缶切り
今回はちょっと時間を戻して国防軍の反転攻勢発動前。カール・シュルツマン二等兵のお話。
少し時を遡り国防軍反攻作戦発動の少し前。
左腕を負傷したカール・シュルツマンは前線復帰に案外時間がかかってしまった。本人は軽傷だと思っていたのだが、破片のいくつかが深く刺さっていて、外科手術を受ける必要があった。そのため治療に時間を要してしまった。
望外に妻へ手紙を書く時間がとれたのは大きな喜びだった。ただ筆は中々進まなかった。元よりカールは文章の類いを書くのに慣れてない。
『私の愛しの妻へ。
いつの間にやら、すっかり盛夏を迎えたね。君と離れて数ヶ月が経ったことになる。会いたいよ。
私は元気でやっている。どこにいるのかは軍事機密だから言えないけど、とにかく元気だ。君のためなら何だって頑張れる。
何より君が心配だ。食事はとってる?君の作るスープは絶品だからまた食べたいよ。帰った日にはまずこれを作ってほしい。
それから君の写真が欲しい。新しく1つ撮って送ってくれないだろうか?
あなたの夫、カール・シュルツマン』
読み返してみればどこか四角四面というか、角ばったような感じを受ける。こう、もうちょっと優しい感じのする文章にしたかったのだが、あいにくとカールの語彙力はそこまで豊富じゃない。最終的に、これより良い文章は書けないだろうと決めて差し出した。
心温まることがあった一方、日々流れてくる戦況を切歯扼腕の思いで見ていた。
それでも反撃作戦開には間に合った。
病院を発つ前日、近場で戦友のためと大量のタバコやチョコレートといった嗜好品を買い込んだ。
退院して、カールは前線から少し下がった位置で休養をとっていた小隊に合流、原隊復帰した。
歓迎に頬が緩む一方、小隊のおよそ三分の二を占める人員はカールの知らない顔だった。
三分の二。開戦以来、それだけの人員が死傷した。カールが覚えている限りでは死者は7名。他にも四肢に深刻な傷を負い、或いは失ったのが7名。彼らは生きているが、戦場に戻ってくることはない。
酒は多く買い過ぎたかな、と思案する後ろで元気な声がした。
「ノール二等兵、着任いたしました!」
張り上げられた声に振り返れば少尉に敬礼する若い兵士がいた。見たところ20歳に達していないのではないか。赤っぽい茶髪に黒目の、空回ってるというか、上滑りというか、調子っ外れに明るい感じを受ける青年だ。
ただ良いやつなのは間違いなさそうだ。戦地では敬礼は略式だぞ、と小隊長から言われていた。
×××××
小隊は上部組織の大隊と共に深夜の内に出撃陣地に進入した。カールの横には突撃砲と呼称される車両がその体躯を横たえていた。
これは現在主力の四号戦車の一つ前のモデル、三号戦車の車体に七五ミリ長砲身砲を備え付けたモデルになる。全面装甲は最大で80ミリ。砲が車体に設置されているため戦車のように全周旋回は不可能で、射角は限られる。けれど元が歩兵に随伴し支援するための車両であるからこれで問題ない。
大隊は払暁を期して帝国軍防御線の前哨陣地として機能している高地に対し東から攻撃を仕掛ける。
カールは小隊長に体を休めておけ、と言われたが、友軍砲兵が攻撃準備射撃を兼ねた擾乱射撃を実施しており、その音のために寝られそうにはない。
それでも横になっていると、ノールともう一人の補充兵、丸メガネをかけたリュグナーは戦々恐々といった態で砲撃下にある村を見ていた。同郷で同じ駐屯地で訓練を受けた同い年らしい。
「寝ろ寝ろ。寝れなくても横になれ。疲れてちゃイザって時に力が出ないぞ」
03:30、攻撃の用意開始。突撃砲はエンジンを始動し偽装が取り払われる。歩兵は装備を着装し、小銃に弾を込める。
東の空が白み、やがて市民(常用、あるいは第三)薄明が訪れ屋外での活動に困らない明るさになった。
擾乱射撃は攻撃準備射撃に変わり烈度を増した。04:00に攻撃前進開始。着弾のために舞い上げられる砂埃のために高地の頂上付近はまったく視認できない。
砲兵の援護下に突撃砲と協働、カールら歩兵は装甲ハーフトラックに乗車し一挙に高地の全面にまで前進した。
下車、そして開戦以来の小隊長が叫ぶ。
「続け!」
高地頂上近辺から帝国兵が機関銃の射撃を始める。近くを銃弾が掠め、左側にいた戦友が機関銃で薙ぎ倒された。
カールはとにかく突撃砲の後ろに張り付いた。これで丘のふもと付近にいる限り、射界の関係でそう簡単には撃たれない。
だが突撃砲はとにかく攻撃される。それに高地を登るにつれ射界には入ってしまう。それならばとカールは高地斜面の状況を見る。至るところに擾乱、攻撃準備射撃によるクレーターができている。
隙を見てそこに飛び込んだ。ここからはクレーターを一つ一つ伝って高地を這いずり上がることになる。
次に飛び込むクレーターを定めると一気に駆け出し、倒れるように飛び込む。銃弾が頭上ギリギリを飛び越えクレーターの縁をなぞった。
すぐに頭を出すわけにもいかず、身を屈めていると後ろから戦友が二人駆けてきた。若く緊張した顔ぶりから察するに補充の新兵と思われる。
二人が飛び込む寸前、不気味でグロテスクな、肉に複数発の銃弾が喰い込む音がして片方が苦悶の表情と共に崩れ落ちた。
「よせ!」
もう一人がクレーターに引き入れようと体を晒した。今そこで味方が撃たれたのに無茶だ。案の定、背中を敵弾が貫いて寸とも動かなくなった。
頃合いを見計らって再び別のクレーターへと躍進。敵の方を覗くと空冷式の機関銃が射撃しているのが見えた。ベルトリンクが蛇のようにうねりながら絶えることなく機関銃に給弾し味方に銃弾を浴びせ続ける。無視できない。
だがカールが射撃する直前に突撃砲の射撃で敵が爆ぜた。直撃で、人体が原型を留めていられるはずはない。至近距離での射撃で耳が痛かった。
突撃砲は敵火雨注もものかわと、直射で敵の火力点を次から次へと潰していった。
後ろから低身長の、しかし熊のような体格の軍曹が新兵のノールとリュグナーの尻を蹴飛ばしながら前進してきた。
クレーターの中から小銃を構えた。狙うのはまた別の機関銃手。サイトを通して敵兵の顔が見える。一発目は射手の下の土嚢に当たった。だが狙いは悪くない。ほんの少し調整した二発目は見事敵兵に命中した。土嚢の奥へと倒れ視界から消えた。続けて機関銃手の横にいた弾薬手にも射撃し、こちらも当たった。
更に前進し、丘の頂上まであと一息というところまで来た。不意に何かが重い音を伴ってクレーターの中に転がってきた。楕円形の物体。
「手榴弾!」
咄嗟に掴んで外に放り投げる。
「カール!」
軍曹は短く毒付いた後、お返しとばかり手榴弾を用意した、ノールとリュグナーにも取り出させ、息を合わせて投擲。周囲に存在する戦友もそれに倣った。
手榴弾の炸裂を合図に敵陣へ突撃を発起、カールも軍曹も二人の新兵も腹から喊声を叫び上げながら突進した。高地に万歳の声が響く。
双方、死に物狂いで白刃を振るった。短時間だが惨烈な白兵戦の後、カール達は帝国兵を叩き出し、高地を奪取した。
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