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反斜面_4

 帝国軍の戦車複数両が撃破され、降下猟兵の50ミリ対戦車砲一門が撃破された。


 この頃東西の隆起では帝国兵は隆起にへばりつくのが精一杯といったところ。攻撃が遅々として進展しないのに憤激した西側隆起にいた一中隊長は自ら陣頭に立って突撃を発起した。無理矢理にでも突入し敵陣にくさびを打ち込み、そこを起点に敵陣を攻略しようという意図であった。


 しかし強引に過ぎた。降下猟兵は依然強力な戦闘力、特に機関銃火力を維持していた。突撃を発起した時、当該中隊はおよそ二百名の人員を有していたが、たちまちの内にこの機関銃火力に絡め取られた。


 加えて迫撃砲が突撃破砕射撃を行った。突撃破砕射撃は突撃発起した敵に降らせるもので、そのタイミングが非常にシビアでもある。戦闘の最中にありながら降下猟兵はその射撃要請に即応し見事迫撃砲弾を驟雨しゅううと降らせた。


 平均して六十メートルを前進するのに半数が死傷した。これには中隊長、その副官、三名存在する小隊長の内二名を含む。


 陣地に突入こそ果たしたが、指揮官の過半を失ったために指揮統制が崩壊、迅速な陣地深くへの突進が不可能になった。それでも帝国兵は各個に前進。


 シュタイナー大尉はこの帝国軍部隊を陣地から叩き出すべく予備として控置されていた一個小隊を投入した。


 塹壕では小銃と手榴弾の凄絶な応酬が行われた。角の向こうの敵に手榴弾を投げ、投げられ、投げ返し。散々投げ込み、角から銃だけを出しめくら撃ちをし、そうしてようやく恐る恐る角の向こうを確認する。


 小銃で良くその威力を発揮したのか小隊長、分隊長、つまり下士官以上の持つ短機関銃だった。全長が短く塹壕の中でも取り回しが容易で、かつ連射できる。


 兵の装備するセミオートマチックライフルは連射こそできないものの、一発射撃するごとにコッキングをすることなく十発射撃できる。要すれば拳銃を使用することもできた。降下猟兵は一般の歩兵と違い全員が拳銃を装備していたからだ。


 激戦の後、帝国兵は抗しきれず、また何より痛かったのは後続がなかったことだ。せっかく多大な出血を伴い楔を打ち込んだが、後続が来ず、火力と数の差で不利に陥った。その後続となるべき帝国兵も続こうとしたのだが、接近路が迫撃砲と機関銃の火力により閉塞されたたためについぞ続くことが叶わなかった。


 一部が陣地への突入を果たしながら、帝国兵は撃退された。


 失敗に終わった理由はある。根本としては降下猟兵が依然として強力な戦闘力を有していたことに尽きる。


 帝国軍側の失策としては、結果論ではあるが北側からの攻撃を指向したことだ。隆起への接近路は街道しかなく、ために東からの帝国軍部隊は街道から隆起北側まで長距離を運動する間に銃火に晒されてしまった。またこのために歩兵と戦車は分離され、さらには攻撃のタイミングが分散してしまった。戦力の逐次投入という芳しくない結果を生んでしまった。


 加えて言えば、北側は、東、西、南の全ての隆起から機関銃の射撃に晒された。たしかに隆起という地形障害こそ存在しなかったものの、機関銃火力により閉塞されやすい地形だった。


 攻撃の後、降下猟兵は東側斜面ふもとに放棄された帝国軍中戦車を発見した。どうやら斜面を行動時に滑落したと見えて、両履帯が完全に脱落していた。凄惨なことにその際兵二名を引き潰したようである。


