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反斜面_3

 精神は物理を超越できない。以下に統制堅固で士気旺盛と言えども、それだけで継続される砲撃、津波が如く押し寄せる帝国軍に抗することはできない。


 大尉は強力な無線を持ち込んでいたから、これによって砲兵隊を叩き潰すよう空軍に依頼することができた。


 ただこれはちょっと難事だった。敵砲兵隊の所在がわからない。おそらく105ミリ榴弾砲だろうから、自分達を中心に半径これくらい、ということまでしか判別できない。


 このような状況ではあったけれども、司令部としてもシュタイナー大尉の部隊の重要性はよく承知していたから、ともかく一個小隊四機のシュトゥルムを差し向けた。実戦に於ける砲の射程は10〜30キロメートル。航空機にとってはどうということはない距離。


 発見できれば直ちにこれを撃滅できればよく、もし発見できなかったとしても敵砲兵に脅威を与えられる。


 航空機が飛ぶ状況で砲撃を続ければ発砲炎などによってその所在を曝露してしまうから、砲兵は射撃を控えざるを得ない。


 このシュトゥルムが戦場上空に飛来した時、帝国軍砲兵はまさに攻撃準備射撃を実施していた。


 二個中隊はそれぞれ分散して配置されていたが辿った結末は似たようなものだった。


 彼らは砲撃音のために接近するシュトゥルムに丸で気が付かず、気が付いた時には既に手遅れだった。


 一個中隊が急降下爆撃に晒された。シュトゥルムは250キロ爆弾三発を懸吊していて、合計十二発、総計三トンが降り注いだ。


 砲、人員、通信、観測機材全てが一瞬にして灰燼に帰した。大地を揺るがす爆発、もうもうと天高く立ち昇る黒煙、舞上げられた土砂。そういったものが落ち着いた時、一個砲兵が展開していた陣地には鉄屑と十二個のクレーターしか存在しなかった。


 この砲兵中隊も、別の一個中隊も陣地をまったく構築していなかったために防御力が皆無だった。ただしこれは、敵空挺部隊進出の報で急遽出撃したこと、相手が空挺部隊であって対砲兵射撃の可能性がなかったこと、進出直後より射撃を求められたために致し方のない部分もあった。


 もう一つの砲兵中隊は航空機の存在に気付きやむなく射撃を中止。しかしながら距離が離れていない──少なくとも航空機の基準からすれば──ために発見された。人員は退避したが牽引式の榴弾砲までは退避させられず、機銃掃射により破壊された。

 

 15:00に帝国軍は東西で連携の取れた攻撃を発起した。各方向からそれぞれ戦車一個小隊に支援された歩兵一個大隊。


 最初に東側から攻撃し、注意を東側に引き付け、時間差で西側からも攻撃前進に移ることで橋を渡る不利を打ち消そうという時間差攻撃だった。


 これは確かに有効だった。西側から攻撃する帝国軍部隊は、迫撃砲による射撃もなく、過日よりも少ない損害で橋を渡った。


 帝国軍は、この攻撃の立案段階で初めておぼろげながら三つの隆起が相互に接続、連携された陣地であることを認識した。


 このため北側の隆起が存在しない方向から主攻をかけ、敵兵力を拘束する助攻として東、西の隆起に攻撃をかけるものとされた。


 だがこの攻撃、最初から蹉跌さてつをきたした。まず攻撃準備射撃が途中で止んだ。これは前述の通りシュトゥルムが砲兵中隊を爆撃で叩いたためであるが、このため陣地内の降下猟兵は火制下を逃れ、一部が隆起の上に陣取り接近する帝国兵に機関銃による猛射を浴びせた。


