第107話
リナが敷居のすぐ後ろで低く唸った。
「うわ。」
「本当にクズ。」
マヤも扉の外のどこか、右側の高い角度から矢を構えていた。
「セラ。」
「言うだけでいい。」
「手の甲でも目でも、すぐ射抜いてあげる。」
エリンは壊れた扉枠の片側で手を広げており、指先には淡い青い光が宿っていた。
彼女は呪術防御と冷気固定を同時に準備していた。
全員準備できている。
いい。
なら、もっといい。
マルセラの刃先が震えた。
本当にほんの少し。
彼女は灰色手袋の命令を聞き、セラの視線を受け、レオンの笑みを見ていて、結局選ばなければならなかった。
そしてまさにその選択の直前に、
レオンが先に動いた。
ありったけの力で。
体全体を。
彼は右手で、ほとんど切れかけていた腰ベルトを引きちぎった。
ぷつり。
革が切れた。
瞬間、上半身が自由になった。
もちろん足首は縛られており、左手も椅子の脚に残っていた。
だが上半身が自由になれば話は変わる。
レオンはマルセラが反応する前に、自分の首を狙う手首を、両手ではなく片手と肩で押しのけた。
きちんと決まった技ではなかった。
肋骨が痛み、右手の力も戻りきっていなかった。
代わりに角度だけは正確だった。
刃先が首を掠めて外れた。
ちくり。
今度は線が少し長かった。
それでも深くはなかった。
いい。
生きた。
そしてその隙に、レオンは体をひねってマルセラのほうへ体当たりした。
本当に見苦しい姿勢だった。
椅子の半分をぶら下げたまま、濡れた服と折れかけの肋骨を抱え、足首を縛られたまま横へ転げるように突っ込む格好。
だがマルセラはそれを一番嫌った。
予測できないから。
どん。
レオンの肩がマルセラの下腹部をまともに打ちつけた。
彼女の息が一度、ぐっと詰まった。
刃が手から滑った。
床へ落ちはしなかった。
だが握りが緩んだ。
その瞬間、セラが動いた。
たった一歩。
その一歩が、部屋の中のすべての距離感を無意味にした。
剣がひらめいた。
マルセラは本能的に刃をもう一度引き上げ、防ごうとした。
しかし遅かった。
セラの剣は彼女を斬らなかった。
代わりに手首の内側、腱と柄が交わる最も嫌な地点を正確に叩いた。
かん。
短く、乾いた音。
マルセラの手から刃が完全に弾き飛ばされた。
すぐにセラの左手がレオンの肩を引き寄せた。
後ろへ。
安全なほうへ。
まだ完全に安全ではなかったが、少なくともマルセラの腕の内側ではなかった。
マルセラは一歩下がった。
そしてセラは、その一歩さえ許さなかった。
剣が再び入った。
低く、短く、速く。
マルセラは素手で体を反らして避け、腰の別の短剣を抜いた。
今度は侍従長の動きではなく、北部の応接室の裏で見た陰った殺意だった。
だがセラは、もう彼女に話す時間を与えなかった。
二人の距離が一瞬で詰まった。
金属がぶつかった。
きん。
マルセラは速いほうだった。
いや、弱者が強者を長く相手にするために身につけた種類の速さだった。
力では無理だから角度をずらし、正面では無理だから手首を掠め、刃先で少しずつ切って血を重ねるやり方。
北部でも彼女はいつもそう戦っていた。
だが今のセラは、そんな小技をすべて前もって知っているという表情で動いていた。
一本目の短剣は弾いた。
二本目は身を引く代わりに、さらに内側へ入って防いだ。
三本目はわざと肩を差し出すように誘い、その空いた手首を剣の背で打ちつけた。
マルセラの右腕が大きく反り返った。
セラの膝がそのまま腹部へめり込んだ。
どすっ。
マルセラが息を飲み、後ろへ下がった。
レオンは床に座り込んだまま、その光景を見た。
うわ。
怒ったセラが静かな理由を、これで敵もわかっただろうな。
怖がる暇もなく殴られるから。
その瞬間、上階のほうから灰色手袋が自ら下りてきた。
彼はもはや後ろで操る表情ではなかった。
計算が外れた者の表情だった。
だからといって崩れたわけではなかった。
むしろ、さらに冷たく、さらに危険だった。
彼の手には黒い結晶片がさらに二つ握られていた。
さっきレオンに突きつけた残りかすと似たもの。
エリンがそれを見て、すぐに罵った。
「投げたら殺す!」
灰色手袋がふっと笑った。
「今すぐ殺すつもりはありません。」
「ここにいる全員が少し壊れてくれればいいだけです。」
彼は手首をひねった。
黒い結晶二つが宙に散った。
同時に部屋の空気が押さえつけられた。
光が濁った。
レオンの耳の奥で、また古い笑い声が湧き上がった。
今度は盗賊穴だけではなかった。
北部の礼拝堂の赤い脈動、応接室の血の匂い、名前のなかった頃の縄の跡、突然落とされた世界、そのすべてが混ざり合ったまま視界の端を擦った。
リナがすぐに悪態をついた。
「うえっ。」
「気持ち悪い!」
マヤは目をしかめながら弓弦を引いた。
「呪術片のほうだな。」
「エリン!」
「わかってる!」
エリンの杖先が青くひらめいた。
彼女は部屋の床の排水溝に沿って指を撫で上げた。
すると細い氷の線が、黒い気配より先に部屋を横切った。
ただ凍らせるのではなかった。
流れを断つやり方。
部屋の中に放たれた呪いの気配が一方に集まれないよう道を分け、互いにぶつからせた。
じじっ。




