缶切り_3
カールと軍曹、そして二人の新兵他数名は突撃砲の煙幕弾による支援を受けて三階建ての建物に突入した。
先立っての突撃砲の射撃で壁は複数箇所に大穴が空いており、進入は容易だった。
カールは小銃をセミオートマチックライフルから9×19ミリ短機関銃に変えていた。これは先の手榴弾の炸裂時にストックが破損。裂けて片付けできなくなってしまったからだ。
突撃砲に発煙弾の援護を要請に走って、その時自衛用にと搭載してあったものを借りた。
「うわっ!」
ノールが転倒した。瓦礫に足を取られたようだ。表紙に脇腹をこれまた瓦礫に打ち付けてしまったらしい。呻いていた。
カールは先頭に立った。後ろには増援に来た工兵一個小隊もついている。
廊下に無防備な帝国兵が一人いた。カールを視認すると驚いて撃とうとするが銃口は地面を向いていた。銃口を敵に向けるのはあらかじめ構えていた分カールの方が早い。銃弾を浴びた兵士は目を見開いたまま死んだ。国防陸軍兵に侵入されているとは知らなかったらしい。
こういう時大事なのは速度だ。敵は自分達が建物内に侵入したことは知っていても正確な場所までは知らない。電光石火で敵を奇襲できれば寡兵をもって衆を蹴散らすことだって不可能じゃない。
カールは先頭に立って進む。先の手榴弾の炸裂の衝撃でカールは頭に血が昇っていた。無性に敵愾心に燃えていたのだ。
何が起きているのか把握しようと廊下に出て来た敵を射殺。一階及び二階の大部分を電撃が如く制圧できた。
一方で軍曹や二人の新兵とはぐれ、臨時に工兵とチームを組んでいた。
しかし三階へ登ろうとする時には敵は階段で防衛態勢を整えてしまい、迅速な制圧は望めなくなってしまった。
階段、特に開けた構造の階段での戦闘というのは非常にやり辛い。上下左右と警戒すべき箇所が多いし螺旋の中心部は全ての階から射線が通る。さらに上の階からはどんどん手榴弾が投げ込まれてくる。逆に上の階に投げ入れるのは難しい。下手をすれば自分達のいる階に落ちてきてしまうからだ。
廊下から三階へ続く階段の踊り場へ手榴弾を投げ上げる。炸裂と同時に味方が火炎放射器で踊り場を焼いた。
階段は銃声と爆発音で満たされた。銃弾で敵の頭を押さえじりじりと上り、敵の応射で下がらざるを得なくなる。
横にいた戦友が悲鳴をあげて倒れた。三階からではない。螺旋の内側近くにいたから四階、というより屋根裏の入り口から撃ち下されたのだ。
なんとか踊り場まで進んだ時、手榴弾が飛んできた。狙ったのか外したのかは分からないが、壁に当たって硬質な音を立てると跳ね返って後ろに控えている戦友の方へ転がっていった。直後に響く爆発音。悲鳴も聞こえた。
好機と思ったのか敵が突っ込んできた。だがカールは手榴弾に驚いて伏せてはいるものの、無事で短機関銃を構えている。
敵の意識は階下の味方に向いており、踊り場にいるカールへの反応は遅れた。カールもまさか突っ込んで来るとは思わず驚いたがそれでも兵士として体に染み付いた動きが引き金を引いた。
敵だったものが二つカールの足元まで転がり落ちてきた。
火炎放射兵が横に来て三階部分へ火炎放射を行う。真横で行っているから火炎の熱が肌をヒリつかせる。
火炎放射から逃れた奴がいるかもしれないと聞こえる悲鳴へ向け手榴弾を投げた。
爆発と同時に悲鳴は消え、それを合図とカールは三階へ駆け込む。敵は待ち構えていたがそこは火炎放射器と手榴弾の出番だった。火炎放射器は万能で、通路を押さえ、部屋を掃蕩する。
廊下の手前の部屋の扉から敵が撃ってきている。火炎放射兵が反撃し廊下が炎で満たされる。カールはその隙を逃さず前進、敵兵が頭を引っ込めた部屋に味方と共に手榴弾を投げ入れた。
炸裂と同時に突入。衝撃で先程のカールと同じように前後不覚に陥ってる敵兵がいた。こういった状況では狙う時間が惜しいし、狙わずとも十分当たる。腰だめで射殺。