 この隆起の1キロメートル四方は完全に草原で開けており、攻撃前進する帝国兵を守る遮蔽物はなかった。だからこそ砲兵による火制が必要だった。


 この機関銃に対し戦車が主砲で反撃を行ったが、移動を優先したために射弾はバラけ、まったく命中しなかった。


 降下猟兵は戦車に狙われただけでは動揺しない。その戦車砲弾がことごとく逸れているとなれば、いささかの脅威も覚えない。


 至極冷静に射弾を送り続けた。本来は装甲兵員輸送車などを利用して陣前まで一挙に兵員を推進しなければならない地形である。


 戦車と歩兵が分離され、戦車だけが北側へ向かった。歩兵は戦車の援護無しに北側へ向かうことは不可能とまず全員が弾雨の下を駆け、あるいは匍匐し東側隆起に取り付いた。


 この頃西側の帝国軍が攻撃前進を開始した。これは降下猟兵の中尉は東と北に向いていたために事前の目論見通り上手に運んだ。


 この戦車一個小隊と歩兵一個大隊は一部が西側隆起に取り付きつつ、大部分が北へ運動した。


 この先頭の戦車が北側に達した時、既に三両の戦車が炎上していた。


 降下猟兵は東と南の隆起に対戦車砲を配置していた。このため北から接近する戦車に対して、南に配置されていた対戦車砲では撃つには距離が遠すぎた。


 けれど戦車小隊は東から西に前進していて、つまり南の対戦車砲に対して側面を晒してした。なんとも不用心だ。


 この戦車長の油断、そして攻撃を成功裏に終えることへの重圧、そういった心情が撃破につながった。


 降下猟兵に対応している帝国軍部隊は街道打通のための重圧を掛けられていた。なぜなら、前線では国防軍の攻勢が実施されており、日々毎時大量物資を消耗している。一刻も早く街道を奪回し、前線へ物資を補給しなければならなかった。


 敵戦車が側面を晒しているのを見てとった南の隆起の対戦車砲指揮官は射撃を決断した。初弾は手前に着弾。修正した二射目で命中弾を得た。これは車体弾薬庫に命中し、弾薬が誘爆した。


 後続車は大急ぎで南側に車体正面を向けた。今度は西側隆起に陣取っていた対戦車砲が射撃した。この対戦車砲は、前進してくる帝国軍戦車を斜め前に望む形になっていたため射撃を控えていた。意図せず傾斜装甲の形になっていたからだ。


 西側隆起の対戦車砲は猛射を浴びせ、一両を完全に撃破、一両のエンジンを撃ち抜き炎上、擱坐かくざさせた。


 この時西側隆起の陰から戦車二両が歩兵多数を伴って現れた。この帝国軍部隊は、北から南に、西側の隆起内側に馬乗りになるように前進した。


 西側隆起の対戦車砲は正面から敵戦車に対峙せねばならかったが、50ミリ対戦車砲では貫通力不足。それでも砲員は砲を放棄しなかった。鋼鉄のごとき自制心で任務を果たすべく踏み止まっていた。


 敵戦車の一両が停止した。歩兵から離れて突出するのを避けるため、対戦車砲を探すためと思われる。陣地を睥睨するかの如くだった。


 その隙を逃さなかった。車体正面向かって左側に存在する気銃孔を正確無比な射撃で撃ち抜いた。


 けれど、この射撃で位置を特定され戦車砲の射撃を受けた。一発目は手前に落ち、二発目は奥に飛んでいった。単に練度の問題か、もしくは陣地の輪郭を正確には把握できていないか。


 対戦車砲は果敢に撃ち返した。狙い澄ました射撃は、けれど機銃孔を僅かに逸れ砲弾は跳ねた。


 戦車からの三射目が対戦車砲に直撃し、対戦車砲を完全に破壊し、砲員六名を殺した。『誰が、というのはわからなかった。陣地内は大小様々な肉片が転がっていて、個人の判別は不可能だった。せめて寄せ集めることのできた部位を揃えて泣く泣く葬った』。この戦闘の後にある降下猟兵が書き記した惨状を呈した。


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