第104話
少しして、倉庫の内側のどこかで短い罵声が弾けた。
監視用術式が逆に噛みついたという意味だった。
エリンが鼻で笑った。
「いい。」
「今日は君たちがやられる番だよ。」
そしてセラは、すでに中にいた。
正門を破って入ったわけでもなく、正門脇の騒ぎに視線を奪われた隙をついて、倉庫の右の外壁をよじ登り、割れた換気窓から入り込んだ。
彼女の動きは光より闇に近かった。
朝が明けてくるのに、セラだけは暗いほうの速度で動いていた。
音もなく、ためらいもなかった。
ただ目的地だけがあった。
レオンを連れて帰る。
その一文だけで、彼女の体全体が稼働しているようだった。
二階の作業台の上には見張りが一人いた。
彼は下の正門の騒ぎのほうへ顔を向けていた。
背後からセラが近づいたことに気づかなかった。
セラは剣を抜かなかった。
ただ手で彼の口を塞ぎ、もう一方の手で顎下を持ち上げた。
男の体が一瞬びくりと揺れ、すぐに力が抜けた。
音もなく。
きれいに。
セラは彼を木の作業台の裏に寝かせ、そのまま奥の階段へ向かった。
階段の下から湿った気配が上がってきた。
染料の匂い。
石の匂い。
そして、ごくかすかだが。
血の匂い。
その瞬間、セラの足取りがさらに速くなった。
一方、地下室では、マルセラの手が腰のベルトの輪に触れていた。
レオンは浅く息を吸い込んだ。
今すぐ手首を抜くのは難しい。
だが一つくらいは台無しにする。
それが大事だ。
マルセラはベルトをほどきながら冷たく言った。
「動かないでください。」
レオンはすぐに答えた。
「動けるならとっくに動いています。黙っていろ、というのは考えておきます。」
本当にむかつくほど変わらない返事だった。
マルセラの眉が一度ぴくりと動いた。
いい。
また引っかいた。
レオンはその隙に手首をもう一度ひねった。
さっきごくわずかに歪んだ金属の輪の片側が、今度は手首の骨により直接触れた。
痛い。
皮膚が擦れ、湿った血が滑るように広がった。
けれどその血のおかげで、むしろ金属と皮膚の間がほんの少し余計に遊ぶ。
いい。
ごく少し。
だが確かに。
灰色手袋が扉のほうへ向かいながら、振り返りもせずに言った。
「上は私が見ましょう。あなたはこの人を水路の入口まで引いてきてください。」
マルセラが答えた。
「わかっています。」
水路の入口。
レオンは内心、その言葉を捕まえた。
やはり川辺のほうへつながっている。
いい。
位置がさらに絞れた。
その瞬間、上階のどこかで鈍い音が響いた。
どん。
誰かが天井の上を走っている。
いや、二人だ。
一人は軽い。
一人は重い。
マヤとリナ?
いや、リナはあんなふうに天井の上を走らない。
ならマヤとセラだ。
体が先にわかった。
正確な根拠はなかった。
それでもレオンは確信した。
来た。
セラが来た。
そしてその確信は、ほどなく地下室の扉の外で起きたごく短い悲鳴につながった。
「ぐっ。」
何かが倒れる音。
マルセラの瞳が鋭く動いた。
彼女も気づいた。
時間がない。
いい。
なら今だ。
マルセラはレオンの足首側の枷からは外さなかった。
むしろ腰のベルトを締め、椅子ごと引きずりやすいように調整した。
その選択が彼女らしく、だからこそ余計に胸糞悪く、同時に今の弱点でもあった。
両方を残したまま引けば鈍くなる。
方向も大きく変えられない。
レオンは息を整え、首を少し落とした。
怖がって弱ったふり、さらに力が抜けたふり。
それは演技というより、現実の一部を少し多めに見せることに近かった。
痛くて、つらくて、息も荒い。
だから弱く見えるのは難しくない。
マルセラはそれを見て低く嘲った。
「ようやく少し人間らしくなりましたね。」
はい。
そう思うでしょう。
そのほうがいい。
彼女が椅子の後ろをつかんだ瞬間、レオンは背中の後ろの手首をありったけの力でひねった。
かちり。
今度は歪んだ輪の隙間から、手の骨の片側が半分ほど抜け出た。
ぞっとするほど痛かった。
瞬間、手全体が火傷したように熱くなった。
それでも彼は止まらなかった。
いい。
抜ける。
もう少し。
ほんの少しだけ。
マルセラはまだそれに気づいていなかった。
彼女は椅子を持ち上げて引くことに、より意識が向いていた。
外の騒ぎが大きくなるほど、この中の小さな軋みは見落としやすい。
上階ではまた何かが壊れた。
今度はリナだった。
確信できた。
それは悲鳴ではなく、構造物そのものが呻きを吐く音だったから。
どがん。
天井から埃がぼろぼろ落ちた。
マルセラが歯を食いしばった。
「無駄に速いですね。」
レオンは音もなく笑った。
「私の仲間たちは……もともと一生懸命です。」
マルセラがレオンの椅子を蹴った。
どん。
椅子の脚が横へ歪み、肋骨がまた悲鳴を上げた。
レオンの目の前が閃いた。
「うっ。」
「黙りなさい。」
「それは……」
「難しそうですね。」
彼女はすぐに手を上げ、顔を打とうとした。
まさにその時だった。
地下室の扉の上側、鉄板を打ち付けた木扉の真ん中から、矢尻が一本いきなり突き出た。
ずぶり。
向こう側から貫いて入ってきたのだ。
矢柄が震えた。
マルセラの体が固まった。
マヤだ。
扉の外のどこかで角度を測っているという意味だった。
その矢は人を射たのではなかった。
わざと扉の中央の釘の部分だけを貫いた。
脅し、塞がる動線を確認し、中に誰がいるのか反応を見ようとする矢。
本当に憎らしく、賢い仕業だった。