追随してきた火炎放射兵が隣の部屋を焼き払う。帝国兵が室内から絶叫し、のたうちまわりながら転がり出てきた。すかさず射殺。手榴弾を持ってはいないようだった。
たまに炎に身を包まれながらも死なば諸共と手榴弾を持って突っ込んでくる奴がいるのだ。そうでなくても至近距離、飛び掛かられるだけでも燃え盛る敵兵は脅威だ。
悲鳴が途絶えたところで室内に入り、例えば瓦礫や家具の陰に敵が潜んでいないか確認する。燃える敵兵の死体が二つあった。
火炎放射はやられる側からすると飛び跳ねる火炎が迫ってくる。逃げ場の無い閉所では決定的な威力を発揮した。
隣室へ突入する態勢を整えているとゴトンと火炎放射兵のもとに手榴弾が転がってきた。
「あ」
死ぬ。手榴弾によってではなく、誘爆した火炎放射器の燃料タンクの火炎に呑まれて。今まで幾度も見てきたように炎が体を焼く激痛に悲鳴をあげて転げ回って、そして膨大な戦死者の一部になる。
最後の瞬間を目に焼け付かせるかの如く、全てがスローモーションに見えた。爆発する手榴弾、誘爆し、炎が迫り出してくる燃料タンク。耳を弄する轟音、伝わる衝撃波。
だが幸運にも炎がカールの元まで届くことはなかった。複数回の使用により残りの燃料が少量になっていたからだ。それでも近くにいた一人が巻き込まれた。
倒れたカールが立ち上がろうとしていると火炎が生み出した煙の奥から人が現れ、そして味方へ短機関銃で射撃し始めた。
入り口近くで炎に包まれていた味方に慈悲となる銃弾を浴びせ、カールの近くで倒れていた味方には容赦の無い銃弾を撃ち込む。
カールは筋トレの腹筋の途中のような姿勢で応戦する。数発撃ち込み敵を斃すと弾を撃ち尽くしガチン、とボルトストップがかかった。弾切れ。
そして非常にまずいことにこのタイミングでもう一人の敵兵が来ていた。同時に二人入れなかった入り口の狭さに感謝すべきだろう。
どう考えてもリロードする時間は無い。
「クソがっ!」
力任せに短機関銃を敵に向けぶん投げた。
「うわっ!?」
確かに当たったようで怯んだ。その隙を逃さず腰のベルトに挿していた拳銃を引き抜いて大雑把な狙いで引き金を引いた。開戦劈頭の丘の防衛戦での逆襲時に失敬した拳銃である。
9ミリ弾が帝国兵の太ももから首までミシンの目のように敵に突き刺さり、敵は力無くくずおれた。
肩で息をしていた。後一秒、いやコンマ数秒でも引き金を引くのが遅かったら死んでいたのは自分だった。その事実に背筋を嫌な汗が走った。
態勢を整え直したカールはいよいよ最後の部屋の制圧に取り掛かった。内部から機関銃の絶え間ない射撃音が響く。やることは変わらない。
手榴弾で敵を引っ込めさせ、銃火を交えつつ部屋に取り付く。そして工兵と頷き合いタイミングを合わせて手榴弾を部屋に投げ込み突入する。
機関銃にもたれ掛かって死んでいる敵、その側にうずくまっている瀕死の敵。瀕死の敵が何かをする前に止めを刺した。
突然、瓦礫に隠れて手榴弾から生き延びた敵が現れて先に突入した味方に横薙ぎに銃弾を浴びせた。
カールが反撃し、必死の形相の敵は瓦礫の奥へと倒れ、消えた。
部屋を制圧したことを確認すると、全身で疲労を感じて床にへたり込んだ。とてつもない疲労、特に精神的な負荷だった。
運。結局、どんなに高度な訓練を受けていようと、どんなに高度に部隊を運用しようと、戦場での生き死には運なのだ。
さっきもそうだ。瓦礫から敵が現れた時、敵に近いのは自分だった。ただ撃たれた味方が敵の正面に位置していたから撃たれたのだ。
戦争。戦争だ。果てしない疲労感がカールを襲う。喉が渇いた。ヒリつく喉を癒すために水筒をがぶ飲みした。
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