 何より驚きだったのが、履帯以外は完全に作動する点だった。戦車兵は一切の破壊措置をとることなくこの戦車を放棄したらしかった。


 この結果、降下猟兵は戦車を固定砲台として入手した。


 ここまで奮戦している降下猟兵だが、一方で死傷者も累積し、弾薬の消費もまた激しかった。人員の損耗については、まだ危険域には達していない。一般に陣地に籠っての防御なら三割の人員だけでも保つことができる。今必要なのは弾薬、ついで医療品と食料だった。


 17:00を期して輸送機による補給物資の投下が行われる。


 「来た!来たぞ!」


 隆起の頂上で空を双眼鏡で見ていた兵が叫ぶ。釣られて何人かが東の空を見る。もっともまだ点にしか見えない。


 「あっ!?」


 その輸送機の下、地上から赤の曳光弾の束が伸びて輸送機を捉えた。複数回の射撃の後、エンジンと主翼から出火した輸送機は最後はほとんど垂直になって地面に墜落した。黒煙が湧き立ち、少し遅れて爆発音が聞こえた。


 輸送機は当然のことではあるが、対空射撃を受けて大慌てで引き返した。補給を受領できないかと危ぶまれたが、輸送機のパイロットは大きく迂回して飛んできてくれた。対空火器の種類、射程が不明な中、大変勇敢な行為だった。


 合計三機の輸送機が隆起上空で各種物資を投下した。赤や青色など、色とりどりのコンテナ、落下傘が花開く。これは地上に落下した後、周囲の景色から目立つことで回収を容易にするためだ。これは戦前、冬季演習で投下した物資のコンテナが灰色で、落下傘が白かったために雪と同化し大多数を回収できなかった戦訓に由来する。


 シュタイナー大尉は負傷兵を回り、時に自ら食事やコーヒー、タバコを与えた。この行為は統帥のための演技ではなく、戦友愛によるものだった。元よりシュタイナーは寡黙な性格だが、同時に情に厚い性分でもあった。特に降下猟兵は任務の初めからして敵地に孤立する。そのため戦友愛というものは、階級を問わず非常に強固だった。


 降下猟兵がこのようにしている頃、隆起東側の帝国軍ではある大尉が驚きと憤懣を覚えていた。


 「戦車の支援無しですって!?」


 夕闇迫る時刻に受領した攻撃命令。それだけでも驚きだが、一番は戦車の支援を受けられないことだった。


 この時、隆起東側に所在した帝国軍の焦慮には相当なものがあった。彼らからすれば、東の国防軍が攻勢を発起し、強力な打撃を連日喰らっている。常に物資の補給が必要な状態だが、街道を降下猟兵が扼しているために来ず、また負傷者の後送も不可能。


 戦車が支援が無いのも、前線へ回さざるを得ないからだ。


 代わりに大尉の指揮する中隊には装甲ハーフトラックが付与された。ただし大尉は満足していない。


 第一にハーフトラックの数が足りない。大尉は一個小隊を増強された一個中隊、二百五十名強を指揮することになるが、与えられたハーフトラックは六両。ハーフトラックは完全武装の人員十名を搭載する。合計で六十名であり、まったく不足している。


 第二に今から準備して攻撃すると薄暮攻撃になり、戦闘は夜間まで続くだろう。夜戦となれば暗い中での戦闘で混乱が生じやすく、また収めることは困難。


 そもそもからして、大尉はこの攻撃に賛成できない。二個大隊規模の強襲も失敗したというのに一個増強中隊で何を成し遂げられるというのか。仮に突入に成功し、敵陣に地歩を占めたとして後続がなければ逆襲により容易に撃滅されるのではないか?


 大尉の上官にあたる少佐もそれは承知だった。その上で少佐のさらに上が攻撃を求めていた。絶えず攻撃し、敵に損耗と圧迫を与え続けなければならない。事態はそれほどまでに切迫していた。


 そこまで言われれば大尉としても従う他ない。それでも最後に、「たとえそうだとしてもこんなの無謀ですよ!」と半ば吐き捨てるようにして少佐の元を辞した。

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