。
それは分かる。
本当に。
人は誰に対しても善良でなくていい。
裏切ることもあるし、刃を突きつけることもあるし、憎しみを抱くこともある。
それでも、口封じのように、内側から噛み砕かれて死ぬ姿は。
それは嫌だ。
誰にとっても。
だからレオンはマルセラをそれ以上哀れみもしなければ、それ以上憎みもしなかった。
ただ言った。
「では、生きてください」
マルセラの目が揺れた。
レオンは肋骨を押さえたまま笑った。
「話はその後です。少なくとも、向こうの望む形では死ぬべきではないでしょう」
拘留室の中が、一瞬静かになった。
セラがごく短くレオンのほうを見た。
それはよく言ったという意味かもしれないし、また余計な口を挟んだという意味かもしれなかった。
いつものように半々だった。
だがマルセラはその言葉を聞いて、ついに視線を逸らせなかった。
外の廊下には、まだ黒い灰の匂いが残っていた。
遺体は椅子に縛られたまま、自分の最後の表情を消せない顔で固まっていた。
通風口側の壁面では、エリンが重ねた封印線が青く震えていた。
ギルドの地下で、たった今死んだ男は一人だった。




