第109話
彼の手が水路の壁面の標識を一つかすめた。
瞬間、石造りの壁面が低く鳴った。
よくない。
レオンはそれを見た瞬間、すぐにわかった。
これは崩すつもりだ。
水路の入口を潰すか、水路を破って時間を稼ぐか、そのどちらか。
レオンは口を開きかけた。
それより先にセラが振り返った。
「エリン!」
エリンもすでに動いていた。
彼女は杖を床に突き立てた。
青い光が水路の入口の床に沿って、蜘蛛の巣のように広がった。
「保って。」
「保って、保って……」
「くそ、古い石組みの術式まで重ねてある!」
灰色手袋はその隙に、後ろへ滑るように退いた。
マヤの矢が二本連続で飛んだ。
一本目は肩を掠めた。
二本目はマントの裾を壁に縫いつけた。
だが完全には止められなかった。
灰色手袋はわざとマントを脱ぎ捨て、水路の内側へさらに退いた。
本当に憎らしいほど用意された後退だった。
リナが歯を食いしばった。
「あいつを捕まえて!」
リナが飛び込もうとした瞬間、水路の天井の一部がごろごろと崩れ落ちた。
エリンの冷気が防いでいたおかげで全部ではなかったが、人一人がすぐに通るには十分に悪い量だった。
石と黒い水、冷気と埃が一度に混ざり、視界を遮った。
灰色手袋の声が、その向こうから最後に聞こえた。
「生還者。」
「次はもっと深い場所で会いましょう。」
レオンは顔をしかめた。
「嫌です。」
誰も笑わなかった。
そんな余裕がなかった。
ただ、マヤがすぐ次の矢を射ち、闇の中で短い呻き声がしたところを見ると、完全に無傷で逃げたわけではないらしかった。
いい。
半分でも引っかいたならありがたい。
水路の入口が完全に塞がる前に、セラが先に言い切った。
「追撃中止。」
リナがすぐに反発した。
「なんで!」
「ここがさらに崩れたら、レオンも、私たちも全員下敷きになる。」
「まず回収だ!」
その判断は正しかった。
リナの顔はまだまったく納得していない表情だったが、それでも止まった。
彼女が本気で怒った時にもっと怖い理由は、怒っていても味方の言葉は聞くという点だった。
そしてその間セラは、剣先を少しも下げないままマルセラを睨んでいた。
マルセラは壁にもたれて荒く息をした。
手首は痣になっており、腹部はさっき膝を食らったせいでまともに伸ばすこともできなかった。
それでも目の色だけはまだ生きていた。
最後まで諦めない種類の毒気。
だが、もうわかる。
その毒気は今、刃先より短い。
セラが言った。
「縛れ。」
リナがすぐに近づいた。
とても嬉しそうな顔ではなかった。
むしろ反対だった。
「私、この人嫌い。」
「知っている。」
「すごく嫌い。」
「わかっている。」
「少し強く縛ってもいい?」
エリンが口を挟んだ。
「生きている程度にね。」
リナは不満そうな表情で、マルセラの両手を後ろへ折って縛った。
本当に生かしておく程度に、ちょうどその線まで。
それがかえって余計に腹立たしいというように、彼女は口を尖らせた。
マルセラは最後まで笑おうとした。
だが今度は、笑いがうまく張り付かなかった。
セラがそれを見下ろし、最後に言った。
「お前が知っていることはすべて聞く。」
その一言に、マルセラの目の色がほんの一瞬揺れた。
それは恐怖というより、予感のようなものだった。
これから自分が握っていた秘密が、もう自分の武器ではなくなるという予感。
そしてその頃、レオンはようやく壁にもたれて座っていた。
彼は少し考えた。
肋骨は痛い。
首もひりつく。
手首はめちゃくちゃだ。
痛覚増幅の呪術もまだ完全には抜けていない。
そのうえ少し前にはまた体を投げ出した。
だから客観的には、まったく大丈夫ではない。
だがセラがここにいて、
マヤが上からまだ矢を測っていて、
エリンが水路の崩落を防ぎながら苛立っていて、
リナがマルセラを縛りながら睨んでいる。
なら、まあ。
自分の基準では。
「はい。」
レオンは笑った。
「思ったよりかなり。」
エリンが振り返りもせずに言い放った。
「戯言を言う気力があるなら死なない。」
「それは正しいですね。」
セラがそちらへ来た。
彼女はしばらく何も言わず、レオンを見た。
濡れた髪。
首の浅い傷。
裂けた手首。
めちゃくちゃなベルト。
床に転がる拘束具。
そして無理にでも笑っている表情。
セラの目の色がほんの一瞬、本当にほんの一瞬揺れた。
怒りではなく。
それよりもっと静かな何かで。
彼女は片膝をつき、レオンの前に座った。
そして短く言った。
「遅れた。」
レオンは目を瞬かせた。
その言葉は意外だった。
彼女が謝るとは思っていなかったからだ。
だから彼はすぐに首を振った。
「違います。」
息を整え、また笑った。
「むしろかなり早かったです。」
「私の予想より。」
セラが手を伸ばした。
その手がレオンの濡れた髪を一度、かき上げた。
ごく短く。
本当に短く。
だが温かかった。
「それでも。」
彼女が言った。
「次はもっと早く行くことにしよう。」
レオンはその言葉が嬉しくて、今度は本当に笑った。
「いいですね。」
リナが後ろで鼻をすすりながら叫んだ。
「何がいいの!」
「次は誘拐なんてされないで!」
マヤが屋根の上から下りてきながらぼやいた。
「そうだよ。」
「探す側も体力を使うんだから。」
エリンは水路の入口を凍らせたまま、振り返りもせずに言った。
「次は位置を追跡しやすいように、何かもっと落として。」
「刃物じゃなくて。」
「もっと確実なものを。」
セラが短くまとめた。




