第103話
そしてすぐに、建物全体がほんの少し鳴った。
だが関係なかった。
今必要なのは名前ではなく方向だから。
誰かが中へ入ってきている。
その事実一つだけで、部屋の空気はもう灰色手袋とマルセラだけのものではなかった。
半々になった。
いい。
ようやく少し、息ができる。
灰色手袋が扉のほうへ体を向け、低く言った。
「マルセラ。」
「君がこの人を引きずって上がってこい。」
マルセラが目を細めた。
「一人で?」
「できるでしょう?」
その言葉には試すような色があった。
マルセラの口元が冷たく引きつった。
「もちろん。」
いい。
すごくいいわけではないが。
少しは。
二人が一緒に張り付いている状況より、分かれるほうがましだ。
レオンは手首の輪のごくわずかな隙間をもう一度感じた。
抜けるにはまだ遠い。
それでも隙間は隙間だ。
マルセラがレオンのほうへ近づいてきた。
彼女の手が腰のベルトのほうへ下りた。
ほどくための手つきだった。
椅子に縛ったまま引いていくために調整し直す動き。
その瞬間、レオンは思った。
今すぐ脱出はできない。
ならせめて、一度は滅茶苦茶にする。
それが自分の役割だから。
そして地下室の外、川辺の霧に沈んだ倉庫地帯の上では、朝がいま刃のように薄く昇り始めていた。
街の灰色の屋根はまだ眠りから覚めきっていない獣の群れのようにうずくまっていたが、その上を横切る足音はすでに目覚めていた。
探しに来た者たちの足音。
壊しに来た者たちの足音。
そして何より、
レオンが信じている人たちの足音だった。
彼は濡れた髪の下から目を上げた。
痛い。
怖い。
ひどい。
それでも。
これからは、
やられる側だけではないはずだ。
蝋燭が揺れた。
扉の外の騒ぎがさらに近づいた。
そしてマルセラの手がベルトの輪に触れた瞬間、レオンの目の前には見慣れた文言が、くっきりと浮かび上がった。
【状況更新】
【救出勢力接近中】
【使用者、まだ拘束中】
【しかし敵も焦り始めている】
【個人的感想:いいですね。この流れなら、一つくらいは壊せます】
先に破裂したのは正門ではなかった。
屋根だった。
川辺の廃染色倉庫地帯の朝はいつもゆっくり明けるが、今回はその遅い光よりも先に矢が建物を裂いた。
水霧を抜けて飛んできた一本目の矢は、倉庫の屋根の端にもたれて立っていた見張りの襟元すぐ下を貫いた。
男は悲鳴を最後まで上げることもできず、後ろへ倒れた。
二本目の矢は、それよりさらに嫌らしかった。
屋根の上の警報用の小さな鐘綱だけを切った。
鐘は揺れたが、鳴ることはできなかった。
朝を起こすはずの金属音が、口を開けたまま喉を詰まらせた鳥のように、空中でだけ震えた。
マヤはすでに次の屋根へ移っていた。
赤い髪は霧の中で火種のように掠め、尾は均衡を取るというより機嫌を表すものに近かった。
今その尾は、ほとんど逆立っていた。
誰が見ても機嫌を損ねている様子だった。
「鐘も鳴らせずに、ずいぶん静かに逝ったね。」
彼女が低く呟いた。
次の矢が飛んだ。
ひゅっ。
窓の隙間からちょうどクロスボウを構えようとしていた者の手の甲が貫かれた。
クロスボウのボルトは見当違いの方向へ逸れ、煉瓦塀を叩いた。
煉瓦の欠片が散った。
その瞬間、下でリナが笑いもせずに言った。
「いい。」
「じゃあ私の番。」
そして本当に、倉庫の正門が弾けた。
どん。
扉を壊したと言うには、あまりにも無茶苦茶だった。
古い木扉と閂と脇柱の一部まで、一緒に折れて吹き飛んだ。
リナの鈍器が正面を殴りつけた瞬間、扉は扉であることを諦め、ただの破片になった。
腐った板と錆びた蝶番が一斉に内側へ飛び込んだ。
扉の前で踏ん張っていた灰色眼球会の警備二人は、盾を構える暇もなく薙ぎ払われた。
リナは崩れた正門の隙間から大股に踏み込みながら言った。
「いい。」
「今から少し我慢しないから。」
リナは答えると同時に鈍器を回転させた。
その動きは戦闘というより自然災害に近かった。
内側から飛び出してきた警備三人が一直線に食らった。
一人目は肩で、二人目は盾ごと、三人目は不運にも顎で。
三人とも、自分の体がなぜその方向へ飛んでいるのか理解する前に、床と柱と空の染料桶へ順番にぶつかった。
ごん。
どん。
がしゃん。
リナはその音を聞きながら、ごく短く呟いた。
「一つもすっきりしない。」
言葉はそうだったが、鈍器を握る腕にはさらに力が入っていた。
同時に倉庫の奥、染料桶が積まれた狭い通路の上へ、エリンの魔法が広がった。
青い線が空気中に薄く展開された。
倉庫地帯に敷かれていた監視用の呪術線は、本来人の目には見えない糸のようなものだった。
ところがエリンが指を二度弾くと、その糸がすべて濡れた蜘蛛の巣のように宙へ現れた。
敷居、天井梁、染料桶の取っ手、排水路の縁、板の傾斜路の下。
あちこちに掛かっていた。
誰か一人でも不用意に触れれば、内側まで即座に警報が届く構造だった。
エリンの目つきが険しく細まった。
「本当に汚い趣味だね。」
彼女は持っていた細い水晶棒を逆手に握った。
「でも、ここまでよく見えれば切るのも楽だ。」
ざくり。
彼女が一本目の線を切ると、その糸は切れた弦のように震えて消えた。
二本目は凍らせた。
三本目は、いっそ逆流させた。
呪術線が本来つながっていた内側の標識へ、逆に伝って入っていった。




