ハーフトラック
橋から200メートルの位置にある複数の地面の隆起。この馬蹄形を成す隆起は、底面を街道に向けている。シュタイナーはこの内側に陣地を構築し、火力を以って橋と街道を閉塞するというのがシュタイナーの作戦案だった。
最前線から40km。友軍が敵前線を突破し合流するまでの間、後方からの敵増援を拒止し、或いは前線から後退してくる敵部隊を逃さないよう街道に栓をする。
計画では早くて2日、遅くても4日以内。それから空軍の全力の援護を得られる。味方戦線まで届く強力な無線機を積載したグライダーが無事降着、無線通信により急降下爆撃でも、物資の投下も随時に頼める。
大隊は馬蹄形の内側に陣地を構築した。実のところ、シュタイナーは最低限の陣地を構築する間も無く、橋を奪回せんとする帝国軍の逆襲に遭うのではと考えていた。
というのもここから10kmほど西に離れたところに町がある。ここから帝国軍部隊がやってきて、陣地が未成のところを攻撃される可能性は大いにあった。
陣地構築開始から2時間半経っても帝国軍逆襲の気配は微塵も無い。
なぜ帝国軍は攻撃しなかったのか。まず始めに、この10km離れた町の指揮官の中佐は戦闘職種ではなく、経理の人間だった。これは町が補給拠点としての機能を持っていたからである。中佐は兵站将校であり、そのため戦闘に慣れていなかった。
さらに敵空挺部隊は1,000人規模という報告が届いた。シュタイナー大尉の大隊は300人はどだったから、およそ3倍にまで膨れ上がっている。
この誤報の原因は主に2つ。一つは報告者が空挺降下の光景に圧倒されたこと。無数に開く落下傘というのはそれだけで見るものに圧迫感を与える。しかも300人規模の空挺降下ともなれば、空の非常に広い範囲を落下傘が占めることになる。この光景が与える衝撃は強い。
2つ目にグライダーの存在。グライダーは主に自動車や銃火器を積載していたが、当然外からは何を積んでいるのかはわからない。報告者は降着地点の光景は見ていなかったから、グライダーにも兵員が乗っているものと考えて報告した。本来なら好ましくない。
しかも、報告第一報は落下傘やグライダーなどの記載が無く、ただ敵空挺部隊およそ1,000人が降下した、というものだった。
見たこと、想像が入り混じり、しかも実際に見た情報の一部が欠落するという体たらくだった。
これを受けて主計中佐は町の防禦を選んだ。町の防御を命ぜられていた歩兵中隊も同意した。
敵空挺部隊は帝国軍部隊の進退に重要な街道と、補給拠点であるこの町を占領、もしくは機能不全にすべく降下したに違いない、との判断に基づく。
実を言えばシュタイナー大尉も作戦立案段階では同様のことを考えていた。しかし、町の近くに降下に適した土地は無かった。離れた地点に降下すれば部隊を掌握し、移動する間に町を守る帝国軍は防禦体勢を整えてしまう。
それに純粋に人数が足りなかった。計画では最低でも一個歩兵大隊が存在するとされた。同規模であっても、降下猟兵の本質が軽装歩兵であることを考えると厳しい。
市街に籠る敵兵を装甲車の支援も無しに駆逐し、掃蕩するのは無茶だ。
ともかく、大隊は帝国軍のミスと勘違いのおかげで、最低限の個人用のタコツボの構築に成功した。
さらに1時間が経過し、主計中佐は何かがおかしいことに気付いた。敵空挺部隊降下の報から4時間。橋が戦闘で奪取されてから3時間。なぜ敵はその姿を一向に表さないのか。
町の四周に配置している兵士達も寸分たりとも敵の気配を感じ取っていない。
主計中佐は考える。敵の目標がこの町ではないのではないか?実のところ目標は橋の奪取だけに留まるのではないか?実際、橋というのは重要目標に違いない。
しかし1,000人も降下しておいて橋の奪取だけとは考えにくい。では奪取して、爾後この町を攻撃する?しかしそれにしては時間がかかりすぎている。
敵空挺部隊降下から、橋が攻撃されているとの無線が飛び込んでくるまで1時間。橋と降下地点との距離を考えればかなり早い時間での攻撃。
となると橋での戦闘で何か起きた?例えば指揮官が戦死したとか。もしくは警備の小隊が橋を爆破して、敵部隊は川の西側に進出できないのかもしれない。もっとも、橋からは敵襲の無線の後、一切の連絡が無いため状況は不明である。
「索敵か」
ともかく敵情を解明しなければならない。そこで中佐は橋へ向けハーフトラックを出すことにした。
前輪がタイヤ、後輪が履帯で、小銃弾、弾片防護の装甲を持ち、自衛用に12.7mm機銃を装備する。
中佐はこれを橋に差し向けた。
大隊は陣地に接近しつつあるハーフトラックを確認、対戦車砲による戦闘が下令された。
グライダーにより運び込まれた50mm対戦車砲は隆起と隆起の間に移動し、榴弾を装填の上で射撃のタイミングを待っていた。
ハーフトラックは伏撃を警戒して微速で前進している。橋はまだ戦闘の爪痕が生々しい。
大隊は陣地の構築を最優先にしているため、帝国兵の死体は最低限路外に並べられて放置されている。
砲手は任意のタイミングで射撃するよう命令されていた。街道との距離は把握しているし、至近距離のため縦の偏差は必要ない。ハーフトラックはゆっくり移動しているから横方向の偏差も大して必要ないだろう。
照準器を通し、ハーフトラックが見える。機銃が隆起の方を向いた。あちらもまたこちらの方向を警戒しているらしい。もっとも、隆起の頂点を警戒していて、隆起間を見てはいない。
対戦車砲には向いていないから慎重に狙う。三角形のレティクルの頂点をハーフトラックのエンジン部に合わせ、そして撃った。
砲炎が瞬き、砲声が轟き、射撃時の衝撃波に砂塵が巻き起こる。弾頭重量1.81kg、炸薬量17gのSprgr.38が初速550m/sで撃ち出され、狙いを寸分も誤たずハーフトラックに直撃した。
エンジンルームの、操縦席に近い部分に直撃、信管が作動し炸裂。操縦席に座っていた2人は千を優に越す破片と衝撃波により無数の肉片、血と貸し、さらに機銃を構え四周を警戒していた砲手は、上半身だけは残った。
「命中!撃ち方待て!」
対戦車砲に素早く榴弾が装填される。照準はハーブトラックの車体後部。もし生存者がいるとすればそこだ。
もっとも、ハーフトラックに乗っていた他の帝国兵も初弾で皆等しく死んでいた。エンジンからの出火は瞬く間にハーフトラックを包み込んだ。




